招待状のいらないクリスマスパーティー当日。
 
 幸い晴れやかな天気で、開門と共に多くの人々が集まってきた。
 城の大広間など縁があるわけでなく、どよめきと歓声が上がっている。
 室内の中央に巨大なクリスマスツリー。
 銀やガラスの燭台に、目に鮮やかなキャンドルにゆらめく炎。
 あちらこちらから聞こえる賑やかな音楽。
 芸を披露しているのは雇われた者達ばかりではない。
 宴席に旅芸人が立ち寄るのは常のことであり、当然のように歓迎される。
 各所に並べられたテーブルには焼き菓子から、詰め物をした本格的な鳥料理までずらり。
 ワインは樽ごと置かれている。
 次から次へと厨房から良い匂いを漂わせた大皿が運ばれ、空になった皿と取り替えられた。
 皆が興に乗り、料理を楽しみ、歌い、踊り始める。
 盛り上っている中に、ジェフドはライクリフを、サラティーヌはエルリーナを抱きかかえて現れた。
 特に堅苦しい挨拶はせず、
「今日は祝いだ。存分に楽しもう。」
 ただ一言で済ませてしまう。
 エルリーナとライクリフは、同じ年頃の子供達のそばへ行き、一緒になって遊び始めてしまった。
 会場には小さな子供用におもちゃなどを置いた一角もある。
 周辺にはミルクや、食べやすく切り分けられた料理の皿が、低めの台に並べられ、給仕の者も
付きっ切り、食器も落として割れたりしないように木製を使っていた。
 明るい笑顔が広がっていると、ジェフドも表情がほころぶ。
「おとうさま。たてごと、ひかないの。」
 詩人や楽団を見て、エルリーナの素朴な質問。
 竪琴を奏で歌うなら、誰よりジェフドが一番だと思い込んでいる。
「お部屋でね。」
 ジェフドとて共に騒ぎたいのは山々だが、いたるところで吟遊詩人をしていた手前、素性が
知られては、今までというより今後、困るのだ。
「城の宴席では弾いたことないの?ジェフド。」
「昔はあったよ。でも王子が剣より竪琴が得意では、眉をひそめる人間もいたから。」
 子供の頃は、母がハープや竪琴を演奏し華を添え、習い覚えたばかりのジェフドも横で一緒に
合奏したこともあった。
 美しい王妃と可愛らしい王子の姿は、誰の目にも微笑ましく、映ったものである。
「もう少しすれば、エルリーナもライクリフも上手に歌えるわ。随分、覚えてきてますもの。」
 誰に教わったかと問われれば、素直に「母上」ではなく「父上」と答えてしまうだろう。 
 エルリーナが歌声が素晴らしい美姫と称えられるのは喜ばしいことになるかもしれないが、
ライクリフにあまり熱心になられても、複雑である。
「きっと私のせいだと言われるな。」 
「私は好きですわ。あなたの竪琴。」
「褒めてくれるのは、サラと子供達だけだよ。」
「他にも大勢のお客様がいたでしょう。」
 城を離れ旅した間、どれだけの町に、村に、ジェフドの竪琴と声が響いただろう。
「せっかく手が空いてるんだ。一曲、お相手願えませんか。王妃様。」
 ジェフドが右手を差し出すと、サラティーヌの白い指が重ねられる。
「お誘いいただいて、光栄ですわ。陛下。」
 舞うように踊る国王夫妻は、何とも優雅で印象的であった

 陽が傾き始め、暗くなると、外には篝火や暖を取るための焚火が設けられた。
 一晩中続くかとも思われた賑わいも、少しずつ人がまばらになり始める。
 夜道に迷わないよう、帰りは松明や蝋燭が配られ、人々が手にした灯火は、まるで星の
きらめきのようでもあった。