8 電子配置と元素の性質 太字は授業プリントに印刷した部分、( )は生徒が書き込む内容 |
アウトライン
1.電子配置・・・電子の軌道と収容数を説明。HからArまでの電子配置を書かせる。
2.電子配置と周期表・・・周期がひとつ増えると、使う軌道がひとつ増えること、同族原子は価電子数が同じであることを説明。。KとCaの電子配置を考えさせる。
3.周期表上の原子のグループ分け、周期表の覚え方を紹介。
4.【実験】炎色反応・・・アルコールとスチールウールを使って実験。
5.【実験】プラスチックを作っている元素・・・CとHの検出、バイルシュタイン反応による塩素の検出。
6.恐怖のダイオキシン・・・ダイオキシンの毒性、性質、日本の汚染状況、対策等を説明。
7.希ガス元素の性質と電子配置
8.希ガス以外の原子のイオン化
授業の内容
電子配置 もどる
電子の軌道と収容数
(K軌道(2)、L軌道(8)、M軌道(18)、N軌道(32)、・・・)
原子番号1から18の原子の電子配置
(省略)
**コメント**
軌道の名前はなぜKから始まるアルファベットの順なのか。
X線を研究していたイギリスのバークラ(Barkla)は、透過力の異なる2種の各元素固有の特性X線を発見。強いX線をK、弱い方をLと名付けた。彼は、もっと強いX線が発見されるであろうと考えて、AではなくKを使った。
しかし、それより弱いX線は発見されたものの、強いものは見つからなかった。バークラは自分の名前からKとLを使ったらしい。ポーリング「一般化学」より。
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問1 周期表の縦の列を族、横の列を周期という。同じ族の原子は電子配列にどんな共通点があるか。
(同一族の原子は、最外殻軌道の電子(価電子)の数が同じ。)
問2 電子が配置される軌道(K,L,M,N・・・)と、周期はどんな関係があるか。
(周期がひとつ増えると、使う軌道もひとつ増える。)
問3 問1と問2の答から考えて、19Kと20Caはどんな電子配置をしていると思われるか。
19K(使う軌道 N ) 20Ca(使う軌道 N )
(価電子数 1 ) (価電子数 2 )
**コメント**
19Kの電子配置は2,8,9ではなく、2,8,8,1であることを教科書で確認しました。
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問4 教科書の付録を見て、周期表と価電子数、使用する軌道の関係を下の表(省略)にまとめなさい。
価電子数
第1族(1個)、第2族(2個)、第3から11族(1,2個)、第12族(2個)、第13族(3個)・・・
使用する軌道
第1周期(Kだけ)、第2周期(Lまで)、第3周期(Mまで)・・・・・
問5 周期表は似た性質を持つ元素がまとまってならぶように工夫された表である。
まず、金属元素の仲間と非金属元素の仲間のふたつに分けなさい。そして、下のア〜ケの部分の名前を調べなさい。
金属元素 非金属元素
イ・・・(アルカリ金属) ア(水素)
ウのBe、Mg キの部分
エ・・・(アルカリ土類金属) ク・・・(ハロゲン元素)
オ・・・(遷移金属) ケ・・・(希ガス、不活性気体)
カの部分
参考 周期表の覚え方
周期表の覚え方にも色々あります。下の表は私が高校の時に聞いたものです。これで36番まで覚えられます。
H
He
水
兵
Li Be BC NO
FNe
リーベ ぼく の
船
Na Mg Al
SiPS ClAr
そーだマグネ、 アルミ君、競
輪いおう縁 ある
K Ca Sc TiVCrMn FeCoNi
Cu ZnGa GeAsSe Br Kr
か。彼氏好かん、チビ黒 マン、鉄 子 ニッコリ、どうあ
が、げ ひ セレン、臭素クリプトン
(童話が 解せない)
元素の検出(炎色反応) もどる
元素の中には炎の中で特有の色を出すものがある。これを使うと元素の検出ができる。
【実験】
(1)次の物質を蒸発皿に少しずつ取る。
物質:塩化カリウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化ストロンチウム、
塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化銅(U)
(2)それぞれの蒸発皿に、アルコールを少しずつ入れ、よく混ぜる。そして、スチールウールをちぎって蒸発皿の中に入れ、アルコール溶液をしみこませる。
(3)ピンセットでスチールウールをつまみ上げ、点火する。このときの炎色を観察しなさい。
【結果】
(省略)
