5 蒸発と蒸気圧

太字は授業プリントに印刷した部分、( )は生徒が書き込む内容

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アウトライン

1.蒸発
  (1)道路の水たまりが乾くのはなぜ?・・・水は沸騰していなくても、蒸発することを確認。
  (2)暖かい日の方が、速く洗濯物が乾のは?・・・激しく運動している分子が多いから。

2.蒸気圧とは・・・真空にした容器に冷水と温水を閉じこめる。温水は気体になる分子が多いため、蒸気圧が高くなることを説明。

3.蒸気圧曲線・・・温度と蒸気圧の関係のグラフを作成。データは数値で提供。

4.沸騰するってどういうこと?
  (1)沸騰しているときと、していないときの違いは?・・・泡が出ているかどうか。
  (2)水が沸騰しているときの泡の成分は?・・・・水素、酸素、空気、水蒸気などの答が出る。この泡の成分を調べるため、次の実験を行う。

5.【実験】フラスコに吸い込まれる風船・・・水を沸騰させているフラスコの口に風船をつけ、火を止めて空冷する。風船はフラスコに吸い込まれる。沸騰しているときのフラスコ内の気体は、冷えると液体になる性質があることを説明。

6.【実験】沸騰した時の泡の成分は?・・・試験管で水を沸騰させ、出てくる気体をゴム管で別の試験管に誘導する。そこには、水がたまる。5.6.の実験から、泡は水蒸気であることを説明。

7.【実験】アルコールを沸騰させると・・・アルコールを沸騰させても、水蒸気が出ると考える生徒がいる。6.と同じようにアルコールを実験し、試験管にアルコールがたまることを確認。

8.沸騰する・・・外圧と沸点のグラフを書き、外圧=蒸気圧の時に、沸騰が起こることを説明。その理由をプリントに載せた。

9.【実験】 赤ワインの加熱・・
・以上を総合して、赤ワインを加熱すると何が出てくるのかを考えさせる。そして実験し、水の混じったアルコールが出てくる理由を説明させた。


授業の内容

太字は授業プリントに印刷した部分、( )は生徒が書き込む内容です。

蒸発     もどる

問1 雨が降った後、道にできた水たまりはいつの間にか蒸発して、乾いてしまう。水が沸騰したわけではないのに、なぜ気体になるのだろう。


 (水の分子のうち、激しく運動している分子が、表面から引力を切って気体になるため。)

**コメント**
水は沸騰しないと、気体にならないと思っている生徒がたくさんいますので、常温でも気体になっていることを、身近な例で確認しました。

同じ温度でも激しく運動している分子と、そうではない分子があることを復習しました。
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問2 気温の高い日の方が蒸発が速い(あたかたい日の方が速く洗濯物が乾く)のだが、これはなぜだろう。

 (気温が高い方が、激しく運動している水分子が多いため。)
  
蒸気圧とは     もどる

 色々な温度で、液体から気体になった分子の数を調べるには、次のようにする。液体を下のように真空の容器に入れ、しばらくおく。すると、一部の分子が蒸発し、気体になって容器の壁に衝突するため、圧力を生じる。この圧力を(蒸気圧)といい、これを調べることによって、気体になった分子の数をはかることができる。

  説明図

**コメント**
蒸気圧について、次のように説明しました。

「注射器のような細長い容器に、低温の液体と高温の液体を入れる。そして、それぞれに、自由に動くふたを載せる。低温の液体に比べ、高温の液体からは気体の分子がたくさん蒸発し、ふたにどんどん衝突するので、ふたが持ち上がらないようにするには、おもりを重くしなければならない。

液体からどれくらいの分子が蒸発しているのかを目で見ることはできないので、ふたに載せるおもりで、それを判断する。このおもりによる圧力を蒸気圧という。


本当は、この容器自体を真空中に置かないと、上のような説明は正しくないのですが、大気圧のことをきちんと学習説してない段階ですから、このような解説にしました。
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蒸気圧曲線

  下の表は色々な温度における水とエチルアルコールの蒸気圧の大きさを示す ものである。横軸を温度、縦軸を蒸気圧にして、これをグラフにしなさい。この グラフを(
蒸気圧曲線)という。

