WEEKLY INTERVIEW 再録

 

(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業


               
   

    第24回 出典:「FM−fan」誌1983年5月
     23日号より、(2回連続の2回目)

         ☆ 隔号連載「PEOPLE」 第22回 ☆

                     インタビュアー(Q)三橋一夫


Q 「俳句に松尾芭蕉って人がいるでしょう。芭蕉の特徴は何かって聞かれると、ま
   ず、”寂(さび)”とか”侘(わび)”という言葉が浮かぶでしょ。でもそれ
   は、芭蕉が死ぬ前の数年間の話なんです。それ以前の芭蕉は全部漢字の俳句を
   作ったり、ものすごく翔んだことをやっているのね。今でいえば、まさにニュ
   ーウエーブというか、俳句のパンクというか(笑)。すごくいろんな実験をや
   って、それで最後に”寂”に到達するわけです」
吉田(以下M)「ベートーヴェンがそうですね」
Q 「ええ、だから横道にそれるってことは必要なんです」
M 「でも、横にそれるとだいたい抹殺されますよね(笑)」
Q 「うん。後生の人からは、横にそれた部分というのは全然見えないようになって
   る」
M 「もう、完全に抹殺されますね。”そうじゃない、こうなんだよ!”っていうと
   嫌われるし… そこがよくわからない」
Q 「そうだね。僕も以前ある雑誌に”ベートーヴェンは盗作の天才である”って書
   いたんだけど、誰も何んとも言ってこなかった(笑)」
M 「嫌われるんですよ、すっかり嫌われるんです(笑)ほとんど無視されて、それ
   が怖い」
Q 「でもベートーヴェンってほんとにすごい。スコットランドの民謡の4小節だか
   8小節を作品に使っているんです。ただ分散半音で変えていて耳で聴いた限り
   では誰にもわからない。しかし何んのことはない、非常に簡単な民謡のフレー
   ズを使いまくっているんです。サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋
   」だって有名なミサ曲でしょ」
M 「ええ。でもそこには何か執着があるんでしょうね、相当好きなのかもしれない
   。だからどうしてもそれを使ってしまう。そういうタイプの作曲家もいるんで
   すね。それとは別に職業的なテクニックとして盗んでアレンジをする人もいる
   (笑)つい最近そんな話をしたんです。日本に染(そめ)をやる人がいるでし
   ょ。その技法に”写しの技法”というのがある。染のパターンって昔から変わ
   ってないんですね。だから手染めで何を変えるかっていうのと基本をちょっと
   アレンジして、例えば自分で色を配合したり、花のパターンを自分なりに線を
   はみ出してみたりとか、その程度なんです。だから本当に斬新なものってない
   。斬新なものは”染”の世界ではやっぱり抹殺されるんですね。それを称して
   ”写しの技法”という。その話を聞いたとき、じゃあ音楽でも筒美京平さんと
   か、ああいうのは写しの技法なんですね、あれは日本の伝統なんですねって話
   になったことがある(笑)。だいたい写しの技法をやる人たちはテクニシャン
   でしょ。だから、マネしてるのか、本当に好きなのかそれを判断するのは本人
   にしか分からないんですけど、日本の場合はテクニシャンの人が多くて… で
   もそれが抹殺されないって状況もおかしなもんですね。」
Q 「”写しの技法”ね、面白い言葉だなあ(笑)」
M 「面白いでしょ。似た曲があるとね、”あ、これは何とかの写しの技法ですね”
   っていう(笑)」
Q 「じゃあ、吉田拓郎の”結婚しようよ”はカントリーホームの写しの技法なんだ
   ね(笑)。その言葉はいろんなところで使えるな」
M 「使えるんですよね」
Q 「日本に面白い人がいるんです。その人にある霊がとりついて、いろんな話をす
   る。その話が1冊の本になっていて、これが面白い。みんな瞑想をやるけれど
   、でもそれはなかなか難しい。だから音楽を聴きなさいっていう。無心になっ
   て音楽を聴いて、その音楽から自分の意志とは関係なくあるイメージがスーッ
   と浮かんできたら、その音楽をいつも聴きなさい。無心になって聴いてイメー
   ジの流れのまかせる、それがすなわち本当の意味での瞑想であるというお説教
   なのね。これはすごくわかる。」
M 「その意味からすると、ボクの音楽は聴こうと思って聴かないと気分がヘビーに
   なるってよく人から言われるから、瞑想のための音楽には向かないかもしれな
   いね(笑)。BGMには絶対にならないっていわれますね。ヘッドホンしなが
   ら原稿を書くっていう人からね、ボクのレコードを聴くと、手が止まってどう
   しても音の方に入ってしまう、非常に仕事の妨げのなるって言われたんです(
   笑)だから、いわゆる三橋さんがおっしゃった意味での精神統一というか、瞑
   想のための音楽にはならないわけです。でも、いまの話とはちょっと違うけれ
   ど、何かやりつつ適当に音楽を楽しむって人が最近多いでしょ。それだったら
   ね、”あなたの音楽はヘビーで聴くことが出来ない”って言われたほうが価値
   があるような気がしてくる。(笑)いま三橋さんがおっしゃったことはボクに
   とってはすごく助けになる考え方だなっておもったんですけど…」
Q 「瞑想のための音楽というのはBGMであると同時に、気を抜いて聴くというの
   が最高なんでしょうね」
M 「ええ、でもミュージシャンの場合は常に音と一緒にいると うんざりすること
   があるわけです。だから音楽を自分で作っていない人たちの瞑想とはちょっと
   やり方が違うかもしれない。だからユーミンのようにね、ダイレクトに”リ
   インカネーション”に関わりたいって思うのかもしれない」
Q 「結構、音の世界は深いけどね」
M 「そうですね」
Q 「例えば僕の場合、辞典を調べる時の音楽っていうのは絶対にR&Bなんです、
   ディスコ調の(笑)」
M 「R&B!位相がすごくはっきりしてるから(笑)」
Q 「ええ、だからしんみりとした音楽をかけてやると気分が暗くなって辞典をひく
   どころじゃない(笑)」
M 「そうですね。昨日ドライブをしたんです。その時たまたまカセットでビリーホ
   リデーがかかっていたんですね。高速道路を走っていたんだけれどスピードが
   どんどん遅くなるような気がしてくる。そのあとエラ フィッツジェラルドの
   若いときのをかけたんです。ビリーよりずっとキュートな曲なんですけど、そ
   うすると今度は外の景色が見えなくなる。そのあとでチェンジが何かをかけた
   んです。スピード感があって、エラのときと同じスピードで走っていたんです
   けどね。外の景色がすごくキレイに見える。だから音楽にもいろいろあるんで
   すね。合うとか合わないということが」
Q 「うん。だから音楽は奥が深いんだと思う」

  〜おしまい〜


 

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