最近は「ひなケーキ」とやらもあるので、たまに洋菓子屋にも行くらしい。
「嬢さん」は季節限定のお菓子に弱いのだ。

 だが、生もののケーキは別として、自分の口に入れる前に雛人形の前に供えるのが習慣である。
 ちゃんとお皿に移し変えて、ラップかけて。

 「嬢さん」はひな祭りが好きなのだ。
 たとえ、現在はご馳走が目的であっても。
 子供の頃は牛車のオルゴールがお気に入りで、とうとう音が出なくなった。聴きすぎで。
 道具類はままごとにも使われ、箪笥の房が取れている。
 遊ぶと壊れると自覚したのか、その内何もしなくなった。

(昔は長く飾っていてくれたけど、最近片付けも早くなりましたわね。)
 三人官女が、呟く。

 「嬢さん」が年頃になったので、婚期が遅れるといけない、とさっさとしまうようになった。
 本気で信じているわけでないが。

(今年も元気なお顔を見せてもらっただけで満足いたしましょう。)
 女雛の言葉に他の人形達も同感だ。

 彼女を災厄から守り、幸せを願うのが、雛人形の務め。                     

「いただきま〜す♪」                                               

 嬉しそうな声を聞きながら、つつがない一年を祈るのである。                     


                        <完>                 


              桃の節句にちなんだ話でございます。
     もちろんフィクションですが、事実を基にした部分もかなりあります。(笑) 
             お祝いは華やかに楽しいのが、一番です!
                                                

   短編TOP