**コメント**
炎色反応にはいろいろな方法がありますが、スチールウールにアルコール溶液をしみこませて点火するというやりは手軽で、炎色が割合きれいに見えます。
ただ、これを生徒実験にしますと、蒸発皿に入ったアルコール溶液がいくつも実験台に並んで危険ですし、有毒な重金属もたくさん舞い上がってしまいます。これは演示実験にしました。
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炎色と元素の関係をまとめなさい。
セキ トウ オウ リョク セイ ラン シ
赤 橙 黄 緑 青 藍 紫
Sr Li Ca Na Ba Cu K
すとりと 軽く なわばりほど く
【実験】プラスチックを作っている元素 もどる
身の回りにたくさんあるプラスチックやポリ袋などは、どんな元素でできているのだろう。
【実験1】燃やして分かる元素
@ ピンセットでポリ袋のきれはしをつまんで火をつける。乾いた大型試験管を逆さまにして、その口のところで、それを燃焼させてみなさい。試験管はくもるか。
A 上の試験管に石灰水5mlを入れ、ゴム栓をして、良く振ってみなさい。反応するか。
B スチールウールもピンセットでつまみ、火をつけて、2〜3回息を吹きかけて良く燃焼させてから、乾いた試験管の口のところで燃焼を続けなさい。試験管はくもるか。
C この試験管にも石灰水を入れ、ゴム栓をして、良く振ってみなさい。反応するか。
【結果】
試験管のくもり | 石灰水との反応 | |
ポリ袋の燃焼 | (くもる) | (白く濁る) |
スチールウールの燃焼 | (くもらない) | (濁らない) |
【考察】
(1)試験管のくもりをつくっている物質は何か。また、試験管がくもったことから、燃焼した物質の中に、どんな元素が含まれていることが分かるか。
(くもりは水による。燃焼したものにはHが含まれていることが分かる。)
(2)ポリ袋とスチールウールでは、燃焼させたとき、石灰水との反応が違う。これは、含まれている元素が違うためであるが、どう違うのかを説明しなさい。
(ポリ袋にはCが含まれているから、CO2が出る。スチールウールにはCが含まれていないから、CO2が出ない。)
**コメント**
ものが燃えると、何でもCO2を出すと思っている生徒がいます。物質にCが含まれていなければCO2が出ないことを確認しました。
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【実験2】プラスチック中の塩素の検出(バイルシュタイン反応・銅線テスト) もどる
銅線を、緑の炎が出なくなるまで、ガスバーナーで良く焼く。そして、銅線が熱いうちにプラスチックに押しつけて、もう一度炎の中に入れてみなさい。このとき、塩素を含むものは、緑色の炎を出す。色々なプラスチックでこれを試してみなさい。
【結果】
・塩素を含むプラスチックを記録しなさい。
(消しゴム、水道管、ビニールテープ、サランラップ、カバン、ビニールの傘)
・塩素を含まないプラスチックを記録しなさい。
(買い物袋、台所用ポリ袋、発泡スチロール、ペットボトル、お菓子の包み、下敷き、フィルムケース・・・)
これは、バイルシュタイン反応と呼ばれているものである。
銅線は、たくさんの銅原子が結合してできている。これを焼くと、表面の銅が酸素原子と結合して、酸化銅(U)という物質に変わる。ここへ、塩素原子を付着させて、再び炎の中に入れると、塩素は銅原子を銅線から引きはがして、炎の中に飛び散らせるはたらきをする。そして、炎の中に飛び散った銅原子が、炎の熱によって緑色の光を出すのである。
**コメント**
焼いた銅線にプラスチックをたくさんつけると、もうもうと煙が上がって、かなりくさいので、あまりたくさん銅線につけないように指導しています。
それでも、各班で実験を始めますと、部屋中がくさくなります。最近の生徒は、くさい臭いをかいだ経験が少ないせいか、ちょっとした臭いが耐えられないようです。この実験でも「くさい、くさい」という声が年々大きくなるような気がします。
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**コメント**
プラスチックにC、H、Clが含まれていることを実験で示した後、
「ダイオキシンはC、H、O、Clで構成されているから、プラスチックなどを燃やすとダイオキシンが発生するんだ」と説明して、ダイオキシンについて授業しました。
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1 ダイオキシンとは
一般にいわれている”ダイオキシン”とは、「ダイオキシン類」のことで、100種類以上の化合物が含まれている。「ダイオキシン類」は次の3つに分類できる。
