しばらくすると眼前が開ける。
少し遠くに町の灯が見える。
ようやく森のを通り過ぎようとしていた。
天には静かに月が輝いている。
宿屋の扉をくぐった時、主人は血だらけのジェフドにたじろいだ。
「先刻、狼に襲われまして。」
「ああ、それで…。難儀な目にあいましたね。」
明るい場所で見ると、ジェフドもサラティーヌも服に火の粉で焦げ付いた箇所がある。
宿の主人も納得したようだ。
「空いていれば一番良い部屋をお願いしたい。」
「ええ。大丈夫ですよ。」
「じゃ、前金で。」
サラティーヌが口を挟む余地もなく、ジェフドはカウンターの上に代価を置く。
途端、主人は愛想が良くなる。
「お食事どうされますか。お部屋にお持ちしましょうか。」
「頼む。」
ジェフドは銀貨をさらに一枚、主人に手渡した。
案内された部屋は、居間と寝室が続きになっている。
椅子とテーブルのほかに、ソファーまで置いてある。
宿屋の大きさからいえば、かなり上等だ。
「あなた。眠るだけなのに、こんないいお部屋にして。」
普段の宿代の三倍の額だったはずだ。
野宿の後でもないのに、珍しい。
「今日は疲れただろう。ゆっくりくつろいだほうがいい。今夜はこの格好でちょうど良かった。」
さすがにいつもの服装では、狼相手の立ち回りでは不利だったかもしれない。
翌朝、出立は見合すことにした。
昨夜、無理したため、すぐにはサラティーヌを歩かせたくない。
「ちょっと町中を見てくる。マントも買ってこないと。」
何せ灰にしてしまった。
ついでに着替えも調達しないといけない。
置いてあった栗色のかつらに手を伸ばす。
「待って。ジェフド。」
「どうかしたか。」
朝の光に照らされて、ジェフドの銀の髪が眩しく見える。
旅に出てから伸ばし始めて、肩にかかる長さになっている。
「やっぱり、あなたはこのままの方が素敵だわ。」
「ありがとう。でも、昨日と違う髪の色して、出入りするわけにはいかないな。」
ジェフドは、サラティーヌを金の髪ごと抱き寄せ、唇を重ねる。
「すぐに戻ってくる。今日は待ってるんだよ。」
「わかったわ。」
サラティーヌは窓辺で、ジェフドが走っていくのを見送った。
多分、用が終われば、本当に帰ってくるだろう。
竪琴を持ち歩いていないから。
荷物の中に入れたままだ。
サラティーヌが竪琴を取り出した。
「どちらのあなたも大好きよ。ジェフド。」
昨晩のジェフドの何と勇ましかったことか。
サラティーヌは思い出しながら、竪琴を抱きしめた。
<完>
題字にありますように、555キリ番リクエストによる作品でございます。
美矢原十夢様、いかかがでしょうか?
ご希望は「かっこよく騎士らしく愛する女性を守るジェフドの姿が書かれた話」だったのですが、サラティーヌの危機を救うというより、二人の危険から身を守る展開になってしまいました。(冷や汗)
改めて作者と共にジェフドからも御礼を述べさせていただきます。
「心ばかりのつたない作品ですが貴女のために捧げます。リクエストありがとうございました。」
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