引き返し、滝川の腕を掴んで引っ張り上げようとすると、
「何をする。盗っ人の手を借りて助かりたくない。離せ。」
役人らしい意地っ張りを聞いて、弥太郎は思わず苦笑した。
「馬鹿な事言ってないで、だんな、早く。いくら盗っ人でも人を見殺しにはできませんや。それに滝川のだんながいなくなっちまうと、江戸の町も寂しくなっちまう。」
滝川は、どうにか屋根に上がってから、
「おい、お前、何で俺の名を知っているんだ。」
顔は白頭巾で見えないものの、ふと、どこかこの男を知っているような気がした。
その時、滝川と弥太郎を追いかけてきた平吉の姿が目に入り、素早く身を翻し、
「それじゃ、だんな気をつけて。」
さっと、屋根の上から、かき消すようにいなくなった。
この頃になると、外の騒ぎのせいで、野次馬根性の江戸っ子達がぞろぞろ出てきて、また雪影弥太郎はまんまと逃げ果せた。
翌日、「あづま」では弥太郎は捕らえられなかったものの、抜け荷の件で手柄を立てた滝川の、ちょっとしたお祝い騒ぎ。
「良かったですね。だんな。」
お町も喜んでくれて、あんまり煽てられ、滝川は少々照れていた。
そこに助八も姿を見せて、滝川は何故か引っかかる感じを覚えたが、
「よし、次の手柄は白狐をお縄にする事だ。」
「それは楽しみだ。若だんな、頑張ってくださいよ。」
助八は臆面もなく笑って見せ、その場の皆も笑い出した。
「見てろ、きっとだぞ。」
そう言う滝川自身、ついつい笑っていた。
さても賑やかな江戸の町。
今日も闇夜に、呼子の音が鳴り響く。
<完>
「時代劇好きさんに50の質問」あるからには、時代物と思ったけどすぐには書けない…。
ということで、以前の作品を慌てて手直し。
当時のコメントに「ほとんどお遊び」とありました。
読み直して納得。
ノリと勢いだけで作った話に間違いないですね。
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