@ PCDD(ポリクロロパラジベンゾジオキシン)
A PCDF(ポリクロロパラジベンゾフラン)
B Co−PCB(コプラナーPCB)
最も毒性の強いものは2、3、7、8−四塩化ジベンゾパラジオキシン(2,3,7,8−TCDD)と呼ばれる物質である。
2,3,7,8−TCDDの図
**コメント**
まだ構造式を勉強していませんので、原子を○で書いて表しました。
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2 ダイオキシンの毒性
ダイオキシンには、主に次のような毒性があるといわれている。
@強い(致死毒性)
2,3,7,8−TCDDの致死量(体重1kgあたり)
モルモット・・・ 1μg(百万分の1g)
サル ・・・・・50μg
(参考)他の物質の致死量
サリン・・・ 100〜10μg
青酸カリ・・ 3000μg(3mg)
A強い(発ガン性)・・・軟組織(筋肉や脂肪組織)のガン、リンバ線腫、肺ガン
B(免疫)機能の破壊・・・弱い病原菌によって死亡することもある。
C (生殖)機能障害
精巣萎縮、精子減少、子宮内膜症、流産
D (胎児)への影響
胎児の脳の発達障害、催奇形性
E その他
肝臓障害・・・肝臓肥大、脂肪肝、肝細胞壊死、中性脂肪・コレステロール増加
中枢神経障害・・・倦怠感、頭痛、めまい、食欲減退、精神錯乱
造血機能障害、腎機能障害、皮膚障害
**コメント**
生徒は、ダイオキシンの毒性がサリンより強いということに、驚きます。現実的には、ダイオキシンを致死量摂取することはないので、さまざまな慢性毒性の方が脅威なのですが。
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3 ダイオキシンの性質
@きわめて(分解)されにくい
発生源→大気、土壌、川、海→プランクトン→魚→人間
などの経路でほとんど分解されることがない。
A(水)にはほとんど溶解せず、(油)に溶ける
川や海では底の泥の中に多く存在する。
人体内では主に脂肪に蓄積される。半減期は10年といわれている。
B人間では、(胎盤)や(母乳)をとおして排出される。
胎児や乳児がそれだけ汚染されてしまう。
**コメント**
ここのポイントを、3つにしぼって説明しました。
(1)ダイオキシンは分解されにくいので、食物連鎖により生体濃縮され、やがて人間の体に入ってくる。
(2)水に溶けにくいので、体に入り込んだダイオキシンは尿と一緒に排出されない。
(3)人体から多量に排出されるときは、排出先が胎児や乳児であること。
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4 ダイオキシン汚染の現状
各国における大気中の(PCDD+PCDF)濃度
国名 | 地域 | 年または年度 | 濃度(pgTEQ/m3) |
日本 | 工業地帯近傍の住宅地 | 1990〜94 | 0.10〜1.30、平均(0.59) |
日本 | 大都市 | 1990〜94 | 0.02〜1.76、平均(0.53) |
日本 | 中都市地域 | 1990〜94 | 0.01〜1.36、平均(0.47) |
日本 | バックグラウンド地域 | 1990〜94 | 0.00〜0.32、平均(0.06) |
アメリカ | 都市域 | 1989 | 0.08〜0.18 |
アメリカ | 農村域 | 1989 | 0.05 |
ドイツ | 工業地域 | 1994 | 0.15 |
ドイツ | 都市域 | 1994 | 0.07〜0.35 |
ドイツ | 農村域 | 1994 | 0.03〜0.07 |
イギリス | 都市域 | 1993 | 0.04〜0.10 |
スウェーデン | 都市域 | 1991 | 0.024 |
スウェーデン | 郊外域 | 1991 | 0.013 |
**コメント**
時間の関係で、土壌や水系のダイオキシンについては省略しました。大気だけを見ても、日本が諸外国に比べて10倍近く汚染されていることを説明しました。
また、学校がある柏市の大気中にもちゃんとダイオキシンがあることを、次の資料で示しました。
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**配付資料**
「柏市 数値ほぼ標準レベル」朝日新聞千葉版(1998)
柏市の空気中に0.81pg/m3のダイオキシンが検出された。これは、環境庁に指針値0.8pg/m3と比べて「標準的だ」と柏市が説明した。
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5 日本の空気が汚れているのは?
