WEEKLY INTERVIEW 再録

(毎月1日、16日更新)



   

第6回 1982年  出典:雑誌「anan」82年6月18日号
    リレー対談 ”天才アラーキー”荒木経惟&吉田美奈子

 

前半


 〜格調高く、クラシック音楽が流れる白い部屋。ここは六本木のレストランの一室だ
  。シャブリの入ったワイングラスをかたむけているのは、人気写真家、荒木経惟さ
  ん。初対面の吉田美奈子さんを待ちながら、さすがの荒木さんも緊張を隠せない。
  ちょうど、けだるい午後が始まる時間。まさに”昼下がりの情事”といった雰囲気
  が漂っている(と思えなくもない)。〜


荒木(以下A)「待ってて飲み過ぎちゃったよ、もう。でも、美奈子さんて、レコード
  ジャケットの写真より美人じゃない?ホンモノのほうが。」
吉田(以下M)「アハハハ。」
A 「このジャケット撮ったのは鋤田正義か。笑顔とるのが下手だねえ、ホントに。気
  に入ってないでしょ、この顔」
M 「エッ、そんなことは… 」
A 「アタシが撮れば、うまいのよ。単純な構図だから。」
M 「ところで、どうしてご存じなんですか?ボクのこと」
A 「いや、歌は八代亜紀しか聴かなかったんだけど、このあいだ あなたのレコード
  を聴いたのよ」
M 「へーえ。いろいろ予想してたんですよ。荒木さんて、サックスの坂田明さんとお
  友達でしょ。」
A 「うん。坂田も吹いてるね、あなたのレコードで。オレ、坂田とはすごく仲いいの
  。地方のパーティー行ったりすると、よく間違えられたけどね。”チョウチョが来
  た”って言われちゃってさ」
M 「地方で… アハハハ」
A 「でも、あなたの曲を聞いてるとね、やっぱり昼下がりから夕方にかかる時のさ、
  街の風景をよーく見てるような感じだねえ」
M 「そうですね。夜が近づいた、ちょうど、街の色が一番モノトーンになっていく時
  が好きです。小さなイルミネーションが一番キレイに見える時間。本当に短いけれ
  ど、あの時間がすごく好き!」
A 「アタシも好きなのよ。暮れかかって、最初にポン、ポーンってネオンが点くころ
  がね」
M 「特に、ニューヨークがいい。荒木さんは、よくニューヨークに行かれるんでしょ
  う?」
A 「ちょこっとだけどね。エンパイアステートビルに行ってきたよ。アタシ好きなの
  、おのぼりさん的初体験って。美奈子さん、ニューヨークが一番好きなの?レコー
  ドジャケットの背景にも使ってたけど。」
M 「別にそういうんじゃなくて、日本だったら東京が、やっぱりいいんです。ニュー
  ヨークは東京の空気と同じだから」
A 「空気って、どういう空気?」
M 「東京と同じで、夜になると突然トーンが変わるのがすごくキレイなんです。とく
  に夜になりたての頃が。ビル街っていうか、コンクリートがあればいいんです。」
A 「日本人だね。東京やニューヨークっていうのはモノトーンだから、最初に色がつ
  きだす頃がいいんだろうな、きっと。オレも好きなんだよ。オレはセンチメンタル
  だ、って言ってるんだ。」
M 「ハハハ。ボクはニューヨークのアートシーンが好きなんです。ラウシェンバーグ
  とか」
A 「へえ。ラウシェンバーグが好きなの。いちばんいい時のニューヨークだな。アー
  トの歴史の中で、あの時のニューヨークのシーンはやっぱり、大革命だもんな」
M 「古典はイヤですよ。ダダ以後でないと、絶対イヤなんです。ラウシェンバーグは
  色とか全部好きですね。」
A 「そうか。中間色感だもんね。ギンギラは好きじゃないの?」
M 「いえ、ギンギラっていうと、ちょっと話は変わっちゃうけど、黒人のファンクは
  極端にギラギラしてるでしょう。ああいうミュージシャンたちは、もう大好きなの
  。ギャアギャア騒いで、いわゆる”ビーファンク”ってよばれているような」
A 「やっぱり、ファンクっていうのはさ、肉体がファンクじゃないとダメね。日本人
  は絶対やめた方がいいよ。水墨画やってりゃいいんだよ。きっとそのうち、書道に
  かえるから。でも、ポップアートは日本が一番スゴイ!ね」
M 「たとえば?」
A 「日本人の好みからいくと、金閣寺より銀閣寺が好きっていう人が多いけど、金閣
  寺は日本を代表するポップアートだよね。アタシは金閣寺派だな。それも、金閣寺
  は造りたてが金閣寺って思うんだ」
M 「ああ、そういう考えね。」
A 「そう。年月がたってからいい、とかじゃなくて造りたてがいい。だから、日光東
  照宮の陽明門塗り直しとかっていうとすぐ見に行く。ものすごく、安モノっていう
  か、セットみたいでいいのよ。」
M 「香港のみたいなやつでしょう。」
A 「その方が面白い。郷愁で、バカな評論家たちがキッチュなんて言葉を使うんだけ
  どさ。もともと芸術っていうのはキッチュなわけよ」
M 「このあいだ、京劇を見に行ったんです。素晴らしかったあ」
A 「京劇ってスゴイだろう。ドキッチュでしょう」
M 「うーん。もうハンパじゃなくて、カンペキに」
A 「徹底してるもんねえ、色彩のバラつきが。でも、京劇と今日あなたが着ている服
  とは、ずいぶんイメージ違うなあ。すごいオシャレですね、シックすぎるよ」
M 「そうですか?これはアルマーニですよ、イタリアです。ブラウスも服もイタリア
  ン。イタリアものってラインがシャープだから好きなんです」
A 「アタシは銘柄知らないでしょ。だけどいいな、と思うとほぼイタリアンね。イタ
  リアのは与太郎風でいいじゃない。遊びがあってね」
M 「わりと、ルーズに着てもキチンとなる」
A 「でも、オレが着るとね、イタリア映画でファーストシーンに出てきて最初に撃た
  れて死ぬヤツみたいな感じだよ。アラキドロンは最後に生き残んないの、アランド
  ロンと違って」
M 「でも、そういうの好きだなあ。先にあがるっていうの。ところで、荒木さんの、
  今日のファッションは?」
A 「今はいてるのは、クローズドのパラシュートパンツ。このTシャツはBIGIで
  す。パンツはオム、靴はトキオ、ジャケットはパリで買ったアニエス・B」
M 「ミルキーのバッジは?」
A 「これは不二家。このクローズドのって、ナウイんだってね。ジッパーの脇にネー
  ムがあるじゃない。”クローズ”って。やたらと開けるな!ということで、ダジャ
  レのつもりで買ったのよ。そしたら、ナウイね、って言われた」
M 「はきやすいでしょう。でもイタリアものって高いですね」
A 「自分で買いに行くの?」
M 「ええ。西武のデザイナーズショップで、アメリカでも探すけど」
A 「服装は自分で選んだのがいいね。アタシも女性撮る時に、スタイリスト使わない
  の。イヤなんだよ、着せ替え人形にしてもらうのは。本人の選んだ服装が彼女の表
  現なんだから、それを複写したいんだよね。撮られたい格好で来てくださいって言
  うの」
M 「このあいだマクセルのCMがあってね、その時、服が何点か必要っていうので、
  自分で持っていって、ちゃんとスタイリスト料もらっちゃった」
A 「そりゃあ エライ!」 


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