いかにダンラークの都が他国より健全とはいえ、盛り場くらいある。
 日が沈んでも灯のついている店は、ちゃんとあるのだ。
「乾杯〜♪」
 酒場のテーブルで、グラスを傾けるエンリックとクラウドとジェフドは上機嫌である。
 少しでも旅の余韻を楽しみたい。
 いつも側近が一緒では興がそがれてしまう。
 揃いも揃って頭が固いときたものだ。
「たまには羽のばさないと。」
 クラウドがテーブルの酒瓶に手を伸ばそうとすると、頭上から誰かが取り上げた
「散々のばしたでしょう。まだ足りないのですか。」
 呆れた声を出したのはカイルであった。
「随分、早いなー。」
「外から見えました。」
 ジェフドの言葉にテイトが返した。
 奥とはいえ窓際の席のため、姿を見かけて飛び込んできたらしい。
「立ってると目立つ。とりあえず座ったら。」
 エンリックが空いている椅子を引っ張る。
 そこそこ客はいるが、長身の人間が三人もまとまって立ちすくんでは人目につく。
「名酒の産地の領主なら、結構飲めるだろう。」
 クラウドが側にいたサミュエルの腕を掴んで、エンリックと自分の間に座らせた。
 逆らおうにも騒ぎになると困るので、今は付き合うしかない。
 何せダンラークはエンリックのお膝元。
 年に何回か民衆の前に顔を出す国王を覚えている者がいたら、身元が割れてしまう。
「マーガレットには遅くまで皆と飲むと言ってあるんだが。」
「王宮の外で、とはおっしゃってないでしょう。」
 見たところ、酌婦や娼婦がたむろしている店ではないが、それ程酒に強いわけでもないエンリックによく酒場の案内ができたものだ。
「ここは食事も出来るんだよ、昼も混んでて。」
 サミュエルは財務大臣に当分お小遣いの差し止めを頼もうかと本気で考えた。
 無駄遣いする性分でないから、余った分を繰り越して貯めているに違いない。
「テイトもたまには付き合ってもいいだろう。そんな仏頂面してないで。」
「誰のせいですか。」
 テイトは結婚前のジェフドが城を抜け出すたびに、探し回ったことが頭をよぎる。
 酒場で酔客と共に歌って騒いでいて、何度青くなった事か。
 クラウドも夜の街に出ることもあったが、大抵カイルも付き合い、夜更けになる頃、連れ帰った。
 皇太子が夜遊びのあげく、朝帰りでは体裁が悪いからである…。
 浮かれている自分達の主君に言った。
「たとえ二日酔いでも帰国の延期はしませんので。」

 翌朝、別れを惜しみつつ、クラウドとジェフドは側近と共にダンラークを後にした。
「楽しかった。皆、元気で。また会おう。」
 見送る側も見送られた側も、幸福感はここまでであった。
 それぞれ、国元で開かれた会議の席で、
「陛下!再度国王としてのご自覚を持っていただきたい!」
 散々、臣下達に絞られたのは言うまでもない。
 ちなみに当分の間ジェフドは子供達に聴かせる以外、竪琴を没収され、クラウドは私用の外出禁止。エンリックはといえば、お茶の時間なしになりかけたが、あまりに酷だということで、割り当て時間の削減にとどまった。
 
 表面上おとなしかったが、友達が出来たと喜んでいる王達がどれだけ心から反省したか定かではない…。


                               <完>




 「陽だまりの庭」と「琴の調べは波の音・・・」のパラレル番外編です。
 二つの世界が繋がっているわけではないけど、この三人が一緒に旅したら楽しそうだなーと。
 ジェフドが旅費稼いで、エンリックは留守番、クラウドは用心棒で書くつもりが、どうも食べ歩きの旅ですね。(笑)
 何とクラウド以外、食事が作れる!
 彼らの得意料理は、一体なんだろうか?
 
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