婚約が正式に整うと、その年の秋、ジェフドは再びグレジェナを訪れた。
ハーレシュ公爵家へ律儀に挨拶にきたのだ。
サラティーヌ会いたさは、もちろんだが。
この時ジェフドが贈った品は翡翠の婚約指輪。
「貴女の瞳と同じ色の宝石をと思って。」
「ありがとうございます。」
ハーレシュ公は、いささか複雑な心境だが、諦めざるを得なかった。
小国カルトアでは先々大変そうだが、あの皇太子なら大切にしてくれそうだ、と。
翌春、カルトアでは世継ぎの皇太子の婚儀が盛大に催された。
隣国の美しい花嫁は、まさに春の使者だった。
サラティーヌは、この後目まぐるしい日々を送ることになる。
「絶対に退屈させない。一緒に広い世界を旅しよう。」
ジェフドが約束を守ったことは、言うまでもない。
文字通りの意味と、気付いたサラティーヌは、何も言葉が出なかったという。
「王族の妻」と「吟遊詩人の妻」、どちらが楽しかったかは、彼女だけの秘密である。
〜琴の調べは波の音・・・番外編〜
始まりは前夜祭<完>
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