1 化学のはじめに

太字
は授業プリントに印刷した部分、( )は生徒が書き込む内容

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アウトライン

1.化学とは何か・・・役に立つ物質を作ると、環境を守ることが目的。

2.物質とは何か・・・ものを作っている成分。あるいは、原子でできているもの。

3.【実験】体積は生まれたり消えたりするか・・・水とアルコールを混ぜると、体積が減る。

4.【実験】質量は生まれたり消えたりするか・・・保存される。原子は生まれたり消えたりしないから。
  【実験】食塩が水に溶けるとき
  【実験】ヨウ化鉛の沈殿ができるとき
  【実験】二酸化炭素が発生するとき

5.自分が死んだら、体を作っている原子はどうなるか。

6.24時間の体重変化は?・・・3つのピークを持つノコギリ型のグラフになる。

7.地球全体では、原子は増えているか減っているか。・・・変わっていない。隕石やロケットなどによる増減は無視できる量。

8.物質不滅の法則とゴミ問題・・・ゴミも物質だから、消滅しない。脱水、燃焼等をした後でも1日一人あたり2.2kgのゴミを埋め立てている。

9.NHKの「クローズアップ現代」のビデオで、ドイツのゴミ減らし対策を見る。


授業の内容

1 化学とは何か     もどる

 (人間に役立つ物質を作ること、環境を守ることが目的。そのために物質の性質と構造を研究する分野。)

 その例

  (医薬品、染料、金属、プラスチックなどを作ること。)
  (環境破壊の原因を調べ、対策を立てること。)

※※コメント※※
化学というのは、化学記号とか反応式などを勉強するものではなく、物質の性質を勉強する分野であること。そして、人間に役立つ材料を作り出したり、環境問題を解決することに役立つものであること。この2点を強調しました。
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2 物質とは何か     もどる

 物質とはなんだろう。この答はひとつではない。色々なところで、また、色々な意味で物質という言葉が使われるからだ。
 ここでは、物質という言葉の意味を二つ説明しよう。

(1)ものの成分という意味

 例 (ガラス、鉄、空気、水・・・)

※※コメント※※
例えば、ビーカーは物質ではなく、ビーカーを作っているガラスを物質と呼ぶ。このように、ものを作っている材料を物質という説明をしました。
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(2)原子でできているものという意味

 例 (ビーカー、ガラス、鉄、自転車、酸素、水素・・・)

※※コメント※※
この定義では、ものもそれを作っている成分も物質になる、ということを説明しました。
化学の授業のはじめから、物質は原子でできていることを説明してしまいました。いわゆる”原子ありき”です。これがよいのかどうか?

原子を発見するために人間がしてきたことをたどる授業の方が、教えるべき内容を含んでいるのかも知れません。検討中です。
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   問1 上にあげた例すべてに共通することはなにか

     (体積と質量を持つこと)

※※コメント※※
これは生徒に考えさせ、何人かに聞きました。ほとんどのクラスで正解が出ます。
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   問2 なぜ上のような共通点があるのか。

     (物質は原子でできていて、原子は小さいながら1個1個質量と体積を持つから。)

※※コメント※※
「物質とは体積と質量を持つもの、逆に言えば、質量と体積を持つものが物質なんだ」と説明し、「そういう物質は原子でできているんだ」と付け足しました。

続けて「私達の体も体積と質量を持っているから物質で、原子でできているんだ」と話し、原子を身近なものとして認識させました。

なお、私のこの説明に対して友人から、気体などの場合、その体積には分子間のすき間も含むから、”物質とは質量を持つものである”とした方がよいのではないか、というアドバイスをいただきました。
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 体積は生まれたり消えたりするか     もどる

 例 アルコールと水を混ぜたら体積はどうなるか。

   アルコール     水         合計

      ml         ml         ml

  体積は保存(されない)。

※※コメント※※
アルコールと水を別々のメスシリンダーに約50m;lずつ入れ、それを混ぜると体積が少なくなることから、体積は保存されないことを示しました。演示実験です。
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 質量は生まれたり消えたりするか     もどる

【実験1】 食塩が水に溶けるとき

(1)200ml用三角フラスコに水を約3分の1入れる。
(2)食塩を薬包紙に少し取り、(1)の三角フラスコ、ゴム栓といっしょに質量をはかる。
(3)食塩を三角フラスコに入れ、ゴム栓をして良く撹拌して溶かし、もう一度全体の質量をはかる。

【結果】

 溶解前の質量・・・・       溶解後の質量・・・・

※※コメント※※
水に溶けると軽くなると考えている生徒が毎年、何人かいます。精度0.01gの電子天秤で実験し、質量が変化しないことを示しました。

この実験はビーカーを使って、ガラス棒で撹拌するやり方では、液が飛び出したりして、うまく行かないことがあります。これも演示実験です。
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【実験2】 沈澱ができるとき

