アウトライン
1.エネルギーを持っているものとは・・・化学エネルギーというものがあることを見せる。
【実験】化学カイロを作ろう
2.高エネルギー物質と低エネルギー物質・・・化学エネルギーをたくさん持っている物質は金属と有機物であることを実験。金属は人間が作り、有機物は植物が作っていることを説明。
【実験】高エネルギー物質と低エネルギー物質
3.私たちの生活とエネルギー・・・私たちが石油の化学エネルギーに頼った生活をしていることを説明。それにともなってCO2が増加していることを知らせる。そして、CO2削減対策について考えさせた。
電気・ガス・水道使用量調査
4. 反応熱の表わし方・・熱化学方程式について説明。
5.結合分離と反応熱・・・”くっつくときには熱くなり、分かれるときには冷たくなる”
6.結合エネルギーと反応熱
7.反応熱の種類
8.ヘスの法則
授業の内容
※※コメント※※
物質が化学エネルギーを持っているということは、イメージしにくいものです。そこで、まずエネルギーとは物体を動かす能力であることを示し、アルコールが物体を動かせるかどうかを実験しました。
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動いているボールが静止しているボールに衝突すると、静止していたボールが動き始める。動いているボールのように、他の物体を動かす能力があるものは、エネルギーを持っているものだと言える。
問1 高いところに静止しているものは、エネルギーを持っていると言えるか。それはなぜか。
問2 アルコールはエネルギーを持っていると言えるだろうか。図のように、フィルムケースにアルコールと酸素を入れ、フタをして、電極間に電気火花を飛ばしてみなさい。
・運動している物体が持っているエネルギー・・・
運動エネルギー 物体の(速度)が減少するときに放出される ・高いところにある物体が持っているエネルギー・・・位置エネルギー 物体が(落下)するときに放出される ・アルコールが持っているエネルギー・・・ 化学エネルギー (化学)エネルギーを(たくさん)持っている物質が、あまり持っていない物質に変化するときに放出される |
※※コメント※※
物質が化学エネルギーを持っていることを肌身で分かる実験として、化学カイロづくりを行いました。
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化学カイロは、鉄がさびるときに発熱することを利用している。
【反応式】
鉄がさびる反応は複雑であるが、次のように、鉄が酸素と反応するものと考えられる。
4Fe + 3O2 → 2Fe2O3
【実験】
(1)紙の封筒にパーライト5gと鉄粉20gを入れる。
(2)ろ紙1枚を5%食塩水で濡らし、封筒の中に入れる。
(3)封筒を良く振って混合すると、発熱するであろう。
(4)チャック付きのポリ袋に先のとがったもので数カ所穴を空け、その中に封筒を入れておくと、温かさが長持ちする。
【参考】
(1)食塩水の役目
鉄がさびる反応は遅いので、普通は発熱を感知できない。食塩水は鉄がさびる反応を速くする働きがある。
(2)鉄の粉末を使う理由
鉄はかたまりではなく、粉末のものを使っている。これは、粉末の方が酸素との接触面積が大きく、鉄が速くさびるためである。
(3)パーライトの役目
鉄粉をそのまま食塩水中につけると、空気(酸素)と接触できなくなってしまう。パーライトは空気をたくさん含む「多孔石」である。これを使えば、パーライトの孔に食塩水がしみこみ、空気と食塩水と鉄粉をうまく接触させることができる。
(4)穴のあいたポリ袋に入れておく理由
紙の封筒のままだと、空気が自由に出入りし、酸素がカイロの中にたくさん入って、急に温度が上がり、すぐ反応しきってしまう。穴のあいたポリ袋に入れておけば、酸素が徐々に入り、少しずつ、長時間、反応し続けるのである。
※※コメント※※
化学カイロをあるドイツ人にあげたところ、「これはどうやって捨てるのか」と尋ねててきたそうです。あげた日本人がきちんと答えられなかったところ、そのドイツ人は「捨てかたが分からないものはいらない」といって、返したそうです。授業の最後に、この話をしました。自分たちで作ったカイロの温かさを楽しんでいた生徒に、少しだけ環境を意識させました。
