突入する騎士にレオポルドの声が響く。
「良いな。出来るだけ生かして捕らえろ!村人達の前で首を落としてやる!」
他の者は手向かいしなければ、命だけは助けてやってもよい。
皆が皆、ザカートに忠誠を誓っているとも思えない。
突然の攻勢に逃惑う者達の多くは、女達であった。
ザカートも兵力は持ち合わせたようだが、レオポルドが率いてきた騎士の敵ではない。
村人の一揆ならともかく、王子が相手では刃向かうにためらいを覚える人間もいる。
すでにザカートは領主ではなく、叛逆者であるのだから。
地下通路の奥。
ザカートは脱出を試みた。
いざという時のために、抜け道がある。
持てるだけの財宝を抱え、走る先に人影がある。
「どこへ行く気だ。」
レオポルドとアドル、数人の騎士。
探していないとなれば、おそらく逃げ場がる。
「往生際が悪いな。」
「くっ…!」
ザカートが持っていた剣を振り回す。
レオポルドが簡単に交わし、ザカートの体に剣が貫く。
だが急所ではない。
「すぐには殺さぬ。村人達の苦しみ、その身で味わうがいい。」
崩れ落ちるザカートを、他の騎士が引きずるように支える。
館の外に連れ出した頃には、もう虫の息だった。
いかにレオポルドが手加減したところで、持たなかったらしい。
夜明けと共に、集められた領民の前でザカートは首を刎ねられた。
そして山と詰まれた薪に火がつけられ、燃え盛る炎の中に体諸共首が投げ込まれたのである。
人々はその光景に地獄の業火に焼かれるザカートを連想するのであった。
館内の探索をしていたアドルが、
「とにかくこちらへ。」
と言ったまま、地下へ案内した。
待っていた騎士達も、なんとも居心地が悪そうな顔をしている。
隠し部屋の一つらしいが、薄暗い中に蝋人形が林立している。
「何だ、この人形は!?」
「あれを御覧ください。」
指差した先に倒れた一体の人形の腕から突き出しているものは、人の骨であった。
「これは…!」
おそらくザカートに連れ去られた娘達の成れの果て。
「慰みものにして、殺しただけでは飽き足らず、何て事を…。」
もしやお気に入りだったのかも知れないが、死者に対する冒涜以外何物でもない。
「あんな楽に死なせるのではなかった。生きたまま火の中に放り込んでやればよかった…!。」
いっそのこと鋸引きにでもするべきだったと、今更ながら、レオポルドはザカートに対し嫌悪と怒りをあらわにした。
身元の確認の手がかりにはなるが、人目に晒すのも忍びない気がする。
「とにかく運び出せ。手厚く葬ってやらねばな。」
やむなく手を触れようとした騎士の一人が声を上げた。
「人形に名前があります!」
おそらく本人自身の名。
家族にどうやって引き渡すべきだろうか。
結局すべて布にくるんで、わかるように名札を付けるしかない。
家に戻ってこなかった娘達の親兄弟が館の外に集まってきている。
一人一人の名を言う度、泣き声がした。
メリーという名を聞いた途端、ルンが飛び出してきた。
「姉さん!」
館に入ろうとするルンを慌てて、レオポルドが引き止めた。
「駄目だ。見るんじゃない!」
「どうしてですか。」
姉の変わり果てた姿をルンに見せたくなかった。
女子供が正視できるものではない。
泣きじゃくるルンを、ただ抱きしめてやるしか、レオポルドには慰める術を持たなかったのだった。