WEEKLY INTERVIEW 再録
(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業
第13回 1982年 出典:「anan」6月25日号
ペーター佐藤さんと美奈子さんとの対談、インタビュー
(後半)
佐藤(以下P)「人と動物だってすごく親密につき合ってるのね。僕なんて、あっち
に猫を1匹待たせて、寂しい想いをさせている…。現地妻ならぬ現地猫がいる
んだよ。おととし、むこうでずっと、猫と同棲していたんだよ。”トリスタン
とイゾルデ”みたいにいつもくっつきあって。東京にいて、会ってなくとも、
僕を覚えているんだから可愛い。」
吉田(以下M)「あそこ(ニューヨーク)は人も動物も同格。動物への愛情があるか
ら、動物のほうもイジけずに、犬も猫も、みんな幸せそうな顔して生きてるね
」
P 「ところでお宅の猫は元気なの?」
M 「オス猫が今2匹。ボクがピアノを弾いてるとね、鍵盤の上に乗っかって、一緒
に弾こうとするの。動き回るから、作曲もままならない。長く一緒に暮らして
ると、ボクが飼ってるというよりは、ボクのほうが猫に近づいていくカンジあ
るよ。」
お酒を飲むとすぐ顔が火照ったり、眠くなってしまうという二人。食後酒
の代わりのとっておきは、佐藤さんのプレゼント第2弾。彼が描いたイラ
ストのカードを数枚、美奈子さんに贈呈。レディーに対して敬愛を表すナ
イトのような佐藤さんを前にして、ゴキゲンな美奈子さん。女らしい表情
がしばしばのぞく。
M 「あの、ボクがこの間あげたピアノ、弾いてるの?」
P 「ああ、あれね。美奈子のセコハン。今や、僕の宝物なんだ。でも、全然弾けな
いよ。お風呂あがりに裸のまんま、股旅時代劇の演歌、歌って弾くマネしてる
」
M 「あ、ついにでた。風光明媚な海岸に松林という絵の世界だ。」
P 「やっぱり僕はあの世界が一番美しいと思うのね。スーパービジュアル。もっと
も絵になる。股旅モノに出てくる温泉などは、エアーブラシで描くのにピッタ
リよ。」
M 「ペーターは昔から、その感覚なのよね。それにしても、股旅演歌を歌わせたら
右にでる者はちょっといないしね。」
P 「幼児体験なのかなあ。僕のウチって、両親が放浪癖があったらしく、あちこち
さすらったのね。それで温泉町に住んだこともあったりして… 」
M 「うぶ湯は温泉のお湯なの?」
P 「ハハハ!生まれたのは残念ながら、横須賀だから…違うみたい。でも、僕、泳
ぐの得意よ。なにしろ、温泉をプール代わりに少年時代を過ごしたから、今で
も原宿にあるビルの中のプールへは、週に1回は泳ぎに行く程なの。なあーん
て、温泉をプール代わりにした話は冗談だけど… 」
M 「なんだ。ホントっぽかったよ。」
P 「それでね、渓流とか波とか松を見るとどうも郷愁を感じたりして、”一本刀土
俵入り”とか”瞼の母”の世界になっちゃう。道端のリンドウを笠に挿したり
とか、三本松に紅葉の葉がハラリとか。」
M 「そうなの。わかる、わかる。ボクの曲もそうなんだけど、言葉で言えない部分
を一番大切に表現したい。それを聴く人が自分の心境でいろんな風に感じてく
れて、勝手に解釈してくれれば大成功なのよね。ペーターの絵もそうだと思う
のよね。お互いにすごくセクシーな作品だとか言われるけど、直接的には表現
したくないものね。」
P 「だから、あんまりドロドロ、ベタベタしてきちゃうと、もうそれ以上は入り込
めないのよね。股旅モノが好きだと言っても、義理人情の任侠の世界になると
イヤ。」
M 「うん。私も、愛とか恋を歌う場合、あんまり男が女がってこだわりたくないな
。人間同士の愛だけが絶対なんて思わないしね。」
P 「そうだね。しかし、そんなこと言うと美奈子男性よりも猫のほうが好きみたい
に聞こえる。元保護者としてはちょっと気になるなあ。」
M 「そういう部分って、本当にある。他人にベタベタ甘える恋愛なら、ゴメンナサ
イって。」
P 「美奈子に惚れた男は悲劇だな。クールにつき合わなくちゃいけないわけだ。」
M 「恋は盲目になるなんてみっともないもん。ペーターが絵に描く女性って誰かモ
デルがいたの?全部惚れた女だったりしてね。」
P 「特にモデルはいないんだ。周りにいる女の人に影響されることはあるけどね。
結婚したてのころは女房に似ちゃったり。雪女が、モデルの時もあるのよね。
かえって玉三郎さんなんかとイメージが膨らむ。実際、和服姿の女の人は、彼
をモデルにしていることが多いんだよ。」
M 「ペーターが和服の女を描くと、これまたすごく色っぽいのよね。天下一品。ペ
ーターの歌う股旅演歌も、色褪せてしまうほどのスゴさ!」
P 「ところで今度、ニューヨークで再会する時は何をプレゼントしたらいいかなあ
」
M 「ペーターは、服でも小物でも、何でもない物の中から、素敵なのを見つける天
才だもんね。ガラクタみたいな小物をダイヤモンドみたいに大切にしまってて
、そのうち何となくみんなをうらやましがらせる天才なんだから。」
P 「窓際のプラスティックちゃんの話なら、今もアクリルのいろんな色の塊を集め
て、窓のそばに並べてるよ。光が入って微妙な色に変化するんだ。それを見て
楽しんだりしてる。たかがアクリルの塊でも、そういう時って、すごく色っぽ
いんだよ。」
M 「わかるなあ。ペーターのそういうところが、一番あなたらしいところ。昔から
変わらない。」
P 「今度ニューヨーク行ったら、まず洋服屋へ行っちゃうかもね。安くて面白いも
のがいっぱいあるからつい買っちゃう。今履いてるポリスシューズも可愛いで
しょ。向こうの住まいの近くに”バーニーズ”があるから、毎日でも行ってる
」
M 「プレゼントはいらないから、おいしいものでも食べさせてね。今、ニューヨー
クでは朝鮮料理のレストランが大ウケなんだよね。安くて体にもいいって。お
米のオソバなんて食べてみようよ。」
〜おしまい〜