文之助の苦衷を察し、助け舟を出したのが弥兵衛であった。
 同じ旗本で星川の養父の信頼篤い知己。
 折も折、源蔵がおふみに妾奉公をさせようとしているという噂を聞き、文之助も慌てた。
「間に合ってよかったよ。」
「じゃ、養女というのはお芝居なんですか!?」
「とんでもない。娘の嫁入り支度をするというのは、長年の夢でな。たまたま文之助が泣きついてきたから、相談に乗ったまでのこと。」
「泣きついただなんて…。」
 文之助の顔が真っ赤になる。
「本当のことだろう。おふみ、こやつはな、惚れた女子にいい暮らしをさせたくて、務めに励んでいるようなものだ。」
「笹野様!」
 文之助が声を高くする。
 おふみが文之助を見つめた。
「ほら、おふみちゃんも俺も長屋暮らしだったろ?少しは楽な生活したいかなと思って。おふみちゃん、毎年、八幡様に短冊書いてただろう。」
「知ってたの?」
「うん。嬉しかったよ。中々会えなかったけど、絶対おふみちゃんは七夕には来てると思ってた。」
 文之助はおふみの短冊を、探し回ったのだ。
 もちろん自分も短冊を手に持って。
 会いに行きたいのは山々だったが、家の人間に知られて仲を裂かれるのも嫌だった。
 養子の身では、肩身も狭い。
 何とか出世して、おふみを嫁に迎えようと、文之助なりに頑張ってきたのである。
 いくら町娘だからといって妾にはしたくなかった。
 おふみは泣きたいほど嬉しかった。
 養子に行き、仕官しても文之助もおふみを忘れていなかった。
 それどころか武家の養女の手筈まで整えてくれたのだ。
「来年からは、また一緒に八幡様に行こう。」
 文之助が帰り際、告げた。
 
 おふみと文之助は、共に夜空の天の川を仰いだのである。

                            <完>
 

 
 気が付いたら七月。
 いかん、七夕企画が間に合わない!と急遽作った話。
 現代物よりは情緒があるかと思って江戸時代。
 設定に深く突っ込まないでやってくださると嬉しいです…。

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