王子様は吟遊詩人!?
 カルトアの皇太子、ジェフドは、子供の頃からそれは可愛らしかった。
 何せ「夜空に映える月の如く」と称えられた母親譲りの銀の髪と青い瞳を受け継いで、年を追うごとに似てきたため、15歳ごろには、誰もが振り返る美少年に育った。
 本人は、容姿とは裏腹に外をあちこちと飛び回ることが好きなのだが、迂闊に街中にも出られない。
 目立つ外見のおかげで、何を着ても見つけられてしまうのだ。
 貴族の服をまとっても、騎士の格好をしても、庶民の衣服であっても、駄目だった。
 いっそ、女装したほうが目立たなくて似合うかもしれないが、さすがに王子として、というより男としての誇りがあるので、できないでいる。
(ここまで、母上に似なくてもなあ。)
 時々、鏡を見て思うことがある。
 自分の顔が嫌いなわけではないが、忍び歩きにもでられないのでは、つまらない。
 性格は両親ほどおとなしくないのだから。
 ある日、側近付きとはいえ、久々に祭り見物を許され、短い時間を城外で過ごしたジェフドは、
(これだ!)
と、思う変装をひらめいた。
 城での宴の席上、招かれた役者の一座から、こっそりと衣装をわけてもらった。
 数日間、天気が良くても、部屋で読書に励むジェフドを父ルドモットと腹心のテイトは感心した。
 勉強に身を入れていたのではないと、すぐに判明したが、少なくとも、この時は思っていた。
 油断していた人間の隙を見て、ジェフドが城を抜け出したのは、まもなくである。
いなくなったジェフドを探すのは、いつもテイトの役目である。
 ジェフドは賑やかな場所が好きだ。
 大抵、大道芸人がいる大通りや公園などを、何ヶ所か回れば必ずいる。
 大体、見物人の中に紛れていても、ジェフドは見つけやすい。
 なまじ、多少の剣の腕があるから、すぐ動きたがる。
 これをテイトの責任にするのは、気の毒だ。
 馬ではないから、遠くへ行ってないはずなのに、今日はどこを探しても見当たらない。
 もう一度、ジェフドが立ち寄りそうな場所に戻る。
 公園の噴水の近くで、人だかりができている。
 どうも詩人がいるらしい。
 別に吟遊詩人は珍しくない。どこでも見かける光景だ。 
 周囲の客の中に、ジェフドらしい人影がないので、テイトは立ち去ろうとした。
 ところが、聞こえてきた、明るい良く通る声に、仰天した。
「今日はこれくらいで。皆、ありがとう!」
 竪琴を持って、歩き始めた彼を慌てて追いかける。 
 公園を出て、人気のなくなった場所へ来た時点で、テイトは急いで腕を掴んで、横道へ入った。
「なんという格好なさっているんですか!?」
「うわっ!テイト!驚かさないでくれ!」
 驚いたのはジェフドでなく、テイトだ。
 どこの国に吟遊詩人に身をやつして、城を抜け出す王子がいるというのだ……。

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〜琴の調べは波の音・・・<番外編>〜