WEEKLY INTERVIEW 再録
(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業
第30回 出典:「ADLIB」86年3月号
1986年春
「インモーション」を発表してから
約3年 沈黙を守っていた当時の美
奈子さんに 突然のインタビュー。
「BELLS」リリース前。
(3回連続の2回目)
インタビューQ:松永記代美
Q 「頼まれる詞や曲の中には、断るってものもある? で、その基準っていうのは
?」
吉田(以下M)「これはね、言ってしまうと実際そうじゃない仕事も断わりきれなく
てやってしまってるからウソつきになっちゃうかもしれないんだけど、歌がヘ
タだとダメ!、やっぱり(笑)。やっぱり歌は基本線をしっかりもっててほし
いって思うわけ。自分のエゴかもしれないけど、その人が自分の言葉を口から
出した時でも、ある程度その人のレベルなりを、クオリティなりを持っていて
欲しいってことがあってね。で、歌入れにも行くんだけど。歌の上手な人、そ
れなりに聞こえるって人って、感情の起伏があるの。どんなにピッチが悪くて
もその人の生理的なもので感情の起伏が出せる人っていうのは、やっぱり詞を
飲み込んでる。一つの演技かもしれないんだけど、冷静に入り込めるていうか
そういうふうに演出できる人っていうのは、本当に軽い意味でだけどプロデュ
ースする能力があるわけ。だから、そういう人たちの歌は聴けるの。やっぱり
無感動な人なんじゃないかなあ、ヘタな人って。」
Q 「感情が何もでてこないとか…」
M 「何を見ても”ケッ”とか言う人っているじゃない。ああいう人たちって絶対に
歌は歌えないと思う。どこか繊細なところがあったほうがいいと思うね。じゃ
ないと、デリケートな作業は無理だと思うわけよ。自分は背が低いでもやせて
るでも太ってるでもいいし、目が近いでもいいしさ。とにかく、コンプレック
スを密かに持っている人っていうのは、デリカシーがあるからね。ナイーブな
のね。最近はなんていうか技術がすごく進歩しているでしょ。どこでもキュー
ボックスがあってバラで自分のほしいモニターがもらえるわけね、すごく大き
な音で。マイクなめて口先で歌っても、自分が思っている以上のダイナミック
スで返ってくるわけ。あれじゃあ、うまくならないよね、歌は。ライブをやっ
たら差がグーンとついちゃう。」
Q 「歌入れにも行くって言ったけど…」
M 「仮歌も歌ってくるよ、難しい曲だとね。何も考えないで気にしないで歌うとボ
クのクセが出ちゃうから、できるだけメロディに忠実に言葉をはっきり歌うよ
うにはしてりけど。参考にしてもらっていいのはブレスだね。」
Q 「ブレスの位置でそんなに変わるものなの?」
M 「全然違う。うん、アタックも違うし、伸びた時の息の保ち方も全然違う。楽器
で作る人のメロディっていうのは、ちょっと生理的じゃなくてボクは嫌いなん
だけど、どんなつまんない曲でもできるだけ歌いながら作るものの方が好きな
のね。それは、呼吸があるわけでしょ。”きょう”(今日)の”きょ”と”う
”は離せないけど、”あした”の”あ”と”した”は離せるわけじゃない。そ
れでも”あした”って聞こえればいいわけでさ、結果的に。言葉にしばられて
いる人って以外に多いんだよね。」
Q 「そうだったんだ。洋楽志向の音の作り方をしていても、日本語の歌詞がのって
しまうと以外と歌謡曲っぽくなってしまうものが多かったのには、その辺も関
係あるみたいね。」
M 「だから逆にいうと流れちゃう、って言う人もいるんだけど、歌っている人に苦
痛になるような歌なんていうのは、歌じゃないと思うわけ。歌いやすいように
、でもなおかつ 内容があるようにって作るから、字づらとしてはすごく地味
なわけじゃない、ボクの詞って。だけど歌っていて絶対気持ちいいはずだと思
うの。
西洋音楽っていうか、例えばアメリカンミュージックの伝統っていうのは長い
かもしれないけれど、西洋音階を使った日本人の音楽だってもうずいぶんたっ
てるわけじゃない。オリジナルだってできてるわけだしね。コピー…かもしれ
ないけど、それだって一旦自分の中に吸収したことを出してるわけだしね。自
分に自信がなかったら堂々とできないじゃない。で、日本人のコピーが少ない
ってことは、日本人同士でもカッコイイと思えるオリジナリティのある人がま
