さざ波の音が近くに聞こえるその家からは、朝早くからまるで、あわせたかのように竪琴の調べが流れていた。
奏でているのは、長い銀の髪をした若き吟遊詩人である。
その傍らの金髪の女性がたずねる。
「また新しい詩でもできたの?」
「そうだな。何か作るか。」
絃をかき鳴らしながら、妻にそう答えた。
・・・水晶の空より金の陽光降りそそぎ
真珠の浜は光輝き
瑠璃の海原は果てしなくきらめく・・・
蒼き碧い大海は限りなく
・・・共に聞こゆるは波の音 ひいては返す 千の波
くり返し くり返し
途切れることなく流れゆく
さざ波の音は琴の調べにも似て・・・
優雅な気分もここまでであった。
戸を叩く音がして、竪琴の手を止め、妻が
「はい。」
返事をして戸を開くと、客は一人の騎士だった。
「あら……。」
妻が大して驚きもしないで、そう言ったかと思うと、その夫も
「おやおや、おとなしき羊の群れの中に、突然、狼あらわれきたり……か。」
随分な比喩に騎士は一礼した後で口を開いた。
「それは皮肉でございますか。お久しぶりですが、お変わりないようですね。ジェフド皇太子殿下。サラティーヌ妃殿下。」
ジェフドは、竪琴をテーブルの上に置いた。
「本当に久しぶりだな。テイト。勘当されて以来だから……。」
テイトは、ジェフドの言葉を少し厳しい口調で遮った。
「殿下のは『家出』でございましょう。のんきに詩など詠じている場合ではございません。単刀直入に申し上げます。城へお帰りください。陛下のご容態がお悪いのです。」
ジェフドは、軽くため息をつく。
「またか。今度は何の病気だ。」
今までに、幾度となく、同じことをいう使者が来た。
「冗談ではございません。だからこそ、陛下が臥せっていることを隠しているのです。私と帰ってくださらぬとおっしゃるなら、無理矢理にでもお連れします。」
テイトは、重大な時に真顔で人を騙すことはしない。
まして、単身、ジェフドを訪ねてきたのなら、嘘では
ないだろう。
彼自身が証拠だ。
ジェフドはサラティーヌと顔を見合わせた。
「わかった。
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