WEEKLY INTERVIEW 再録
(毎月1日、16日更新)
第3回 1976年 出典:76年1月26日「オールナイトニッポン」
DJ山下達郎 ゲスト吉田美奈子(ニッポン放送)
「FLAPPER」全曲紹介 及びコメント
後半
山下(以下T)「これからがB面ですけど、B面が、これが(笑)すごいんだ!」
吉田(以下M)「これがすごいんですよ(笑)」
T 「これがB面のトップに入っている曲なんですけど、大瀧詠一氏の曲で、といえば
だいたいイメージが湧くでしょうけど、これがまたものすごい(笑)んだよ。
あの人は、前のLPでも「わたし」をどこに入れるか迷ったんだよ」
M 「迷ったんだあ」
T 「何がでてくるか?全然わかんないからさ」
M 「あの人はいつも一番最後になるから」
T 「これはB−1なんだよね。」
M 「エーイチなのにB−1(ビーイチ)とは これいかに?(笑)」
T 「それでは聞いていただきましょう」
M 「えーと ”夢で逢えたら”」(曲「夢で逢えたら」が流れる)
T 「最初が、ド演歌っという感じで始まったって、だんだん何か「おかしい」「おか
しい」って、で最後にイタリアに飛んで、ラ〜〜ララ、ラララッラ〜」
M 「これって、よく聞くと繊細な部分はみんな埋まっているわからないんだけど、す
ごい濃厚なのよね、いろんな音が。だからお買い上げの際は、細かくクレジット
を見て、何の楽器が入ってるか確認して”何の楽器を聞こう”と思えば、その繊
細なところに、ちゃんとその楽器の音が鳴ってるというミックスダウンで…」
T 「1001回聞いても飽きない出来になっている。」
M 「そうだね、細かくね」
T 「大瀧さんの最近の最高傑作だと、自分で喜んで、機嫌良く(笑)福生におもどり
になりましたけど、なかなか素晴らしい」{笑)「どっかで聞いたような。け
っこう話する時間するがないね、次の曲は?2曲目 佐藤博の”チョッカイ”ち
ょっと皮肉の… これがまた、全然前の、B1とB2がブッ飛ぶようなコントラ
ストになってて…」
M 「もう1曲かけちゃう。3曲目はわたしの曲です。」
T 「よっ!!まってました!」
M 「”扉の冬”をお好きな方はよろこびそうな。ピアノと歌とで一発録りしたんだけ
ど、”忘れかけてた季節へ”で、ライブスポットとかではやってて、自分でも好
きな曲で…」
T 「それでは2曲続けて…」(曲「チョッカイ」「忘れかけてた季節に」が流れる)
T 「あのさあ 君のやってる音楽ってソウルミュージックっぽいじゃない。ソウル!
好きでしょ」
M 「好き」
T 「昔、聞いたことあるけど、例えば日本人がソウルやるってことに関して、美奈子
なんか難しいとこやってるじゃないの、アレサフランクリンとか」
M 「うん。(笑)そうかな?」
T 「そういうものに対する反発ってかなりあるんだよ。そういう… 」
M 「ああ、ライブ(MINAKOK)に入ってるやつか」
T 「アレサのかなり影響を受けてるし、かなり凝ってるしね。そういうのに 反発あ
るんじゃない?どう思う?」
M 「例えば、アレサフランクリンを全く知らない人は、そうは思わないでしょ。」
T 「黒(人)、俺達と黒人が同一視されることは間違ってるんだよ。」
M 「そうだよ。同じような音出して、同じような唄歌っても日本人がやってりゃ日本
人の音楽なのよ。」
T 「白人のミュージック、ロックミュージック、ロッキングサイドのミュージックを
やるというのは白人や外人じゃなきゃ。白人の声帯が違うとか(笑)」
M 「骨格が違うとか(笑)」
T 「オレ、白人がやるBLUE EYED SOUL ってすごく好きなのよ。白人がリズム&ブ
ルースやってるのはさ、俺らと全然意味が違うけど、黒人に接近してやってるじ
ゃない。一頃、オレが好きなラスカルズが黒人にも絶大な人気あったのよ。そう
いうものを10年くらいで勝ち取ったじゃない。全然意味違うけど、ぼくらもイ
エローソウルみたいなのあると思うよ。例えば、上田正樹とか、そういう泥臭い
のやってる人、ソウルとかブルースやってる人はできるけど。意外とソフィティ
ケイティッドソウルみたいのがあるじゃない。そういうものには僕ら反発あるじ
ゃない、ねえ?」
M 「そういうのは…あんまり関係ないんじゃない?ポイントは違うかもしれないけど
やっぱり音楽をずっと続けていくことがいいんだよ。その時、その時の形が何っ
っぽいとかね、なってもそれはしょうがないことで、感覚でしかないんだよ。そ
のへんは物を作っている人はみんないっしょだと思うんだ。例えば絵書く人達も
何風、何風とかいわれても、クリエイトする人たちってそういうのを宿命として
持っているんだから、そんなこと言うことがナンセンス。そろそろ、わかっても
いい頃だと思うけどね。」
T 「ところで、吉田美奈子はなぜ ボクというか というインタビューですごくうけ
るんだよな(笑)。こっちなんか、慣れてるからハタで聞いてるとバカらしいん
だよね。(笑)この人は自分のことを”ボク”と言う人、ただそれだけなのよ。
(笑)」
M 「そうそう(笑)」
