WEEKLY INTERVIEW 再録

 

(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業


               
   

    第25回 出典:「SOUND & RECORDING」誌1983年
            4月号より(三浦豊樹さん資料提供)

    デビュー作「扉の冬」から、約10年。アーティスト、作詞、プロデュ
    ースと女性ながら八面六臂の活躍をしている吉田美奈子。
    今度はライブを基盤にしたニューアルバム「インモーション」を発表す
    るが、その彼女に音作りやプロデュースの問題についてインタビューし
    てみることにした。細い身体に似合わず、10年のキャリアの迫力を感
    じさせるしたたかなポリシーを抱き続ける、彼女の魅力に迫ってみたい


Q 「今度の新作”IN MOTION”は今までの曲の形を新しく変えたものにな
   っていますが、そもそもどういうアイディアだったんですか?」
吉田(以下M)「発端は4月のツアーでした。それのおみやげ代わりとして、新作が
   あればもっと(ファンに対して)親切なんじゃないかと」
Q 「リズムはライブレコーディングですが、これはどこで?」
M 「昨年の12月に六本木のピットインでやったものをほとんど基盤にしています
   。ライブといっても、オーディエンスは(音には)全くいないんですよね」
Q 「レコーディングはピットインと直結している(隣の)CBSソニー六本木スタ
   ジオで行ったんですね」
M 「そうです。で、ミックスダウンの時に、コーラスとかエフェクトをある程度加
   えたりして」
Q 「何故、普通のライブのみの音にしなかったの?」
M 「最初から、それだけではおもしろくないと考えていましたから。どうせなら、
   いろいろ模索したかったんです」
Q 「メンバーは?」
M 「スタジオワークを加えたということで、ドラムスの山木(秀夫)君に参加して
   もらったぐらいかな?あとは、いつものバンドの連中」
Q 「時間的にはどれくらいでした?」
M 「今度は本当にかかっていないですよ。エンジニアはリズムセクションを録った
   人とミックスでは別の人だったですが。12日間ぐらいかな。でも、その代わ
   り一度スタジオに入ったら、13時間ぐらい歌いっ放しなんてザラですから(
   笑)。」
Q 「リズムトラックのエンジニアは?」
M 「吉田保です。で、ミックスダウンが伊東俊郎。彼とは、ボクのレコード以外で
   何回か一緒にやったことあるんだけど、アルバムをやるのは初めて」
Q 「いつもこの六本木スタジオを使っているようですが?」
M 「何ていうか、スタジオの空気が好きなんです。これで、あとはコンピュミック
   スがあれば最高なんだけど… 」(中略)
Q 「次に自分のアルバムを自分でプロデュースしている身として、自分はどんなプ
   ロデューサーだと思っていますか?」
M 「その前に、日本においてのプロデューサーの立場が特殊なものだということが
   ありますね。つまり、レコード会社なり、プロダクションなりがアルバムの企
   画を大体決めてしまってから、プロデューサーは誰にしようか決めるというよ
   うな… 。それでは本当の意味でのプロデュースではないわけですよ。何か単
   に現場監督のようなものでね。すべてを把握していてこそのプロデューサーで
   しょ?ボクはその中でも、アーティストでもあるし、より音楽に傾いたプロデ
   ューサーでありたいと思っている。」
Q 「自分でプロデュースするようになってどれくらいですか?」
M 「”トワイライトゾーン”からだから、6年ぐらいかな。その中で、自分の方法
   とかが固まってきた感じですね」
Q 「ミュージシャンもずいぶんいろいろ変わってきましたよね」
M 「そのことなんですけど、こんなこと言うと恨まれて、あとで石ぶつけられそう
   (笑)。でも、スタジオミュージシャンに新しい音を期待しても出てこないん
   ですよね。そうは言っても、バンドのメンバーのほとんどがスタジオミュージ
   シャンなので、リハーサル時にビシビシ指摘するようにしています。厳密に細
   かく、コードに響きとかまでもね。で、本番の時には、仮り歌を歌いながら、
   リズムとか細かい点をガイドしていくんです。特に本番では無意味な時間をと
   りたくないし、そういう意味ではレコーディングをいきにスムーズに進行させ
   るかという方法は身についていますよ。今まで、ずいぶん苦労したしね。」
Q 「アメリカでも、この春に発売されるそうですしね。ぜひ、実現してもらいたい
   です。それはそうと、コーラスを前から1人で多量録音してますよね。それは
   どうして?」
M 「一人でクローズのハーモニーを歌った場合の倍音がおもしろいからですね。き
   れいに倍音が出ている人ってあんまりいないでしょ?ボクの声というのは、割
   と波がないんです。だから、エンヴァロープは常におんなじなの(笑)。ダブ
   リングの効果があまりないんですよ、シンセサイザーみたいにね。それを逆に
   利用するためにクローズにして聴かせたい倍音がでるようにバランスをとるわ
   け。他人同士の声だと、オープンにしないと響かないですしね。
   今度のLPにはいっている”トルネード”のコーラスは、筒がネジれたような
   感じなんだけど、高い成分が出て来ちゃったり、なかなか難しかったですね。
   ボクの声でも、出てくるところと出てこないところがあるし。 でも、とにか
   くちゃんとハーモニーした時に出てくる、倍音のノイズのようなぶつかり合い
   は気持ちいいんですよね」


  〜おしまい〜


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