(1) 大量のゴミを焼却しているため
日本は、狭い国土で、年間3700万トンというゴミを焼却している。この焼却量は、アメリカの1.3倍、ドイツの4倍で、世界一。日本は、国民が出すゴミの量も多いのだが、国土が狭いため、それをそのまま埋め立てるわけにもいかず、焼却しているわけである。とにかくこのゴミの量を減らさなければ、ダイオキシンの不安は消えないであろう。
(2) 焼却炉の対策が遅れていること
スエーデンなどでは、ゴミ焼却場から排出されるダイオキシンの量を20年も前から規制し、今ではすべてのゴミ焼却場で0.1ng/m3以下でになっている。ところが、日本ではその対策が遅れ、現在、やっと80ng/m3以上のダイオキシンを出すゴミ焼却場を改善しようとし始めたところである。
ゴミ焼却施設からのダイオキシン排出濃度のグラフ
**コメント**
グラフから、1997年の段階で、日本のほとんどの焼却炉はスウェーデンの基準を越えていることを示しました。
次に、下の資料1で、毎日体に入ってくるダイオキシンの量を示し、これはWHOの考え(1〜4pg以下)の厳しい方と比べれば、大きな値であることを説明しました。
さらに、資料2で、今開かれている国会でもダイオキシンの排出を規制する動きがあること、資料3で、行政や個人はどんなことをすべきかを読ませ、感想を書かせました。
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**配付資料1**
「6割は魚介類から」毎日新聞、1999,2,22
ダイオキシンの6割は魚介類から、2割が肉や卵から、野菜からは5%ほど。魚介類からの摂取が多いのは、日本人が魚介類をたくさん食べるから。
ダイオキシンの1日あたりの摂取量はコプラナーPCBを含めて、体重1kgあたり2.41pg。
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**配付資料2**
「ダイオキシン法案、今国会成立へ」日本経済新聞、1999,4,22
ダイオキシンの耐容1日摂取量について、現在、厚生省の基準は10pg以下となっている。一方、WHOは1〜4pg以下にすべきだと言っている。今国会では、これを4pg以下とすることが提案される。
これに伴って、焼却炉などの規制値の見直しも必須になるが、食品ごとにダイオキシン濃度の基準を設けることには消極的。
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**配付資料3**
宮田秀明著「ダイオキシン」岩波新書より
行政レベルの対策
環境教育の充実。ドイツでは、燃やすことは毒を作ることであると教えている。
個人レベルの対策
(1)ゴミになるものをなるべく入手しない。
(2)ゴミの再利用をすすめる。
(3)リターナブル容器の物品を購入する。
(4)再資源化製品を積極的に購入する。
(5)生ゴミの堆肥化をすすめる。
(6)ゴミの分別を徹底する。
(7)家庭用の焼却炉、野焼きをやめさせる。
根本的には、大量消費、大量廃棄という生活習慣を変えること。
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希ガス元素(不活性気体) もどる
周期表の同じ族(縦のグループ)には、性質の似た元素が集まっている所もある。18族の希ガスと呼ばれる元素は全く化学反応を起こさない元素である。
【実験】(1)ヘリウムを風船に入れ、手を離してみなさい。
(風船が浮かぶ)
(2)ヘリウムを水上置換で集気ビンに集め、火をつけてみよ。
(火が消える)
**コメント**
ヘリウムガスを買って、実際にやって見せました。生徒は、水素のように軽いガスなのに、火が消えることに意外な感じを持ったようです。
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問 不活性気体は何に使われるか。又、電子配列上の共通点は何か。
He・・・(ガス風船、アドバルーン、飛行船)
Ne・・・(ネオンサイン)
Ar・・・(白熱電球)
Kr・・・(電球)
Xe・・・(カメラのストロボ、映写用電球)
Rn・・・(使われていない)
電子配列の共通点
(もっとも外側の軌道の電子数が8であること。Heは2)
問2 希ガス元素以外の原子はどのようにして安定になるか。
(1)塩素原子 (2)ナトリウム原子
図省略 図省略
問3(1)第一イオン化エネルギーとは何か。
(原子から電子を1個引き離すために必要なエネルギー)
(2)第一イオン化エネルギーは周期表とどんな関係があるか。
(同一周期では左、同一族では下の原子ほど値が小さい。)