他国の侵攻を防いだカルトア。
ようやく落ち着きを見せ始めたとはいえ、まだ何かとせわしない。
城内で一番の働き者は?
誰もが真っ先に頭に浮かべるのは、国王ではなく、側近であるテイトだろう。
国内の視察、城内の点検、果ては幼い王子様のお相手と、休まる間がなさそうだ。
王妃であるサラティーヌでさえ、
「どうにかなさらなくていいの?これでは重用しているのではなくて、ただ重宝しているようにしか、見えないわ。」
主君のジェフドも、確かにそうは思う。
「せめて、子供達の世話は外してあげたら?」
「そうだな。もう少し大きくなるまでは、他の者でも良いか。」
サラティーヌは夫の思案気な顔を見て言った。
「あら、いずれは任せるつもり?」
「できれば、ライクリフの教育係はテイトにしたい。」
だからといって、ジェフドはテイトを腹心として離せない。
いないと困るのだ。
だが、こだわる理由もある。
「テイトは父上の薫陶を受けてるから。」
「お父様?」
人格者として慕われ、臣下の信頼が厚かった、ジェフドが今も尊敬する亡き父、先王ルドモット。
「父上は私にないものを持っていた。ライクリフには父上を見習ってほしい。」
ルドモットにあって、ジェフドが持ち合わせてないもの。
サラティーヌは二人の性格が違いすぎて、判断が付きかねる。
「一体、何かしら。」
「人徳さ。」
あまりにジェフドが真面目に言うので、サラティーヌは逆におかしくなってしまった。
ジェフドは妻の反応に、つい反論した。
「笑ったな。王としては大切な資質だよ。特に我が国では、ないと務まらない。」
人の心をまとめられる器量が、小国であるカルトアには必要なのだ。
そうでなければ、たちまちに諸国に隙を衝かれて、滅ぼされてしまう。
本来、あるべき国王の姿。
ジェフドは父に投影している。
先代から近くにいる適任者といえば、テイトだろう。
ジェフド自身、テイトに面倒をみてもらったようなものだ。
王子として甘やかすでなく、おもねるでなく、一人の人間として向き合ってくれた彼のような人間は、簡単には見つからない。
「やはり、このままではいけないか。」
何でもこなしてくれるから、つい、頼りにしてしまうが、そろそろ態度を改めなければならない時期のようだ。
ジェフドとサラティーヌの子は姉のエルリーナと弟のライクリフの二人。
双子だから、今のところ見分けがつきにくいが。
何人か世話係もいるが、サラティーヌと彼女の侍女ナーサがほとんど面倒を見ていた。
元々、サラティーヌが実家から連れてきた侍女だが、すっかりカルトアに馴染んでいる。
心栄えが優しく、器量良しなら、縁談があって当たり前だ。
以前から、ちらほらとはあったのだが、近頃ジェフドやサラティーヌの元へ、持ち込まれるようになった。
ジェフドが、
「王妃のお気に入りの侍女だから、何とも言えない。」
などど、受け流すので、サラティーヌに話が来る。
ナーサを姉妹同然に思っているサラティーヌとしては、本人の気がないものを勧めるつもりはないが、とりあえず、耳には入れる。
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