温度と(℃)蒸気圧(mmHg)の関係

温度   0  10  20  30  40  50  60  70  80  90 100 110
   5    9   18   32   52   92  149  233  355  526  760 1075
エタノール   13 24 44 78 133 220 350 541 812 1692

(グラフ省略)

沸騰するってどういうこと?        もどる

 問1 沸騰しているときと、していないときではどんな違いがあるか。

   (沸騰しているときは、泡が出ている。)

**コメント**
「どうなったら沸騰したと言える?」と聞いても、きょとんとしているか、せいぜい「ぼこぼこ音がする」と答える程度です。教卓でフラスコに水を加熱し、沸騰しているときと、していないときの違いを確認しました。
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問2 水を沸騰させたとき発生する泡の成分は何か。

**コメント**
水が沸騰したときの泡の成分を質問しますと、水蒸気という答え以外に、水素、酸素、水素と酸素、空気、水の気体・・・などの答が出てきます。

「この泡の成分が何であるのかを確かめる実験をしよう」と言って、次の実験をします。
*******

 
【実験】フラスコにつけた風船 (フラスコに吸い込まれる風船)     
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 フラスコの中に水を入れ、図のように充分に沸騰させて、フラスコの口に風船付きのゴム栓をつける。バーナーの火を止めると、風船はどうなるか。

【結果】



 (風船がフラスコに吸い込まれて、中で膨らむ。)

 水が沸騰したときに発生する気体は冷えると・・・(液体になる)

**コメント**
フラスコを冷やすと、風船が吸い込まれ、フラスコの内壁ぴったりに膨らむようすは、生徒の好奇心を刺激します。

T「どうして膨らんだの?」
S「フラスコの中が真空になったから。」
T「うーん、まったくの真空じゃないんだけど、近いね。フラスコの中には、はじめ、水の中から出てきた気体(泡)が充満していた。でも、冷やすとこの気体は液体になってしまうんだ。気体の分子は飛び回っているが、液体になると分子は集まってしまうから、フラスコの中の気体の分子は数が少なくなる。つまり圧力が下がるわけだ。それで、風船が吸い込まれる。」

風船が吸い込まれた理由を説明した後、「もう一度加熱して、沸騰させて、水から気体(泡)を出したら、風船はどうなる?」と言って、フラスコを再び加熱します。水が沸騰すると風船はしぼんで、やがてフラスコの口から飛び出し、外で膨らみます。そのコミカルなようすは、生徒の笑いを誘います。

注意
1.水が沸騰しているとフラスコの口は熱くなっていて、風船をつけにくいので、あらかじめ、大きな穴をあけたゴム栓を用意し、それに風船をつけておいきます。そして、それをフラスコの口に入れるようにするとうまくいきます。

2.フラスコ内の水は少量にします。多いとなかなか冷えにくく、実験に時間がかかります。

3.風船は細長いもの(例えばジェット風船)を使います。丸い風船だと、フラスコに吸い込まれた後、フラスコの首に引っかかってしまいます。

4.フラスコを冷やすときは、下敷きなどで扇ぎます。濡れ雑巾をかけるなどして、急に冷やすと、風船が引っかかってうまくいかないことがあります。
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【実験】沸騰して出る気体を集める (沸騰した時の泡の成分は?)     もどる

 水を沸騰させたときに発生する泡を、図のように集めてみる。試験管には何がたまるか。


  (水がたまる。)

**コメント**
T「さっきのフラスコの中の気体は、冷えるとすぐ液体になることが分かった。じゃあ、どんな液体になるか試してみよう。」と言って、この実験をします。

T「これが冷えてできた液体だ。これ何?」
S「水」
T「そうだね、水だ。ということは、水が沸騰したときに出る泡は?」

S「水蒸気」
T「そう、水蒸気。水の気体。つまり、水を沸騰させると、水の気体の泡が出てきて、それがゴム管を通ってこっちの試験管にやってくると、冷やされてもとの水に戻る。そういうことだね。」

T「じゃあ、水蒸気ってどういうものかよく見て。こっちの試験管の中で水が沸騰しているね。この水の上にある気体。これが水蒸気だ。気体って透明だっていったけど、水蒸気もそうだよね。見ただけでは空気と区別が付かないよね。」と言って、水蒸気というものをしっかり観察させました。

そして、ゴム管の先を水槽の水の中に入れ、バーナーをとめて水を逆流させてみせ、逆流の原因を考えさせました。
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【考察】

