WEEKLY INTERVIEW 再録

 

(毎月1日、16日更新)



   

第7回 1982年  出典:雑誌「anan」82年6月18日号
    リレー対談 ”天才アラーキー”荒木経惟&吉田美奈子

 

後半

 〜グレードの高い会話が続くなかで、お待ちかねのお食事が始まった。吉田さん
  のおすすめは「ニョッキーのトマトソテー」。早速、注文した荒木さんは、初
  めての食べ物を前にして、神妙な顔つきだ。〜



荒木(以下A)「(一口食べて)ウーン。イタリアのマシュマロ?」
吉田(以下M)「あ、そんなかんじですね。」
A 「”ニョッキー”か。覚えてこう。今日帰ったら、すぐ”ニョッキ”に書いておか
  なきゃ。美奈子さん、こういうのばっかり食ってんの?」
M 「まさか!荒木さんは お料理なさるんですか?」
A 「アタシの料理ってのは、納豆をうまくこねるだけ。大根おろしとかね」
M 「ゴマをすったりするのも上手なんですか?」
A 「それはもう、いちばんうまいんじゃない?ハッハッハッ」
M 「ボクはね、ワリとお料理好きなんですよ。鴨のオレンジソースとか、純和食とか
   」
A 「いつごろから、ボクって言うようになったの?」
M 「中学ぐらい。あんまり女の子のお友達っていなかったんですよ。で、恥ずかしい
  のね、”わたし”って言うのが。赤くなっちゃう。さっぱりしてるでしょ”ボク”
  って。自然にそうなった」
A 「スラッと出るとヘンじゃないけどね。ボクとアタシか。”ボクとアタシの昼下が
  り”見出しは決まったね」
M 「アハハ」
A 「どうして音楽やるようになったの?」
M 「勉強がきらいだったから」
A 「そうか。勉強できないヤツが音楽やるんだ。そして、音楽ができなくて、レコー
  ド会社の社員だ」
M 「なるほど」
A 「それでも入れないヤツがプロダクションに入るのよ。そうでしょ。しかし、音楽
  っていいね。アタシは、自分で天才って言ってるけど、ミュージシャンこそ本当の
  天才だと思うね。皮肉じゃないよ。書いた言葉より、音楽の方が詩の精神に近いと
  思うんだよね。やっぱり、ミュージシャンが詩人じゃないかって、オレ感じるの。
  だから エライ!」
M 「よく、ビジュアルな分野の方って音楽やってる人は素晴らしいって言うけど、音
  楽家から見ると ビジュアルな仕事の人って素晴らしく思えるんですよね」
A 「写真ていうのはね、ジャムセッションできないんだよ、写真家同士のね。被写体
  とのジャムセッションしかできない。美奈子さんは写真撮ったりするの?」
M 「ウチに猫が2匹いるんで、猫の写真ばっかり撮っちゃう。ポラロイドが好きね。
  わざとピントをボカして撮るのが好き」
A 「ウアッすごいなあ。ポラロイドで、わざとピントをボカして撮る。写真家じゃ言
  えない言葉だ!」
M 「あのー 眼が悪いんですよ、ワリと。いつも、ピントがボケてる状態で世間を見
  てるから。それがきれいなの」
A 「それはいい、生理的で。ピントが合ってるっていうのは、メカの生理でさあ、自
  分の生理をだそうっていうのが、写真や音だからね。自分にとってのリアリズム、
  ”美奈子リアリズム”がいちばんだ」
M 「荒木さんがヌード撮るのはどうして?」
A 「サービスだよ、サービス。いまだに見るヤツは程度が低いから」
M 「荒木さんのファンってインテリが多いと聞いてますけど。」
A 「でも、女性のはだかは みんなきれいだよ。女は美しい。それぞれ魅力あるから
  ね。まだ修行時代ですよ、女に関して。美奈子さんはどんな男が好きなの?」
M 「なにか、はじけてるところがあると、いいなあよ思う」
A 「レコードプロデュースは全部自分でやってるんでしょう。”スゴ腕ミナコ”なん
  てフレーズで。”スゴ腕”なんてカワイゲないね。みんなやっちゃうなんてスゴイ
  けど、それは隠さなきゃ。一応女だから、こう、誰か頼りにしなくちゃいかん感じ
  を匂わせないと。」
M 「これは男にしかできないとか、女にしかできないっていうのは、あんまり好きじ
  ゃないんですよ。突き放せるような人が好きね。人に、全部手を貸してもらって、
  何かやるのは面白くないですよ。そうやって幸せな人もいるけど、なるだけアイデ
  ンティティーをつかいたいって感じ。ワリと、ボク自身がね、ある一線までくると
  ポーンと放すみたいなんですよ。」
A 「顔だけで突き放してるとこ、あるもんね。」
M 「アハハ、キツーイ」
A 「いま興味ある男性なんている?」
M 「相撲好きだから、出羽の花には興味ありますよ。あと銀行(三菱)強盗やった梅
  川(昭美)だとか、片桐機長(JALの逆噴射男)にも興味ある」
A 「片桐機長と田中康夫は男優として使えるねえ。他の男役者はゼッタイ負けるよ、
  ふたりには」
M 「映画は撮らないんですか?」
A 「ロマンポルノもやったし、大学の卒論でも、映画作ったんだ」
M 「えー。どこの大学?」
A 「大学はオレの歴史の恥部だから言うなよ。チブ(千葉)大だから」
M 「どうして恥部なんですか」
A 「語感悪いでしょ、場所柄。千葉なんて、いちばん日本でノホホンとして、知性
   がなくてさ。アタシは東大目指して男だからね。三四郎池でザリガニを釣って
  やろうっていう男だったんだよ」
M 「へえー。で、どんな映画作ったんですか?」
A 「イタリアンリアリズムですよ。あんなの見られたら、こんなに威張ってられない
  から盗んできちゃった。今は”日本写真界の小津安二郎”なんて言われてるのにさ
  ローアングルの−」
M 「ハハハ。床から30センチの」 
   〜ふたりは、近くのブティック「チャックロースト」まで散歩におでかけ。吉
    田さんが気に入った黒のエスパドリーユを、プレゼントした荒木さん。ホッ
    ペタに感謝のキスをされて大喜び〜

M 「面白かった。でも、どうしてボクを指名したんですか?」
A 「顔だよ、顔。顔でキメる」
M 「荒木さんて高貴な顔してる」
A 「ヨシ! ”天皇”でいくゾ!」    


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