たとえ女性でもダンラークでは王座に就ける。
生まれたばかりのエンリックの娘は、確かに王位継承の資格を持つ「姫」なのだ。
手元にないサファイアの宝冠が、エンリックの頭の中をよぎった。
「ティアラ…。ティアラ・サファイアにしよう!」
「この子の名前ですか。」
「そうだ。フローリア。」
愛しそうに我が子を見つめ、エンリックがゆっくりと自分の手に抱きかかえる。
「今の私には何も出来ない。だから、せめてこの名を贈ろう。ティアラ・サファイア。」
エンリックの目にティアラ・サファイアが笑いかけてくれたように見えた。
いつの日か本物の宝冠を授けよう。
フローリアにもティアラ・サファイアにも。
「宝冠の姫君ですね。素敵なお名前ですわ。」
ネルジェ夫人は涙ぐみそうになるのをこらえて言った。
本来、国中の祝福に受けている慶事のはずなのに。
あどけないティアラ・サファイアの髪が光を受けて眩しいくらい輝き、エンリックは宝冠を渡すことを思い浮かべていた。
黄金にサファイアを散りばめた宝冠を差し出してきっと言うだろう。
−お前の名前だ。ティアラ・サファイア。−
<完>
〜あとがき〜
サイト開設一周年記念の「陽だまりの庭」番外編です。
今までの番外編は後日談、もしくは本編中を書いてますが、この話は本編以前に遡り、
エンリックの最初の妻・フローリアが登場します。
そして十四歳の春にティアラ誕生。
原点という意味で「朝」の文字を入れました。
エンリックパパの親ばか人生、もとい、物語の始まりの日。
本編を思い返していただければ、嬉しいです。
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