小僧まて(日本の昔話)
 『キンばっぱの とんとん昔があったとぉ』 左近司マサ江著 つくしんぼ企画より

かつて別所公民館のすぎのこ文庫の活動にかかわっておられ,現在も「伝承のかたりべ」として活躍しておられる左近司さんの本から語らせていただきました。左近司さんは幼少時代を雪深い新潟県で送り,毎夜,布団の中でおばあさんである「きんばっぱ」の腕に抱かれながら,昔話を聞いて育ったそうです。大人になって,子どもたちの文庫活動にかかわるようになって,突然,おばあちゃんの懐かしい声とともに「きんばっぱの昔話」がよみがえってきたのだといいます。その昔話を本にしたのが『キンばっぱの とんとん昔があったとぉ』で,浦和でお話の活動をするわたしたちの,貴重な「おはなしのテキスト」のひとつになっています。
ストーリー
山寺に働き者の小僧さんと,怠け者の小僧さんがいた。ある日和尚さんは,2人に山で栗拾いをするようにいいつけた。和尚さんは怠け者の小僧さんに働き者になってもらいたい気持ちから,穴の開いている袋を渡した。怠け者の小僧さんはいくら拾っても栗が袋にたまらない。栗を拾いつづけながら山の奥深くへ入っていった。夜になってしまったので,山奥の一軒家に泊まると,そこは人食いの鬼ばばの住家だった。それに気がついた小僧さんは,知恵を働かせて,便所にこもる。そして,便所の神さまに「働き者になる」誓いを立てて,願いがかなうお札を3枚もらって逃がしてもらう。鬼ばばは逃げた小僧さんを追いかけるが,小僧さんが投げた3枚目のお札が大きな砂山になったために,それ以上前へすすむことができなくなった。小僧さんはようやく山寺に逃げ帰り,それからは働き者になった。


有名な「三枚のお札」の昔話の1つ。一般的には,小僧を救う「三枚のお札」を小僧に渡すのは和尚だが,このお話では,何と「おトイレの神さま」。日本の昔話は「肥溜め」の香りがするというけれども,このお話はおしっこありうんちありの香り高い(?)お話でもある。
新潟弁の語り口調とともに,簡潔でテンポのよいことばが耳に心地よい。毎夜大好きなおばあちゃんの腕にだかれ,このような昔話を聞いて育った左近司さんの幸せをうらやましく思う。



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