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2 高エネルギー物質と低エネルギー物質 もどる
問1 鉄や酸素と比べて、酸化鉄(V)はエネルギーをたくさん持っていると言えるか。化学カイロの実験から考えよ。
問2 高エネルギー物質、低エネルギー物質とは何か。またそれらは、具体的にはどういうものをさすか。
高エネルギー物質・・・化学反応して、エネルギーを生じるもの。つまり燃えるもの。
低エネルギー物質・・・燃えないもの。
※※コメント※※
「高エネルギー物質の例をあげなさい」と生徒に質問しても、たいてい答えられません。「反応してエネルギーを出すものを考えればいいんだ」と助け船を出しても、「マグネシウム」とか「炭素」など、教科書に出てくるようなものが2つ3つ出てくる程度です。そこで「エネルギーが出る反応とは、燃える反応だ。だから、燃えるものが高エネルギー物質だ」と言うと、はじめて生徒の中で高エネルギー物質というイメージができるようです。実験後のレポートにある生徒は、「高エネルギー物質といわれてもぜんぜん分からなかったが、燃えるものだと聞いてなるほどと思った」と書いています。
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【実験】高エネルギー物質と低エネルギー物質 もどる
【方法】
(1) 次の物をピンセットでつまめるものはつまみ、つまめないものはアルミホイルを巻いたさじに少量乗せ、ガスバーナーで加熱しなさい。そして、燃えたり焦げたりするかどうかを観察しなさい。
ポリ袋、味の素、発泡スチロール、大理石、スチールウール、砂糖、食塩、
バター、赤土、せっけん、マヨネーズ、その他
(2) 試験管に約4分の1の水を入れておく。ピーナッツ1個をピンセットでつまんで、ガスバーナーの炎で燃焼しなさい。その炎で試験管の水を加熱しなさい。沸騰させることができるか。
【結果】
燃えたり、こげたりしたものを下に書きなさい。
【考察】
(1) 実験したもの以外で、燃えるものをできるだけたくさんあげなさい。
(2) 燃えないものの例をできるだけたくさんあげなさい。
(3) 物質を金属・イオン性物質・分子性物質に分類したとき、大まかに言って燃えるもの、燃えないものは、それぞれどこに当てはまるかを考えなさい。
金属・・・燃えるもの(さびるもの)
イオン性物質・・・燃えないもの
分子性物質・・・CO2やH2Oを除いて、ほとんどが燃えるもの
【感想】
年 組 番 氏名
※※コメント※※
(1)土は植物が腐植してできたものだ、というイメージを持っている生徒が多いようです。生徒は、赤土は加熱しても黒くこげないことにおどろきます。ただ、赤土は加熱によって変色しますので、それを焦げたと勘違いする生徒もいました。
(2)この実験のまとめは、「燃えるものは金属と有機物である」ということです。
(3)最近、家庭でゴミを燃やすことがなくなったせいか、生徒の持つ燃えるもの燃えないもののイメージが貧弱です。中には、土も木も石もコンクリートも何でも燃えると思っていたという生徒もいます。それから、焦げることはなぜ燃えることと同じなのかと疑問を持つ生徒もいます。
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3 私たちの生活とエネルギー もどる
問1 高エネルギー物質はひとりでに低エネルギー物質に変化することがあるか。逆に、低エネルギー物質がひとりでに高エネルギー物質に変わることはあるか。
ない。(自然はエネルギーの低い状態を好む)
問2 高エネルギー物質である有機物や金属は、地球上で誰がどのようにして作っているのか。
有機物・・・植物が光合成で作っている。
金属・・・人間が鉱物から作っている。
※※コメント※※
低エネルギー物質にエネルギーをそそぎ込んで、有用なものを作っているという話をしました。
次に、私たちの生活は石油の化学エネルギーに頼って成り立っていることを気づかせようと思い、次のような問を考えさせました。
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問3 私たちは主に次のようなエネルギーを使って生活している。これらのエネルギーはどうやって作っているのかを答えなさい。
石油
ガス
電気・・・火力発電(石炭や石油)
水力発電(水の位置エネルギー)
原子力発電(原子核のエネルギー)
