領民の悲嘆の涙は尽きる事がなさそうに思えた。
館の中といわず、庭といわず、あちらこちらから骨や死体が発見された。
ある者は埋められ、ある者は打ち捨てられ、無残な有様は目を覆うばかりである。
どれだけの人間が眠っているのだろうか。
「館ごと叩き壊すか。」
レオポルドはため息混じりに言った。
次の領主がきたところで、ここに住む気にはなれないだろうし、建物がある限り人々の不快感も拭えない。
「花でも植えて、碑でも建てよう。」
犠牲になった多くの者の鎮魂のために。
村の代表者を集め、館の調査が終わり次第、取り払う事を告げた。
しばらくは我慢してもらう事になるが、茨がまとまりついた館の塀がなくなると知った時点で彼らの顔は明るくなった。
話を後から聞く事になったアドルが心配げな顔をした。
「よろしいのですか。勝手に約束なされて。」
「父上には私から申し上げる。あのままにはしておけないではないか。」
ほとんど誰の遺体か判別が付かず、一緒に埋葬する事になったのだ。
レオポルド立会いの下、合同葬儀が行なわれる。
見届けた後、騎士隊の一部を残し、都へ帰る予定だ。
ザカートが不正に溜め込んだ財は、改めて村人達に分け与えるつもりである。
悪行に苦しめられた、せめてもの代償。
ルンはすっかり気落ちし、他に身よりもないことから村長の家族が、様子を見てくれている。
出立前、レオポルドが言った。
「都へ戻るか?」
目を見張るルンに、
「剣は教えてやれぬが、町の案内くらいはできる。」
優しく微笑んだ。
「行きます。」
他に居場所があるわけでもない。
思いがけない言葉だが、自分に差し伸べられた手が嬉しかったのである。
城へ帰り着いたレオポルドの報告を聞いたジュセスは、息子の提案を概ね了承した。
ザカートの非道は見聞きするに耐えない。
なんにせよマーテルには、特別な措置をとる必要がある。
「ところでルンを連れて帰ってきたそうだな。」
「はい。エニーナに預けました。」
娘が欲しいと言っていたエニーナに養女として引き取られ、マーテルで残務を引き継いだアドルには妹になる。
レオポルドも喜んだ。
エニーナとアドルの家族なら将来の見通しも立つだろう。
「中々可愛い娘だから、私の手元においても良かったのに。」
ジュセスが笑いながら言うのを聞いて、アドルは声を大きくした。
「父上が側室を持とうと後添いを迎えようと勝手ですが、私は自分より年下の母上は御免被ります!」
さっさと部屋を出て行ったレオポルドの後ろ姿に、
(何を怒っているんだ。別に私がルンを養女に迎えても良かったと考えただけなのに。)
ジュセスは首を傾げるのだった。
沈んでいたルンにも、少しずつ笑顔が戻ってきている。
レオポルドは願う。
いつか姉の分まで、ルンに幸福があらんことを。
<完>
中世騎士ファンタジー風に書くつもりだったんですが…。(苦笑)
どうも短編の書下ろしができず、随分時間かかった。
構想はともかく文章にならなくて。
ちゃんと下書きしたはずなのに、長くなってるし。
今回は王子は久々の黒髪。
どちらかといえば行動派、乗ってるお馬さんは栗毛。
ちなみにアドルは騎士隊の所属なので、側近とはちょっと違う。
だから本文に入れろって…。
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