ジェフドが旅仲間を連れて戻ったので、サラティーヌも、
「私にも黙って出立なさるなんて。」
 と言ったきりだった。
 もっとも、エンリックとクラウドに放浪癖のある夫についてきた献身的な素晴らしい女性だという目で見られれば、少なくとも人前でジェフドを責められない。
 
 特に町中は目立ったところもないので、ジェフドは城の中を案内した。
 二人とも随分、珍しがりつつも熱心だった。
 堅牢な造りの城。
 攻略するには難しいだろう。
 籠城にも充分耐えられる構造だ。
 歴代の王の肖像画が城の廊下に並んでいる。
 小国と侮られるカルトアを代々守り通してきた証。
 最後に飾られているのがルドモット二世。
 武に抜きん出た王ではなくても、しっかりと重臣を束ね上げきた。
 黙っていても臣下が付いてくる、支えようとしてくれる。   
 ジェフドがエンリックを見て父を思いだす所以だ。

 瓜二つの兄妹、エルリーナとライクリフに、ジェフドとテイト以外の四人は、
「本当にそっくり。」
 幼い双子に同じ感想を持ち、ジェフドと一緒になってかまって遊んでいる。
「さすが、手馴れてるな〜。」
 子供達が物怖じしないのは、彼らの人柄がわかるからか、血のなせるわざか。
 
 エンリックを送るという理由でカルトアからダンラークへ。
 どうも一番心配されたのはエンリックらしい。
「本当によくご無事でお戻りくださいました。皆様方、大変ありがとうございました。」
 少しやつれた様子のマーガレットが深く頭を下げて、礼を述べた。
 ここでもジェフドは子供達の目を引いた。
「本当に男の人なの?」
 カトレアに訊ねられたサミュエルはジェフドに聞かれなかったかと、冷や汗ものだ。
 ダンラークまで来て、やっと国王らしい話題にもなる。
 何しろ法制度と国政のありようが独特の上、気候条件も良好のため、豊作の年が多い。
「日当たりさえ良ければ、何でも育つ。」
 というのは王宮の菜園で証明済みのエンリックの言葉である。
 不在の間は、ローレンスとアシューが手入れをしていたらしい。
「特産品多そうですね。」
 ジェフドもエンリックが持ってきたワインの味を覚えていた。
「酒でいえばレスター家とポウスト家の領地の産物のワイン、あとコーティッド公領のウイスキーが有名か。」
「細工物も見事ですよ。」
 クラウドはティアラの宝冠と嫁ぐ際に持参した数々の金銀に宝石をあしらった装飾品を思い浮べる。
 地方によって絹、麻、綿の織物、木材、染料。
 まさに自給自足万全だ。
 贅沢をしない(知らない)国王、作物に不自由しない土地、有能な大臣。
(これで財政難になるわけないか。)
 ジェフドとクラウドは妙に納得する。
 思うにエンリックは質素で倹約家というより単なる貧乏性なのだ。

 旅のしめくくりということで、夜に王宮を抜け出す三人を発見したサミュエルは慌ててカイルとテイトを呼びに走った。
「陛下が脱走!?」
 やっと国へ帰れると思って安心したのが間違いだった。