WEEKLY INTERVIEW 再録
(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業
第49回
出典:「月刊JAZZ」76年2月号
”スキャット”第11回
吉田美奈子さんのインタビュー
(1975年の暮れ、)
2回連続の 2 回目
吉田(以下M)「自分の歌に対しては、まだまだ納得はしていないんですよね。だから1時
間ごとに気分を変えるというか、ヘタじゃないという感じはするけど、うまいなんて思っ
ていないです。どちらかというと、わりとくずすことをね、気にしてるんですよね。うまく
そしてやっぱりノリのいいことをね。まあ、むこうのソウルなんていうのはメロディーが
あってないようなもんなんです。ああいうのが出来れば面白いし、だから日本語のカチ
カチした言葉の詩の段階からスムーズに入れるようにして、それをバックと合わせて掛
けあってメロディーをくずせるようなね、そして気軽にセッションがやれる、そんな音楽
がいいですね。」
M 「ミュージックというのはボクの部分ですね。でも仕事だけとは割り切れないし、仕事以
外の家にいる時でも、やっぱり音楽のことは考えてますしね。詩やメロディーを考えた
り、例えばこうしてお話ししている間のことでも、詩なり、メロディーを書く時の要素とな
るんですよね。だから割り切って、”仕事だから、ここまでだから”みたいなのはないで
すね。」
M 「ボクって、前に言われたんですけど、音楽だけを聴いてると、割と現実離れしていてロ
マンチックすぎるし、ちょっと飛躍しすぎてるんじゃないかと。でもそう言う人は、親しく
なっていろいろ話しているうちにわかってくるんじゃないですか。だいたいボクが訳のわ
かるような生活をしているらしいということが(笑)。自分でもどうしてそう言われるのか
、よくわからないんですけどね。家で何をしてるか?といっても、残ることはしていない
んですけどね。でもわりと、空間を楽しんでいることが好きなんですよ。いろんなことを
考えたり、そういうことは何時間でもしていられるんですよね。今、住んでいる所は一
階がラーメン屋さんで、その二階と三階を借りてるんですけど、星のきれいな夜なんか
よく屋上にあがって、夜空を見ながら”UFOが飛ぶんじゃないか”と眺めていたり、そう
いう雰囲気が好きなんですよ。怠惰なんですよね(笑)。」
M 「ボク、わりと小ちゃな時かあr、残酷なイメージを持っていたことが多くて、例えばエレ
ベーターの扉とか、カーテンを開く瞬間にとても恐怖を感じるんです。そういう日常気
にしない恐怖ってすごくあるでしょう?。ボクってそういうのをすごく気にする質なの。
たとえば、フェリーニの「サテリコン」の映画の中で、牛男と迷路で会いますでしょう。
あそこの崖の上で、フィリピンの民族舞踊の「ケチャ」というのをやってますね、あのシ
ーンの恐怖みたいなものをいつも持っているんですよね。それから「ジュリエッタオブ
スピリッチュアル」の浜辺で白昼夢を見るシーン、ああいうことって、わりとボクにある
んです。例えば、すごく嫌いな人がいて夢の中でその人を殺してしまうとか、「妖精の
森」という映画みたいに、潜在意識が現実となって殺人を犯してしまうという、そういう
恐怖みたいなものを常に持っているんですよね。」
M 「人間というものを信じてませんね。世の中も、おそらく自分も信じられないですね。歌
も、言葉も、雑誌なんかに載る活字になったボクの言葉なんて、30パーセントぐらい
しか信じてませんし、だけど詩とかメロディ−となってゆくイメージというか雰囲気みた
いなものは信じられる、というんじゃないんですけど、それは認めますね。家に帰ると
猫がいるんですけれど、ボクの首に腕をまわして抱きついてくるんです。それとか、内
側から掛かっている鍵をその猫が外して、ボクを内に入れてくれるんですよね。そうい
う形のないものに、すごく感動するんですよね。」
※23年前の美奈子さんです。今ではありません。