(1)二本の試験管の片方にヨウ化カリウム水溶液を約3ml入れ、もう片方に硝酸鉛(U)水溶液を約3ml入れて、ビーカーに立て、全体の質量をはかる。
(2)このふたつの溶液を混ぜ合わせるとヨウ化鉛(U)という沈澱ができる。沈澱ができたあと再び全体の質量をはかるとどうなるか。

【結果】

 反応前の質量・・・・      反応後の質量・・・・

※※コメント※※
これは生徒実験です。無色透明な二つの溶液を混ぜ合わせると、黄色い沈殿ができるようすは、生徒に好評です。

以前は、二股試験管を使ってやっていましたが、実験慣れしていない生徒たちには失敗が多かったため、二本の試験管にそれぞれの溶液を取り、その試験管をビーカーに入れて全体をはかるというやり方に変えました。
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【実験3】気体が発生するとき

(1)200ml用ビーカーに希塩酸を約20ml入れる。チョークのかけらをひとつ薬包紙に包む。これら全体の質量をはかっておく。
(2)塩酸の中にチョークを入れて反応させてから、もう一度全体の質量をはかるとどうなるか。

【結果】

 反応前の質量・・・・      反応後の質量・・・・

【考察】

(1)質量は保存されると言えるか。

    (いえる)

(2)【実験1】では溶解前後で、なぜ質量が同じだったのか。

    (水の分子の中に食塩のイオンが混ざっただけで、分子やイオンの数が変わっていないから。)

(3)【実験2】でも反応前後で、なぜ質量が同じだったのか。

    (鉛のイオンとヨウ素のイオンが結合して沈殿を作っただけで、イオンの数が変わらないから。)

(4)【実験3】では反応前後で、なぜ質量が違うのか。この場合、質量保存の法則は成り立たないのか。

    (ビーカーから二酸化炭素分子が出ていったために軽くなったのであって、その分子を閉じこめておければ、質量は保存される。)

※※コメント※※
栓をしっかり閉めたペットボトル内で、炭酸水素ナトリウムと希塩酸を反応させてCO2を発生させ、質量をはかるという実験がありますが、その方がよいかも知れません。こっちにすれば、栓が閉まっていてCO2が閉じこめられているときには質量は保存され、栓を開けるとCO2が逃げて軽くなるということが確認できますから。

ともかく、CO2分子が出ていったためにビーカーが軽くなったということは、その分子が空気の仲間入りをし、その分、空気が重たくなったということを、イメージさせました。

質量保存の法則は単に”変化が起こっても質量は変わらない”という説明にとどまらず、原子の不滅と関連させて、”どこかが軽くなったら、どこかが重くなる法則”と理解させることによって、より豊かな内容を持ってくる思います。

次に、この法則の豊かさを実感させるために、下のような問題を考えさせました。
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問1 自分が死んでしまったとき、自分の体を作っていた原子はどうなるのだろうか。

   (原子は消えずに残り、他の物質を作る。)

※※コメント※※
原子の不滅について、ここでこんな話をしました。

「人の体を作っている原子は主にCとH、O、Nで、火葬されるとCO2やH2O、NO2などの分子になる。その中のCO2を例に取れば、それが空気中を漂っているうちに、植物につかまって光合成の原料にされ、植物体を作る原子になるかも知れない。

その植物が畑の大根だったら、農家の人に収穫されて、スーパーに並ぶかも知れない。それを誰かが食べると、C原子はその人の体の一部になるだろう。体の中で役目を終えたC原子は、CO2になって吐き出され、再び空気中を漂う。それを違う植物がつかまえて・・・。と考えると、原子は消えることなく、リサイクルされていることになる。

そこで、昔、クレオパトラの体を作っていたC原子が、今自分の体の中にあるかも知れないと言う物語を作った先生がいた。化学のロマンだね。」
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問2 私たちの体重は24時間の間にどんな変化をするのだろうか。概略のグラフを書いてみなさい。

※※コメント※※
横軸に時刻、縦軸が体重のグラフですが、はじめ生徒はどう考えて良いか分からないようです。

そこで、「何かを食べたとすると、それも原子でできているから、胃袋に入ると、その分、体重が増えるはずだ。そういうことを考えて書きなさい」とアドバイスしました。』

すると、1日に3回のピークがあるサインカーブのようなグラフを書く生徒が出てきます。それを黒板に書いて「こういう人は、3時間も4時間も体重が増え続けている。そんなに長い間、食事をしているんだろうか?」と言うと、生徒は「しまった」とばかりに書き直し始めます。

