WEEKLY INTERVIEW 再録
(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業
第31回 出典:「ADLIB」86年3月号
1986年春
「インモーション」を発表してから
約3年 沈黙を守っていた当時の美
奈子さんに 突然のインタビュー。
「BELLS」リリース前。
(3回連続の最終回)
インタビューQ:松永記代美
Q 「ん、気持ちの持ちようよね。思いこんだとしてもいいことないしね。で、前に
きたとき(高橋)幸宏さんに書いた<昆虫記>の歌詞を見せてもらって、”昆
虫”を”あなた”と読んだり、”触覚”を”髪飾り”と読ませたりしてあるの
を見て、ああっと驚いた。聞いてるだけだと、なぜあれが<昆虫記>なのかっ
てことになるし。その辺に構わず楽しんでいたとして、さて歌詞カードを広げ
て見ると全く違う世界があって、聴く時とは また違った発見がそこにあるわ
け」
吉田(以下M)「そうでしょ。今、活字見る人ってほとんど少ないと思うけど、詞は
文字から入ってくるわけだからね。でも、日本には漢字があるし、カタカナも
ひらがなもあるんだし。」
Q 「記すというか、書いてみるってことには、やっぱり特別の興味みたいなものっ
てある?」
M 「うん、象形文字から何も進化していないっていうかさ(笑)、ボクの頭の中で
は。別に語源の辞書を開いてどうの、なんてことはやらないけど、あの漢字を
何でこう書くのかとか、ヘンとツクリの意味とかさ、おもしろいじゃない。そ
れにまたあて字ができてさ。色々なふうに使えるんだなあって思ってね。よく
暇な時に電話帳を見るって人いるじゃない。ボク、わりと辞書みてるのね。」
Q 「美奈子さんて家の中で過ごす時間長いんだよね。その時に辞書操ってるわけ(
笑)」
M 「そう。厚い辞書が欲しいって言って、おととし、やってもらったの(笑)。目
が悪くなったっていうのもあるわけ。小さいの見づらいでしょ。あれは何だ、
<広辞苑>か。でもあれ、移動する時は大変よ。猫がその上によく座ったりし
てね。ボコッと。」
Q 「不思議と、わざわざああいうものの上に座るのよね。」
M 「そうなんだよね。詞書いてて、最初はテーブルで書いてるんだけど、そのうち
(横たわって)こう地ベタで書いていると、その上にベッタリ猫が寝ちゃって
。少しづつボクの方がよけながらね(笑)」
Q 「どかさないんだ」
M 「うん、ありのままにさせておくの。ボクね、最近は頭からずっと書いてっちゃ
うんだけど。何行か書いてって次の行をミスするとするじゃない、すると1ペ
ージとっちゃうの。で頭からまた書いていくのね。だから、すごい紙を使うの
。家中ばあーっとね。その中ではぎとられて残っていくものが凝縮されるんだ
けど。たまにどうしてもフレーズがでて来ないと、何か5〜6枚目に書いたな
あなんて捜そうとするんだけど、その時にはもう猫が寝てるわけ(笑)、その
上に。だけど、そういう時には全部忘れるようにしてるの。」
Q 「例えば、たまたま目の届く範囲にあって見られるようであれば、見る?」
M 「ん。上にのってたりしなければ、きっと目にとまるだろうから」
Q 「でも、すぐ目に入らなければ、それは気にとめるほどのものでもないと思っち
ゃうわけ?」
M 「そうなの」
Q 「で、これからっていうのは、これまでとしばらくは同じ?自然体で…」
M 「自然体… だね。割と変わんないのよね、昔から。何か急にやったり、急にや
らなくなったりってことがなかったじゃない。こうボツボツっとね。レコード
会社と契約しておきながら2年間出さなかったりとか、平気であったしね。今
、もし契約してても、たぶん出してなかっただろうしさ。
この間、山下(達郎)君に会ったんだけど、自分でこうやるって決めればでき
るいい環境にいるんだから、メンバーはあの人とは合わないとかいちいち言っ
てないで、うまい人たちとバシッとやってしまったらいいんじゃないのって言
ったんだけど…。そう思うんだよね。アッコちゃん(矢野顕子)がニューヨー
クで録ってきたじゃない。スティーブガットとかあの辺の人、古い人たちだけ
ど、上手いわけ、ね。それを認めるべきだと思うのね。ちゃんとやってくれる
し、早いじゃない、むこうの人。自分のコンセプトがちゃんと伝えられれば、
一緒に楽しみましょう、でいいわけでしょう。で、ボクやるとしたら、そうや
るんじゃないかと思う、たぶんね。きっかけは音楽を通じてだけど、もう友達
としてつきあっちゃってるミュージシャン多いし。何かうまいことサイクルが
あったら、一緒にやろうかって、ね。ん。
〜おしまい〜