決して、主君以外に頭を下げないと思っていた。
 それが、今ナーサのために、誓いを立ててくれている。
 テイトがナーサを認めての、求婚。
 誠実さと優しさは本物だ。
 たとえ、何があってもついていける。
 サラティーヌが、ジェフドを信じて、カルトアに嫁いだように。


 テイトとナーサが、ジェフドとサラティーヌにすぐさま報告に行ったことは言うまでもない。
 サラティーヌは我がことのように喜んだ。 
 ジェフドは、サラティーヌに気付かれないように、
「ナーサを泣かしたことは黙っておこう。」
 随分と恩着せがましいが、吹聴されてもテイトは困る。
「大体、陛下がもっと、はっきりおっしゃてくれれば、あんなことには…。私は不慣れなんですから。」
 さすがに、テイトの顔が赤い。
 ジェフドにしてみれば、日頃の軽い意趣返しだ。
 騎士とは女性を守るもの、泣かせるなんて言語道断、男として最低な事と、散々くり返し、ジェフドに教えたのは、他ならぬテイトなのだから。
 ナーサの嫁入り支度は万事、サラティーヌが引き受けて、口を挟む余地がない。
 ジェフドはといえば、彼らの新居を吟味している。
 さすがに、夫婦が城内で別々の部屋に暮らしていては勝手が悪い。
 自分達で用意すると言うのを、ジェフドが止めさせた。
「家くらい祝いだと思えば良いだろう。昔からテイトは馬と武具以外、遠慮して受け取らぬと、父上も嘆いていたぞ。」
 ルドモットを引き合いに出されては、テイトも反論しがたい。
 ジェフドにしてみれば、将軍にも大臣にも取り立てず、側近のままに扱っている負い目がある。
 今しばらく、役目に囚われず、公私にわたっての相談役としたい。
 正式な地位に就けては、テイトが分をわきまえ過ぎてしまう。
 いずれは、働きに報いてやらなければと思ってはいるが。
 テイトには、ルドモット、ジェフド、ライクリフの三代に仕えてもらうことになるだろう。

 後日、ジェフドが読み終えたら処分するように、と結婚生活における心得書をテイトに手渡した事は、サラティーヌとナーサも知らない。
『騎士は人を守るもの。大切なものを、愛する者を守るためにあるべきとの言葉を、忘れなきように。』
 そう、結ばれていた。
 ジェフドがテイトに繰り返し、聞かされた言葉を餞として。


 また、カルトアに新たな人間模様が織り成される。


                        <季節は流れて〜完〜>
 

    陛下を始め、方々のご要望により、伴侶を得ました事、心より感謝申し上げます。
                                             テイト・ワード

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