ただ、、何もしないでいるときは、水分が皮膚や呼気から逃げていくことや、酸素を吸って二酸化炭素を出すことから、徐々に体重が減っていくことを説明しました。

T「酸素はO原子二つ。二酸化炭素はO原子二つとC原子で、C原子がよけいだ。だから、酸素を吸って二酸化炭素を出せば、体を作っているC原子が少なくなって体重が減るんだ。」

S「じゃあ、ハーハーと何回もやれば、ダイエットになる?」

T「ただやってもだめだ。呼吸が荒くなるのは、運動したときだろう。運動すれば体重が減るというのは、二酸化炭素をたくさん出すからなんだ。」

S「なるほど」

生徒のようすを見回りがら「トイレに行かない人がいるぞ」とか、「3時間目に早弁する人は正直に書くように」などと言って、楽しい雰囲気を作り、ノコギリの歯のようなグラフに仕上げていきます。
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問3 地球全体を作っている原子の数は、増え続けているのだろうか、減り続けているのだろうか。

  (ほとんど変わらない。)

※※コメント※※
生徒には難しい問題のようです。ここまで授業してきても、物質が分解されると原子が消えると考える生徒が何人もいます。

やはり、時間をかけて化学変化をたくさん見せ、それぞれの変化と原子の振る舞いを考えさせてからでないと、この問題は無理なようです。

地球の重さが変わるとすれば、隕石が落ちて来て増えることと、ロケットを打ち上げて減ることが考えられます。ロケットによる影響は無視できるとして、隕石のほうですが、宇宙塵と呼ばれる顕微鏡レベルの粒子が、1日に30トンも降っているようです(「地球の雑学事典」より)。

ここで生徒にヘエーと言わせて、さらにそれが45億年降り続いていたとしても、地球にとっては無視できる量でしかないことを計算してみせて、再びヘエーと言わせたかったのですが・・・。

来年はこの問を省き、問1と問2で原子の不滅を強調し、下のゴミ問題につなげたいと思っています。
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問4 次の図(省略)は、日本における物質の流れを示すものである。下の問いに答えなさい。なお、各数字は1993年の1年間の分量(トン)を、国民一人あたりで平均したものである。
  参考文献:吉田弘之「ゼロエミッション」化学、54,1,24(1999)

(1)日本では、岩石、砂利、石灰石、鉄鉱石、石油、石炭、食料などの原料を、国民一人平均、年間で16.8t消費している。この原料のうち、生産物になる量は10.6t、燃料として消費される量は2.99tで、残りが産業廃棄物である。これは何tか。

  16.8 − (10.6 + 2.99) = 3.21        (3.2t) 

(2)上の産業廃棄物のうち、脱水や焼却などで減らされる量は1.258t、リサイクルにまわされる量は1.25t、残りが埋め立てられる量である。これは何tか。

  3.2 − (1.258 + 1.25) = 0.7         (0.7t)

(3)(1)の生産物10.6tのうち、輸出される量は0.793t、輸入されてくる生産物は0.553tである。生産物のうち、0.513tは食糧品として消費され、8.84tは道路や建物になる。残りの生産物は、使用された後、ゴミになる。この量はどれくらいか。

 10.6 − 0.793 + 0.553 − (0.513 + 8.84) = 1.0    (1.0t)

(4)(3)のゴミは脱水や焼却によって0.553t減量し、0.3131tはリサイクルに回される。残りが埋め立てられる量であるが、これは何tか。

 1.0 − (0.553 + 0.313) = 0.13          (0.1t)

(5)(2)+(4)が、現在埋め立てられている廃棄物の量である。日本人一人、1日あたり、何kgを捨てていることになるか。

  (0.7 + 0.1) × 1000 ÷ 365 = 2.2     (2.2kg)

※※コメント※※
物質は消えることがないので、家庭から出したゴミも、消えてなくなるわけではないことを、ここで教えることにしました。

この計算で、日本では一人あたり、毎日およそ2.2kgの廃棄物を埋め立てていることになります。これはもちろん、産業廃棄物も含めての話ですが、脱水したり、焼却するなどの減量処置をした上で、2.2kgの埋め立てです。

このことに関連して、最終処分場が今のままではあと数年で満杯になってしまうことを新聞記事(「東京湾の廃棄物処分場構想 フェニックス計画見送り」千葉日報’98,11,19)で知らせました。

それから、ドイツの徹底したゴミ減らし対策、リサイクル事情を記録したNHKの番組(クローズアップ現代)を見せ、感想を書かせました。上問より、ビデオ映像の方がはるかに訴える力を持っています。
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