白亜の王宮を囲むように広がる花畑と街並みの外観の美しさから、花の都と知られる。
ドルフィシェのような商業都市の賑わいはなくとも、見事に整然とした造りの都で、
何より景観が素晴らしく、各国の画家の手になる絵画も多い。
「今度、都を一望できる場所へ案内していただけますね。」
カトレアがマティスに微笑んだ。
「もちろんです。姫。」
だからこそ、春を選んだ。
光も明るく、花々に埋もれて、特に映える時季である。
一歩離れているカスパルがクラウドに言った。
「宮廷がこれほど華やか見えたことはありません。」
頭上に紫水晶にサファイア、瑠璃で彩られた宝冠が輝くカトレアに、清楚な印象をもたらす
銀の髪のパトリシア。
淑やかな雰囲気を醸し出すサミュエルの妻エミリ、金の髪が眩いばかりのティアラ。
「相変わらずダンラークの貴婦人は美女揃いのようだ。」
クラウドもティアラを迎えた頃を思い出し、笑みがこぼれる。
「足繁く諸国に通ってると思えば、目当ての姫がいると聞き、驚いたものですが…。」
カスパルは妙に納得したようだ。
「姫のような素晴らしい女性は、クリントにいないと言い張っていたのも道理です。」
「弟君の気持ちはよくわかります。」
クラウドもティアラを見初めドルフィシェに帰国した折、同じことを国の人間に言ったものだ。
「姫とダンラーク王には感謝しなくてはいけませんね。よくクリントに嫁いでくれたものです。」
実はカスパルとマティスは他国から妻を娶る事はできまいと諦めていた。
それだけクリントが縁談を持ち込むと、警戒されてしまう。
カスパルはクラウドが国を継いだ年齢より遥かに若く、性格も比較的おとなしい。
近隣諸国の奇異の眼差しに晒され、兄弟共に心穏やかでなかったのだ。
美しく溌剌としたカトレアは、まさに春の訪れを告げるような存在だった。
クリントに嫁いで尚、カトレアは「花の姫」と伝わる。
由来は夫であるマティスが長く妻を人前でさえ、「私の花の姫」と呼んでいたからに
他ならないという。
後に、カトレア・ヴァイオレットの名は、ティアラ・サファイア、パトリシアと共に比類なき
美貌の持ち主として記憶されるのである。
<完>
予定より大幅に長くなった番外編。
この「花の姫君」は「王子様は気もそぞろ」と共に、エンリックの子供達の行末として、
本編を書いていた頃から考えてました。
エンリックは泣く泣く二人の娘を嫁がせたので、ドルフィシェとクリントには夫婦仲を
探らせるための間者や密偵が潜んでいるかもしれません。
でもマティスはカトレアを見せびらかすように、連れ歩いていると思うので、多分
心配ないでしょう。(笑)
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