(1)水を沸騰させたとき、水の中から出てくる泡の成分は何か。


   (水蒸気)

(2)水が沸騰しているとき、ミクロの世界ではどんなことが起こっているか。分子の様子を図に書きなさい。

      

  (液体どうしの引力を切って、水の中で気体(泡)ができている。)

**コメント**
水の中から水蒸気の泡が出ていることは理解できても、その時の分子のようすを書くのは、生徒には難しいようです。液体や気体の分子のようすを復習しながら、図を書きました。
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【実験】アルコールを沸騰させると     もどる

 水と同様にアルコールを試験管に入れ、沸騰させる。集まった液体は何かを調べなさい。

【結果】


  (アルコールの液体が集まる。)

**コメント**
アルコールを沸騰させても、水蒸気が出ると考える生徒がいます。こういう生徒は、液体というものには必ず水が含まれていると思っているようです。

アルコールは水を含まず、沸騰させるとアルコールの泡を出すことをこの実験で示しました。

T「水が沸騰すると水の気体の泡が出る、アルコールを沸騰させるとアルコールの気体の泡が出る。では、鉄を沸騰させると、鉄の気体が泡になって出るはずだね。気体であるかぎり透明なはずだから、鉄の気体も透き通っているはずだね。」
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【おまけの実験】100℃以上の水蒸気はあるか

**コメント**
フラスコから出てくる水蒸気が、図のように銅管から吹き出すようにしておきます。はじめ、銅管からは白い湯気が出ますが、これは見えるから気体ではないと説明し、バーナーで銅管を加熱し始めます。

すると、銅管の先から出ていた湯気は全く見えなくなってしまいます。ここで、湯気が水蒸気に変わったことを話し、その水蒸気にマッチの頭薬を近づけます。すると、火がつきます。また、紙に水蒸気を吹き付けると、こげてきます。

水蒸気と言えども気体だから、加熱すれば分子運動が活発になって、100℃以上の温度になることを説明します。
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沸騰する条件                     もどる

 水は100℃で沸騰すると言われているが、それは1気圧(760mmHg)という大気圧でのことである。高い山の上などの気圧の低いところでは、もっと低い温度で沸騰するし、圧力をかければ、沸点が100℃以上になる。

 下の表は、外気圧と沸点の関係を表したものである。水とアルコールについてグラフを書きなさい。

【水】

外気圧mmHg    5    9   18   32   55   92  149  233  355  526  760 1075
沸点(℃) 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 110


【エチルアルコール】

外気圧mmHg   13   24   44   78  133  220  350  541  812      1692
沸点(℃) 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100


 (グラフ省略)

このグラフと蒸気圧曲線を比べてみなさい。

 水が80℃で沸騰する外圧(
355mmHg)、アルコールが40℃で沸騰する外圧(133mmHg
水の80℃における蒸気圧(
355mmHg)、 アルコールの40℃における蒸気圧(133mmHg

結局、沸騰する条件は次のようにまとめられる

 その液体の(
蒸気圧)が(外気圧)と等しくなる温度で沸騰が起こる。

沸騰するときは、なぜ「蒸気圧=外気圧」なのか

 平地の気圧は、およそ1気圧である。いま、平地で風船を膨らませ、それを山の上に運んだとする。風船はどうなるだろうか?

 @もっと膨らむ   Aしぼむ  B変わらない

 答は@。山の上では気圧が低いので、風船はもっと膨らむ。ここで、大気圧は風船をしぼませる方向にはたらいていることに注意しよう。山の上では、その大気圧が小さい(風船をしぼませる圧力が小さい)ので、風船が膨らむのである。

 次に、風船をプールに持っていって、水に沈めたらどうなるだろう。
@もっと膨らむ   Aしぼむ  B変わらない

 プールの底の方まで沈めると、風船は少し小さくなる。これは、大気圧と水圧の両方が、風船をしぼませる圧力としてはたらくからだ。ところが、風船が水面近くに沈んでいる時は、水の外にあるときと、大きさはほとんど変わらない。水面近くでは水圧は無視できるほど小さいため、風船をしぼませる圧力は大気圧だけになるからだ。