T 「B面の4曲目か。ついにでました僕の曲なんですけど。」
M 「ついにでました。(笑)」
T 「”ラストステップ”これは美奈子の詩なんだけど。ソウルを意識してやろうと思
ったんだけど、モータウンビートとかそういうの昔から好きでやりたかったんだ
けど、難しいもんでね、だいたい下手な歌手はドライブしてマイルドな雰囲気だ
せるか、だせないか、それが うまい へた なんだけどさ。別に、音程がしっ
かりしてるとかじゃなくて、そういう無言の了解ができるコンピレーションがな
いとサウンドでないからね。僕の曲。ティンパンアレイだから、みんな そうい
うの好きだからねえ。」
M 「間にアレンジャーが1人」
T 「そうだ、アレンジャーのことも言わなきゃ。矢野誠さん。昔、南佳孝とかあがた
森魚とかやって、日本では異色のアレンジャーだね。」
M 「割と貴重な存在」
T 「あまり妥協しないで物事を進める。」
M 「もの凄い!真剣だしね。」
T 「ということで、”ラストステップ”」(曲「ラストステップ」が流れる)
T 「”ラストステップ”ところで、詞のこと あんまり話してなかったね」
M 「ウーン」
T 「詞のシテュエイションみたいなことあるじゃない?必ず、キーワードだれでも持
っていると思うけど、松本隆だったら”風”とか”街”とか”指切り”とかさ。
君の場合は”ハイウェイ”とか”街”が多いね。」
M 「”街”だね。」
T 「それが都会的サウンドといわれる所以なんだけど」
M 「どこが何だかわかんない。」
T 「どうですかね。」
M 「”時””ハイウェイ”と”風”言葉に出てない場合もあるし、でてる場合もある
けど、”風”は常に吹いているんだよね。で自分の対象物として男の人を置いて
いるんだけど、その男は見えなくて、風が吹いて、風がその男に当たって自分に
感じられるんだけど、その男の姿形は見えない みたいな、すごく抽象的なんだ
けど、それで田舎じゃないんだよね。常にそういうことが漂っているというか…
時というのは誰も逃れられないものじゃない?時は常に同じに刻んでて、その中
の瞬間と刻んでいながらの空間というのが出せたらいいな と思う」
T 「空間と言えば、君の詞は立体的だと思うのね。松本隆君のは平面的だと思う。真
上から2次元的な感じ、君のは空間みたいで、例えば 道がずっと続いてて、そ
の向こうまで行くような感じがする。」
M 「でも、たどり着かないんだよね。」
T 「うん。先は?」
M 「えんえんと、たどり着くと想いながら、実はたどり着かないみたいな」
T 「映画ってそういうものだと思う。2次元のスクリーン上に3次元がくっついてる
わけじゃない。だから映画的」
M 「うん。絵画的という人もいるけどね。」
T 「?俺は、絵画は2次元だと思うね。というか、2次元と3次元の中間、変な表現
だけど、そういう役割って絶対あると思う。テレビは全然映画的じゃないだよ。
テレビで映画やっても全然。あんなんじゃないよ、2次元的だよ。」
M 「じゃあ、ラジオは?」
T 「ラジオは1元的?かなあ」
M 「いやあ!テレビよりももっと立体的だと思う。その聞いてる人の場所、空間とか
左右すると思う」
T 「電波が飛んで、北海道の人が聞くって立体的で面白いよね。それではB面最後の
曲で またまた私の曲でラストテーマという雰囲気です。」
M 「細かく聞いてもらうとわかると思うのですが、A面1曲目の”愛は彼方”と最後
が”永遠に”というフレーズがちゃんと締めくくりをやってる、少し繊細なアレ
ンジです。」
T 「自分では今、最高に気に入ってるんだ、これ。自分の本音が出て、いままでポッ
プだとか言われて自分では、そういう感覚ないんだけど、言われてみるとそうい
ものも好きだったけど、僕自身はマイナーと言われる音楽が本音の部分で頭にあ
るのよ。それでポップなものもあるけど、ここでは「大作」になっちゃった。
M 「この曲はリズム隊もティンパンじゃなく、関西リズムセクションだからね。」
T 「なかなか重くて、バー〜ってところあるよね」
M 「空間がね。」(曲「永遠に」が流れる」)
T 「ということで全10曲紹介いたしました。」
M 「ぐしゃぐしゃだけど、聴けば聴くほど繊細であることがわかると思うけど、そん
な中にも1本芯みたいなものがあるのも、わかってもらえると思うなあ。最後に
僕の話について、詞の対象物というので男だと言ったけど、それは男の場合もあ
るけど、その男というのは音楽だったり、自然だったり、必ず裏がある。だから
言葉が男だからってただ男と取って欲しくない。それで、そのイメージを自分で
解釈してほしい。詩人としての解釈。」
T 「男としてとれば、ラブソングだろうけど、60年代中期のアメリカのプロテスト
ソング(ディランやバエズやPPMとか)みたいに社会の批判の歌みたいにとら
れることもあるし、そういうのと似ていると思った。そういうのはポップソング
、ヒットソングとしても通用するんだから、どっちでもとれるというのは偉大な
音楽なんじゃない?」
M 「じゃあヒット いただき?」
T 「次はでるの?」
M 「どうだろう?(笑) さよなら」