琴の調べは波の音・・・番外編
    〜旅空の下で〜
 見目麗しく良妻賢母の誉が高いカルトア王妃、サラティーヌ。
 現在は、優しい夫の国王ジェフドと双子の子供達に囲まれ、平穏な日々を送っているが、ふと思い出す。
「一緒に旅をしよう。」
 ジェフドの言葉に興味をそそられ、長い間二人で旅をした日のことを…。

 元々、大貴族のお嬢様の育ちのサラティーヌがいきなり旅暮らしができるわけもない。
 新婚当初、ジェフドが都を案内しようと連れ出せば、必ず侍女のナーサを呼ぶくらいだ。
 ジェフドが部屋でお茶を淹れようとすれば、
「あなたが自分で淹れるの!?」
 驚かれた。当たり前だが。
 城にいる間に、色々と慣れてもらってから、旅に出立した。
 だが、所詮は付け焼刃。
 宿屋であれば問題ないが、自炊のできる木賃宿に最初泊まった時はサラティーヌは呆然とした。
 掃除、洗濯、料理、一人でなんて、とんでもない。
 で、どうなったかといえば。
 夫のジェフドが一緒に手伝う、というより教えることになる。
「何故、あなた、そんなに手際がいいの?」
「カルトアの城は皆、忙しかったから。」
 半分は嘘である。
 厨房に忍び込んだり、町で買い物したり、自分で勝手に覚えただけの話だ。
 大体、吟遊詩人を本当にやるとは、サラティーヌは思ってみなかった。
 確かに初めて会った時、詩人の格好をしていたが、ただの変装か仮装(祝祭だったので)だとばかり考えていた。
 買い物すら一人でしたことのないサラティーヌには、想像もつかない。
 ただ、ジェフドが「仕事中」、旅の始めサラティーヌは教会やら修道院やらで待たされた。
「一緒にいて間違われると困る。」
 旅の女芸人も多い。
 ジェフドは趣味だからいいが、妻に歌ったり踊ったりなど、させられない。
 宿もできるだけ、雰囲気の良さそうな場所を選び、食事もあからさまな酒場は避けた。
 酔客が、「酌をしろ!」とサラティーヌに絡んでこないとも限らない。
「サラは上品な美人だから用心しないと。」
 正直な夫である…。
 
 旅から旅の生活が楽しく思えてくると、宿で待っていたり、市場に行ったりするようにもなる。
 よく声をかけられるのが、
「奥さん、駆け落ちかい。」
「綺麗な顔して、だんなさんもやるもんだね。」
 どうやら身分違いの結婚に反対され、旅をしていると誤解される。
 無理もない。
 サラティーヌは身をやつしたところで、育ちのよさは隠せない。
 ジェフドは吟遊詩人になりきっているのか、竪琴を持っていれば疑われない。
「王子様みたいな顔した詩人さんだね。」
 などと、言われ時は、却ってどきりとする。
 みたいどころか、正真正銘、王子なのだから。  
 目立たないようにか、ジェフドは賑わう村や町を選んだ。
 祭りが行なわれていると聞けば、必ず立ち寄る。
 実際、収入も違う。
 生活に困らないのが不思議だ。
「あなた、才能あるのね。」
 妙なところで感心するのであった。

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