その他(風力、波力、太陽熱、地熱など)
※※コメント※※
石油エネルギーに頼った生活が、温暖化を引き起こしていることを考えさせました。
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問3 私たちはエネルギーを使うことによって、環境にどんな影響を与えているか。
二酸化炭素を増加させている。
二酸化炭素増加のようす
※※コメント※※
ハワイと南極点におけるCO2濃度の変化をグラフで示しました。
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二酸化炭素は減っているか
【考察】
(1)各自が自分の家庭の1ヶ月の消費量を調べ、下の表を作りなさい。最低、電気、ガス、水道の消費量を記入して、1ヶ月の二酸化炭素排出量を求めること。
(2)この二酸化炭素中に、炭素は何kg含まれているか。
ヒント:CO2(分子量44)44g中に、炭素は12g含まれている。
(3)スウェーデンなみの炭素税が実施されたとしたら、(2)の炭素にいくらの税金がかかるか。1ドル=110円として計算せよ。
(4)環境税をかけて二酸化炭素を減らそうという考え方についてどう思うか。
年 組 番 氏名
※※コメント※※
漠然とCO2を減らす対策について考えさせると、多くの生徒は「一人ひとりが気をつけましょう」という道徳的なことを書いてきます。ですからここでは、具体的な対策である環境税を取り上げ、これについて考えさせました。スウェーデンなみの炭素税でも、家庭で使った電気、ガス、水道にかかる税額はそんなに大きくはありません。ですから、(4)で環境税に反対する意見を述べた生徒は少数でした。しかし、炭素税は企業で使っている燃料にもかかります。そして、その分が消費価格に反映されるとしたら、物価は上がるはずです。このレポートを返すときに、次のようなプリントを作りました。
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電気・ガス・水道使用量調査結果 もどる
電気 | ガス | 水道 | |||
使用量(kWh) | 人数 | 使用量(m3) | 人数 | 使用量(m3) | 人数 |
100〜199 | 3 | 0 | 2 | 0 | |
200〜299 | 3 | 1〜10 | 5 | 1〜10 | |
300〜399 | 19 | 10〜19 | 3 | 10〜19 | 1 |
400〜499 | 11 | 20〜29 | 9 | 20〜29 | 9 |
500〜599 | 17 | 30〜39 | 10 | 30〜39 | 12 |
600〜699 | 4 | 40〜49 | 3 | 40〜49 | 1 |
700〜799 | 8 | 50〜59 | 10 | 50〜59 | 3 |
800〜899 | 1 | 60〜69 | 7 | 60〜69 | 7 |
900〜999 | 1 | 70〜79 | 5 | 70〜79 | 7 |
1000〜 | 1 | 80〜89 | 3 | 80〜89 | 4 |
90〜99 | 1 | 90〜99 | 1 | ||
100〜 | 8 | 100〜 | 1 |
炭素税はいくらになるか。(1ドル=110円として)1997年、日本の二酸化炭素排出量は12億2700万t。これに税がかかると:
日本人の人口を1億1千万人とすると一人あたり
3.346 × 108 × 1.1 × 10ー9 = 3(t)
一人あたりの炭素税は年間
3 × 150 × 110 = 50000(円)
家庭で使っている電気、ガス、水道だけでなく、工場などからも二酸化炭素は排出されている。それにかかる税は、物価の上昇という形で、消費者の負担になるとすると、年間ひとりあたり約5万円の負担になる。
※※コメント※※
炭素税がそのまま物価上昇になるわけではないでしょう。ただ、環境に配慮しようとすれば、多少の負担を覚悟しなければならないことを話しました。
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4 反応熱の表わし方 もどる
反応熱は、次のような熱化学方程式で表される。
NH4NO3(固) + aq = NH4NO3aq − 6.1kJ
熱化学方程式の各記号の意味 @式の係数・・・ 物質量(mol) A反応熱の符号 +・・・発熱反応 −・・・吸熱反応 B物質の状態をそえる 例 (固体) (液体) (気体) (aq) |