だ少ないわけよね。それに日本人同士で認めあうことって、ものすごく少ない
でしょ。相手を認めるってことが自分のプライドになるってことだと思ってな
いわけね。自分が負けたことになっちゃう。相手を認められるってことは、自
分に基準があるから理解できるわけでじゃない、ね。それは自分の中に感動す
るものがある、そのクオリティがあるってことなのに。そういうふうに考えら
れないって残念だね、すごく。」
Q 「さっきね、何に対しても敏感でないと、って話が出たんだけど、それは美奈子
の書く詞にも関係することだと思うの。そういう”感動”みたいなものって、
日々の生活の中で”あっ”と思う瞬間としてあるのかしら」
M 「いちいち”おおうっ”とか言って感動したりはしてないよ。そこまでは行かな
いけれども、例えばほら、すごいじゃない。こういうジュラ期のものが(と小
箱に入ったアンモナイトの化石を指して)、ね大昔の、何10万年前だと思う
けどさ、その痕跡があるってことは存在してましたって証かしじゃない。でも
現代のものってないよね。延々燃やしちゃうし。コンクリートの層は残るかも
しれないけど。そうすると自分の持ってるものは自分しかないじゃない。それ
だから感動できるっていうかさ。感動するのは勝手じゃない、自由でしょ。そ
ういうところから、ささいなことでもできるだけ見るようにっていうか、考え
るようにっていうか…してる。何でもいいじゃない、きっかけは。
でも―自分で考える人が少ないよね。物に対してもそうだけど。使い方だって
いろいろあるし、何に使ってもいいわけで。それと一緒で、音楽やってて機材
いろいろ使うのはいいんだけど、それを使って何をするんだっていうコンセプ
トがはっきりしていないから、つまらないものになっちゃったりする。機械も
、使ってるのが流行だっていう、それがいやなの。だから9月のウオーのライ
ブ(タイフーンパーティ)なんかには、包丁1本で出た(笑)」
Q 「包丁1本、ね。(笑)」
M 「そう、包丁1本セットっていうの(笑)。ズボラだってこともあるけど、包丁
1本でも出来るし。で、富樫(春生)君とのデュオで45分にしてもらったん
だけど」
Q 「ほんとにあれはいいステージだった。すごく気持ちよくなれたもの。」
M 「いいよね、フレッシュだって思えれば。自分でやってても気持ち良いわけだし
。やってて苦痛なのはいやよ。」
Q 「そうだね。いろいろな状況っていうのがあるけど、その中で自分をどう生かす
かって考え方していかないと、自分の行動範囲というか可能性みたいなものを
どんどん狭くしちゃうことになるよね」
M 「うん。どんどんせばめちゃうし、深くなくても浅く広くなっちゃうの。なんで
もかんでもになっちゃうでしょ。それが一番つらいことだと思うのよ。そう思
わない?」
Q 「いろんな見方があることに気づくって大切だって、最近気づいたの、私も」
M 「最近さ、この人何かわからないけど、面白いんじゃないかなって人、少ないと
思わない?ね。どんな虐待された環境にいてもね、何か光る所があれば 絶対
出てくるはずなのにそういう人って、自分で気づかない所にアピールする能力
ってあるハズだから。それに自然体で暮らしててもトンがってるわけで。そう
いうの、いいよね。出てくるといいなあって思ってるんだけど。
いい子だよね、みんな最近。不良じゃなくて非行だし。昔の不良がカッコ良か
ったのはさあ、自己主張があって、それが体制と違ったために、自分の道を歩
むんだってはぐれていったわけでしょ。自分の責任の範囲内で何んとかやって
た、アイデンティティ持ってさあ。でも今の子は、センコー気にいらねエー
というと真っ向から対決しちゃう。っていうことは自分も相手と同じレベルな
わけ」
Q 「そんなところに時間を使うのはもったいないっていうのがある?」
M 「あるよ、すごく。干渉されたくなかったら、干渉されなくてすむように自分に
能力を持てばいいわけでしょ。そういうふうに発想できる人が少ないね。若い
人がなんか老けてるでしょ。あれは、結局そんな中に自分がいても何にもなら
ないんだっていうさ、”諦め”て投げやりになってるからだと思うのね。ボク
が今、歌謡曲のヤツやってるっていうのは、吉田美奈子の曲が欲しいと興味を
持たれているからやるわけ。興味を持たれてないものには、やろうったって無
理なわけじゃない。それで”利用されている”とかいう気持ちを自分で持たな
ければ、いいわけですよ。」