WEEKLY INTERVIEW 再録
(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業
第48回
出典:「月刊JAZZ」76年2月号
”スキャット”第11回
吉田美奈子さんのインタビュー
(1975年の暮れ、)
2回連続の 1 回目
吉田美奈子のRVC契約第1弾LP「MINAKO」がたちまちのうちに
実数で2万枚売れてしまった。脱ジャンル、ジャストシンガー、ニュー
ミュージック等々。多くのいいようがなされてきて久しい。吉田美奈子
のミュージシャンライクな歌の世界はそれらの形容をすべからく包み込
みうるだろうか?ジャズ、ロック、ソウル、フォーク…確かに「MINAKO
」の中にはMINAKOの6文字をもってしか名付けようのない、たゆとう
世界がある。時代はまさに来たるべき歌手=音楽家の到来を要請して
いる。「MINAKO」は、どこまでも悲しく、どこまでも優しい。そしてどこ
までもアンニュイなのだ。
インタビューは去る1975年12月24日昼下がり。東京は目黒にあるパ
イオニアスタジオで行われた。再録にあたり、質問は全てカットされた。
文中「ボク」と出てくるが、吉田美奈子は自分自身のことを何故かそう表
現する
吉田(以下M)「ボク、ジャンル分けするのがあんまり好きじゃないんですよね。ですからレ
コードのコレクションにしてみても、まあそんなにたくさん持ってるわけじゃないんです
けど、『トロピカル』があればその横に『バッファロースプリングフィールド』があったり
『マリーナショー』があれば、『アースウインド&ファイアー』があり、そのとなりに、わり
と好きな『チャットベイカー』があったりして、聴き方としてメチャメチャなんですよね。だ
からボクはジャズシンガーではないですけれど、要素的にいって受け取る人にジャズ
の要素があると言われてしまえば、もうそれでしょうがないし… 。とにかくボクは差別
なしにいろんなものが好きなんですよ。」
M 「ボクのやっているのは。既成の何とかいうんじゃなくて、もう単にミュージックなんです
。幅広くもあるし、狭くもあるし、単にミュージックでしかないんです。だから、ジャンル
分けしなくちゃいけないと言われても、自分から何だ!とは言われないし、また聴いて
る人も何かとは言えないんじゃないですか。だからジャズの好きな方は、例えば”マイ
ファニーヴァレンタイン”なんかを唄えば、ジャズを唄っていった方がいいよって言われ
るし、ソウルの好きな人は、例えばチャカカーンの曲を取り上げて唄えば、それいいね
って言うだろうし、カントリーの好きな人はカントリーっぽいのをやった時に、そういう言
い方をするだろうし、……。 要するにみんな要素なんです。だからわりと自分の歌を、
そんなにかたくなに守ろうという気はないし、楽しめればいいというやり方なんです。
だから単にミュージックだと思うんです。」
M 「ミュージックを意識しだしたのは、クラシックを聴いていた小さな頃からですね。中学の
頃からR&Bに凝りだしたんです。もちろんクラシックは今でも好きですし、平行してる
んですよね。で、曲を作って唄って、お金をもらってやり始めたというのは16歳のあた
りからです。」
M 「ボク、目標とかアイドルとか、そういう人が昔からいないんですよね。グレイトなミュー
ジシャンはグレイトだなとは思うんですが、目標とかそんな風には考えていないですね
。雰囲気として好きなのはアレサフランクリンなんです。それと白人ですと、ローラニー
ロなんか…。だいたい曲を作るきっかけとなったのがローラニーロなんですよね。あの
人は別な意味ですごくソウルフルな人で、なんとなく身近な感じがするんです。彼女は
やっぱりニューヨークの都会の人でしかないんですよねえ。ボクの中にある感じも、田
舎のイの字もないんですよね。そういったものを作ろうとは、何回か試みたんですけど
も、やっぱり自分の中にないイメージというのは作れないですよ。イメージのないもの
を形にしてしまうよりは、唄えるんだったら都会の歌を唄った方が自分にはあってるし
曲の中で、その詩の流れとして郊外へいくものはありますけれども、結局、出発してい
るところは都会なんですよ。」
M 「最近クローズアップされてると言われるんですけれど、なんら昔とは変わったことをや
っていないんですよ。一貫してやってきたといいますか、だから今作ってる新しいアル
バム(註 『FLAPPER』)に入っている曲のなかにも、2年前に作ったのとか、とにか
く差がないんですよ。自分をゼロの線だとすれば、それにプラス、マイナスの波の運
動があって、その波が今プラスのところにきているということだけで、これからもボクは
同じことをやっていくだろうし… 」
M 「わりと日本人というのは、あきっぽいとされていますけれど、日本というのはいろんな
ミュージックが入りやすくて、いろいろミュージックを選べる国だと思えるんですよね。
だから幅広くなっちゃうのはしょうがないし、表に出された音にいろいろな要素が入り
込んでるでしょう。だから別にあきっぽいんじゃなくて、いろいろ好きなんだと捉えても
らえば一番いんですよね。これだけいろんなミュージックがあって、その中に日本の音
楽もあれば、いろんな民族音楽も入り込んでるし、今更どれというんじゃなくて、これか
ら音楽をやっていく若い人はその中から自分の個性と較べて自由に選べばいいんだと
思うんですよ」
M 「でも結局、日本という国の民族的な生活の環境がわりとリズムや音色になって出てき
たり、言葉の情緒となって出てきたり、だからどんなにむこうのコピーをしても、同じ音
を出しても日本人の音なんですよ。間のとり方も日本人だし、だからそれをうまくね、そ
れはなにも民謡を取り入れろ!というんじゃなくて、単にアメリカでは売れないから、珍
しそうな尺八を入れたりと、そんなのはもういいんですよ。新しいミュージックをやってい
くなかで、日本的なものを出していけばそれは個性になってゆくと思うんですよ。」
M 「いま、アメリカでレコーディングをしないかという話があるんですけど、何かいい曲を持
っていて、”ああ、これだったら誰々にやってもらったら最高!”だと、本当に納得でき
る曲が揃っていれば、向こうへ行ってレコーディングをやりますけれど、そうじゃない場
合は日本のミュージシャンだって数倍うまい人たちだってたくさんいますしね。だから
気心の知れた仲間の人たちとやった方がずっと気分的に楽しいしね。まあ、アメリカ
へ行けばきっと違うこともありますけれど、『ノリ』のこととか…、でもそんなに差はない
と思うんですよ、レコードの場合は。差が出てくるのはやっぱりステージなんですよね
。ショウという形だけじゃなくて、音楽がガッチリしていて、それをワーっとハデに観せ
る要素というのが日本ではまだあまりないですね。で、ライブの面では、やはり弱くな
っちゃうところがあって、こころへんのライブのレベルをもっと上げたいとは思っていま
すけれど…。」
M 「ボクの歌を聴いてくれているのは、だいたい大学生が多いみたいですね。子供はそん
なに来ませんね。(笑)高校生でも高学年、またポスタープレゼントなんかに応募して
くれるのは、わりと主婦の人とか、なんかバラバラなんですよ。ローラニーロの来日公
演の時もお客さんの層がバラバラなんですね。ボクの場合もそれなんかと似ているん
じゃないですか。あと、お客さまで来てくださるのは、わりとミュージシャンのかたが多
いんですよね。ちょっとヤバイんですけどね(笑)」
以下 次回