WEEKLY INTERVIEW 再録
(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業
第23回 出典:「FM−fan」誌1983年5月
23日号より、新アルバム「インモーション」につ
いて話しています。(2回連続の1回目)
☆ 隔号連載「PEOPLE」 第22回 ☆
インタビュアー(Q)三橋一夫
Q 「今回のアルバム”インモーション”は面白いね。ポップな感じでボーカルがソ
ウルっぽくなくて… 」
吉田(以下M)「かなりはじけてバカになりました(笑)。今回はある程度ライブを
録って、その上にスタジオで新しく音をかぶせたんです。だから、いわゆるス
タジオ録音とはちょっと違って聞こえるかもしれませんね、基本がライブだか
ら。スタジオ録音っていうのはミュージシャンがそこそこクールに仕上げよう
とするのが普通なんですよね。だけどライブではそうはいかないでしょ!熱く
なっていい意味での粗いドライブ感がでてくる…」
Q 「そのやり方ではサイモン&ガーファンクルの”明日に架ける橋”が問題になっ
たでしょ。あれはライブ録音ではないかと。小倉エージ(音楽評論家)にいわ
せると、歩く足音が聞こえる(笑)。そういわれて聴くとライブのような感じ
がするね」
M 「それは技術的にはありますよね、スタジオ録音をライブ録音のように聴かせる
方法というのは」
Q 「でも今回のアルバムは一応本物のライブで、それにプラスアルファが…」
M 「そうです。どうせスタジオに入るのならライブをそのまま出すよりも、もっと
手を加えて自分で楽しめたほうがいいから(笑)」
Q 「それで美奈子のファーストアルバム”扉の冬”にも入っていた”ねこ”という
曲を入れたり、いろんな曲が入っているんだね。でも昔の”ねこ”と今の”ね
こ”を比べて聴くととても面白いね」
M 「昔の”ねこ”は気ままにしてるだけの感じだったんですけどね、今回はホーン
セクションを入れたりアレンジを変えたりして。でも、そんなに騙したくはな
いんですけどね、本当はデリケートに歌えばいいなと思うんですけど、かなり
オッカナイ虎になってますね(笑)。アフリカに虎はいないけれど、アフリカ
っぽく仕上げたんです。ボクの場合、必ず”聴取者参加番組”というのがある
んです。レコーディング中に”皆さん集まってください!声をください!”っ
ていうのがあって(笑)。その時もソニーのオーディションに残っていた男の
子とか、隣の部屋でレコーディングを終えた子とか全部集めてね、メロディを
その場で教えて、土人の遠吠えをやってもらう(笑)。結構、楽しんでやって
いるんですよ、いろんな工夫があってね、それがスタジオの仕事の面白いとこ
ろですね」
Q 「いまは機械をそのまま使うんじゃなくて、いろんな工夫をしてますよね。アコ
ースティックばかりやっていた人がひそかにコンピューターを使っていたりと
か」
M 「そうですね」
Q 「最近は、みんないろいろと変わったことをやっているけど、でもそれを隠し味
的に使って目立たなくさせてるね」
M 「そうですね。音はすごく薄くなっている。でも同じアタックにノイズを重ねて
みたりとか、結構凝ってますね。最近はもう出せる音は全部出尽くしちゃった
から、バランスを極端に変えるとか、隠し味でこっそりやるとか、どちらかし
かないみたいですね。」
Q 「オーストラリアの”メンアットワーク”なんか曲そのものはすごくシンプルで
すよね。」
M 「そうですね、ボクはあのテのバンドってあんまり好きじゃなかったんです。で
も詩が面白いんですね。すごく語呂の使い方がいい。別に語呂合わせで意味は
ないけど、ああいう詩が出てくるのはいいなあと思って。昔からね、語呂合わ
せの詩はあったけれど、でもメンアットワークのは、割と新らしめの形の語呂
合わせなんですね。日本も、楽曲や演奏はともかくとしてね、詩がどんどんフ
レッシュになっていくってあまりないでしょ、だから… 」
Q 「ないですね。日本の詩で他生それを感じるのは、井上陽水。」
M 「陽水?そうです。彼はそうです」
Q 「それから、……忌野清志郎(RCサクセッション)にちょっとそういうところ
感じるね」
M 「あ、そうなんですか」
Q 「ええ。語呂合わせでもないんだけど、日本語的にある程度、脚韻を踏んでると
ろありますね。それを一番良く使ってるのが井上陽水」
M 「陽水はその前に横文字が1個入るんです。その後に同じような韻を踏んだよう
な日本語を必ず持ってくる」
Q 「そうそう」
M 「横文字を入れないでやったらカッコイイんですけどね。ボクはそれを目指して
いるんです、でもなかなか上手くいかなくて(笑)それができたらもう、すっ
ごく面白くて新しい詩ができると思うんです。松本隆さんなんかにやってほし
いなあと思う。彼にはチャンスがいろいろあるから」
Q 「日本の場合、いろいろ問題はあるけど、詩というか言葉の部分が一番遅れてい
るね」
M 「そうですね」
Q 「他の部分ではお手本があるからいいけど、詩にはそれがない」
M 「でも、詩は本当に見えないですね。時間がたってから、気がつくか、そのまま
気がつかないか、どっちかですね。だいたいそのままっていうのが多いけど。
だから、かえってこっち側のミュージシャンよりも、いわゆる歌謡曲を作って
人たちのほうが詩には気を使っている… 」
Q 「この間、たまたま作詞の入門書を2冊読んだんです。一つは歌謡曲畑の人で、
もう一つはかなりポップスに近い人が書いた本なんです。発想が違うので、と
ても面白かった。ポップス畑の人の話は、詩はあくまでもファッションという
かコスチュームで一番最後に塗り上げるものとして考えている。でも歌謡曲畑
の人の話はそうじゃなくて、真っ向から詩そのものにのめり込んで行く」
M 「そうですね。もうとにかく”歌は詩ですから”っていうのが大前提にあるでし
ょ。その分逆にキチンと書かなくてはすぐ指摘されるし、リアクションもある
でしょうけど、でも他愛のないことだけど、感心することはありますね。」
Q 「だから、歌謡曲の人はほんの数行の詩を作ることが人生論になるわけだ」
M 「それで、歌い手さんが詩を書くと、ああいうすごく力の入った詩になっちゃう
のかな(笑)」