クリスマスケーキ最前線
 某菓子パンメーカー工場内。
 洋菓子部門はまさにケーキ工房。
 12月になると、一角はクリスマスデコレーション専用となり、人呼んでデコレーション・ベルト。
 略してデコ・ベルト。
 ちなみにクリスマスの短期アルバイトはデコ・バイトである。

 ずらりと並んだ人間の前に、ベルトコンベアーに乗せられたたケーキが次々と流れてくる。
 一人がスポンジを乗せ、一人が生クリームを乗せ、一人が皿に乗せる。
 工場の大量生産、侮るなかれ!
 流れ作業とはいえ、ほとんど人の手作りだ。
 機械化されてるものは、スポンジを切る機械とベルトコンベアー。
 生クリームの塗りと絞りは、機械はほんの一部のケーキだけ。
 飾りの柊もサンタもチョコプレートも、皆手に持っている。
 一列ならまだしも、二列になると、もう大変。
 補充してる隙にケーキが行ってしまう。
 箱に入れるのも人なら、箱を折るのも人。
 頭巾のような帽子に、白衣を着た人間が黙々と立ちっぱなし。
 動けないから、足は棒、おまけに肩こり。
 一人一つの作業とは限らない。
 人手が足りない時は飾りだって二種類一人でつける。
 右手に柊、左手にサンタ。
 ちょっとからまったりすると。流れてくるケーキの速さに追いつけない。
 ふざけるんじゃない、人間、手は二本しかないんだ!
 向きが違うの、曲がってるの、見本はどこだよ。
 写真見てる暇だって、ありゃしない。
 「じゃ、こうやってね。」
 おいおい、一言で済ますな。
 昼の交替時間さえ、繁忙期はベルトコンベアーは止めない。
 作業しながら、人が入っていく。
 冬の風物詩ともいえるバイトだが、逃げ出す人も多いと聞く。
 さもありなん、慣れるまで大変だ。
 食品を扱ってるだけに、衛生管理も病院よろしく、各所に消毒用アルコール。
 出入り口には粘着ローラー。
 作業中は衛生担当の人が、時間になると消毒スプレーと粘着ローラーを持ち歩く。
 皆マスクをかけてるしか、顔が目しか見えない。
 ゴム手袋は午前と午後、使い捨て。
 はめっぱなしのため、終業時刻には指もふやけてる。
 手指にばんそうこうや傷があると、ケーキに直接触れる作業から外されてしまう。
 毎朝、スプレー持った社員が、
「しみるところありますか?」
 と確認する。
 一度配置されると、大体同じ場所。
 クリーム絞りと帯巻きと、苺乗せは目まぐるしい。
 帯巻きというのは、ケーキのまわりのシート。
 ええ、もちろん人間が巻いてます。
 巻くといえば、フルーツロールやブッシュ・ド・ノエルも手巻き!
 一本百円くらいのロールケーキはどうだかしらないが、フルーツや生クリーム製品は
 手作りと思っていい。
 クリーム塗ったり、フルーツを乗せたり、丸太模様つけたり、ココアパウダーは茶漉しかふるい。
 パテでもヘラでもなく、ゴム手でロールケーキのまわりにクリーム塗りたくる。
 そして、ゴム手ですくい上げて、シートの上に置く。
 一体誰がこんな原始的な作業をしていると想像するだろう。