問 上の熱化学方程式はどんな意味か。
5 結合分離と反応熱 もどる
問1 原子や分子が結合するときは、エネルギーを放出するか、吸収するか。結合していた原子や分子が分離するときはどうなるか。
原子や分子が結合するとき・・・発熱
原子や分子が分離するとき・・・吸熱
問2 バラバラの原子と、結合している原子では、どちらの方が化学エネルギーをたくさん持っているか。
バラバラの原子
問3 次の反応は、発熱反応か、吸熱反応か。
(1)C + O2 → CO2
(2)NH4Cl → HCl + NH3
6 結合エネルギーと反応熱 もどる
結合エネルギーとは
・原子どうしの結合を1モル切断し、バラバラの原子にするときに(吸収)するエネルギー
・バラバラの原子どうしが1モルの結合を作るときに、(発熱)するエネルギー
問1 H−Hの結合エネルギーは436kJ/mol、O=Oの結合エネルギーは498kJ/molである。この意味を言いなさい。
結合エネルギーの値を使うと、反応熱を計算することができる。
問2 水素1モルが燃焼するときの熱量を結合エネルギーの値から求めよ。
@水素と酸素の反応を化学反応式で表しなさい。
A原子どうしの結合、分離の様子を図に表しなさい。
B・H−H結合は何モル切断されるか。(1モル)
・O=O結合は何モル切断されるか。(0.5モル)
・H−O結合は何モル生成されるか。(2モル)
Cこの反応の反応熱をもとめなさい。H−Oの結合エネルギーは463kJ/molである。
−436−498/2+463×2
Dこの反応の反応熱を熱化学方程式で表しなさい。
問3 結合エネルギーの値を用いて、次の熱化学方程式の反応熱を求めなさい。
CH4 + 2O2 = CO2 + 2H2O + Q
結合エネルギーはC−Hが416、C=Oが804kJ/molである。
7 反応熱の種類 もどる
(1)燃焼熱・・・物質( )モルが、( )するときのエネルギー
例 マグネシウムの燃焼熱
(2)生成熱・・・物質( )モルが、( )から生成されるときの熱量
例 塩化ナトリウムの生成熱
(3)中和熱・・・( )と( )が中和して、( )が( )モル生成されるときの熱量
例 硫酸と水酸化ナトリウムの中和熱
(4)溶解熱・・・物質( )モルが多量の溶媒に溶けるときの熱量
8 ヘスの法則 もどる
次の3つの熱化学方程式の関係を調べてみよう。
@ NaOH(固) + aq = NaOH(aq) + 45kJ
A NaOH(aq) + HCl(aq) = NaCl(aq) + H2O(液)+56kJ
B NaOH(固) + HCl(aq) = NaCl(aq) + H2O(液)+101kJ
それぞれの熱化学方程式の関係を図で表してみよう。
ヘスの法則 反応熱は、物質の(反応前)と(反応後)の状態で決まり、 (反応の経路)には関係しない。 |
問1 水酸化ナトリウムと塩酸の反応で、@とBの反応熱が分かっているとき、A の反応熱をヘスの法則から計算しなさい。
ヘスの法則を使うと実際には起こすことができない反応の反応熱も計算することができる。
問2 次の熱化学方程式を用いて、プロパンの生成熱を求めなさい。
C(黒鉛) + O2(気) = CO2(気) + 394kJ
H2(気)+ 1/2O2(気) = H2O(液) + 286kJ
C3H8(気)+5O2(気)=3CO2(気)+4H2O(液)+2219kJ
★生成熱とは元素から物質1モルが生成されるときの熱量で、プロパンの場合は次の熱化学方程式の熱量Qを求めればよい。
3C(黒鉛) + 4H2(気) = C3H8(気) + Q
問3 次の熱化学方程式を用いて、アンモニアの生成熱を求めなさい。
H2(気)+ 1/2O2(気) = H2O(液) + 286kJ
N2(気)+3H2O(液)=2NH3(気)+3/2O2(気)−633kJ
★アンモニアの生成熱
問4 下の値から、エチレン(C2H4・気体)の燃焼熱を求めよ。
H2(気)+ 1/2O2(気) = H2O(液) + 286kJ
C(黒鉛) + O2(気) = CO2(気) + 394kJ
2C(黒鉛) + 2H2(気) = C2H4(気) − 54kJ
★エチレンの燃焼熱とは、エチレン1モルが燃焼するときの熱量である。この熱化学方程式を自分で考えて、問題を解きなさい。