 今度は、沸騰しているときの泡を考えよう。泡をプールに沈めたときの風船だと考えればよい。泡が水面近くにあるときは、泡をしぼませる圧力は大気圧だけである。一方、泡を膨らませている圧力は何だろう?・・・これは、泡を作っている気体の圧力、つまり蒸気圧である。そして、蒸気圧は、大気圧とつり合っているはずなので「蒸気圧=大気圧」なのである。

 液体の温度が沸点に達しないときは、「蒸気圧<大気圧」なので、泡を膨らませる圧力より泡をしぼませる圧力が高い。つまり、泡はできないのである。

 
【実験】 赤ワインの加熱              もどる

  赤ワイン(アルコール分14%)を加熱して、発生する気体を下図のようにガラス管に導く。気体は冷やされて液体となり、試験管にたまる。これを留出液という。この留出液の成分は何であろうか。留出液には色がついているだろうか。【予想】の欄に自分の考えを書きなさい。

【方法】
@教卓にあるビーカーから目盛り付試験管で25mlの赤ワインをとる。
Aワインを少し手のひらに取り、香りと味を調べなさい。
Bワインを2〜3滴、実験台の上にこぼし、火をつけてみなさい。その結果を記録しなさい。

C目盛り付試験管に入っているワイン(20mlあればよい)を大型試験管に移し、沸騰石を7〜8個入れる。これにガラス管つきコルクせんをはめ、図のようにスタンドに固定する。
Dガラス管の先に乾いた目盛付試験管を置き、ビーカーの水でこの目盛付試験管全体を冷却する。ガスバ−ナ−に点火して留出液が約2mlになるまで加熱する。(弱火で加熱すること)

E終わったら留出液を少量手のひらに取って揮発性(蒸発しやすいかどうか)、 香り、味を調べ記録しなさい。
F残りの留出液すべてを実験台にこぼして、火をつけてみよ。燃えるだろうか。燃やしたあとの台の上もよく見ておくこと。結果を記録しなさい。


【予想】

【結果】

【方法】Bの結果


 (火がつかない)

【方法】Eの結果

 (蒸発しやすく、ワインの臭いがして、辛い味がする。)

【方法】Fの結果

 (青い炎で燃えて、後に水が残る)

【考察】
@以上の結果から考えて、留出液は何であったと考えられるか。


 (水が混じったアルコール)

Aなぜ上のような結果が出たのだろう。理由を述べなさい。

 (アルコールが沸騰する温度78℃において、水もかなり蒸発しているので、留出液としては水が混ざったアルコールになる。)

**コメント**
【考察】を宿題にし、それを返却したとき、下のようなプリントを渡しました。
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実験の解説

 この実験で使ったワインはおよそ20ml、集めた留出液は2mlである。ワインには14%のアルコールが含まれているので、20ml中にはおよそ2.8mlのアルコールがある。留出液はそれよりも少ないので、100%のアルコールになっても良いはずだが、かなりの水分を含んでいる。

理由は、エチルアルコールが沸騰する78℃において、水もかなり蒸発しているためである。78℃におけるエチルアルコールの蒸気圧は760mmHg、水はおよそ300mmHgである。従って、ワインを78℃に加熱したとき、アルコールは沸騰するが、水は沸騰しない。しかし、水は(300mmHgの蒸気圧があるのだから)かなり蒸発し、留出液に混じるのである。

 質問に答えて

ワインには水とアルコール以外に、香りを持つ物質、酸味を持つ物質、赤い色を持つ物質など、いろいろのものが含まれている。ワインを加熱して留出液を集めると、蒸気圧の大きい物質から順番にたくさん蒸発、沸騰し、それらが留出液としてたまることになる。

蒸気圧の大きさは、香りを持つ物質、アルコール、水・・・の順なので、この実験では「水が混じって、ワインの臭いのあるアルコール」がたまったわけだ。一方、蒸気圧の小さい物質(酸味を持つ物質、赤い色素など)は加熱を続けてもなかなか蒸発しない。

もし、水がすべて蒸発したとしても、中には(食塩のように)蒸発しないで、最後まで試験管に残される物質もある。また、(砂糖のように)熱で分解し、こげてしまう物質もある。

 ブランデーは色々な物質がほどよく留出するまで、ワインを加熱、蒸留して作る。加熱するときの温度、時間、蒸留釜の形などによっても成分が変わる。良いブランデーを作るにはそれなりの装置と熟練がいるのだ。


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