テイトは城内の見回り、ナーサはエルリーナとライクリフの子守と、二人が家路に着いたのは、
かなり夜更けの頃であった。
慌ただしくてクリスマスの雰囲気を味わうところではなかったが、ナーサが夜食のかわりに
粉砂糖がかかったケーキを用意している間に、テイトが紙の包みを差し出した。
「プレゼントですか、私に。」
黙ったまま頷くテイトの前で、中身を開くと、淡い桜色のレース。
「薄い桜色が好きなのだろう。」
「知っていたのですか。」
妻の好きな色などわかるはずもないとばかり考えていた。
もちろんサラティーヌから教えてもらうまで、知る由もない。
城の出入りの商人から、ちゃんとテイト自身が選び、個人的に買い取った。
「大切にします。」
ナーサはレースを握り締めながら、言った。
不器用な夫の精一杯の優しさが伝わってくるようで、今は離したくなかったのである。
城内がひっそりと静まりかえり、ジェフドが私室で外を眺めていると、白い雪が降り始めた。
「また積もるな。」
ほんの少し窓を開けて、様子を見ている。
傍らにいたサラティーヌはふと口ずさんだ。
「どこにいようとあなたの姿が光って映る〜。この詩の元になった人物は、きっと銀の髪ね。」
夜空に熔ける雪よりも、かすかになびくジェフドの銀の髪が眩しい。
たとえ暗闇でも迷わずに見つけられるだろう。
「声の届く距離より、手の届く距離の喜びは何にも優る。」
ジェフドは先ほどの詩につながる一節を続け、サラティーヌの肩を抱き寄せた。
「私にはサラの髪が明るく見える。炎よりも太陽よりも。」
頬にかかる金の絹糸をそっとかきあげて、唇を重ねる。
お互いの存在が腕の中にあることこそ、最高の至福。
また一つ思い出が刻みこまれるのであった。
<完>
TOP