WEEKLY INTERVIEW 再録

 

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    第32回 出典:「ミュージックマガジン」87年
             11月号
             山下洋輔のアルバムを推薦 他
         


       ■「ミュージックマガジン 87年11月号」■
         ”CDこだわり派ミュージシャンのこの1枚”
           第6回 吉田美奈子


吉田「結局、信号に変えてあるわけだから、基本的にはあまり好きじゃないです、C
   Dって。
   そりゃ、もちろんダイナミックスの大きなヴォーカリストですから、アナログ
   でリミッターかかってるような音質よりはCDの方がいいですよね。そういう
   利点もあるわけ。
   でも、やってることが”声”でしょ。ナマの声ってデジタルだと無理があるの
   ね。去年作った”BELLS”っていうCDもそうだったんだけど、声を重ね
   て倍音の構成とかをやるとするじゃない?それは倍音を信号に変えて出そうと
   するわけでしょ。やっぱりキレイに出ないわけ。倍音の変な位置の周波数だけ
   がグッと出ちゃったりするの。だから、そういうことに違和感があるといえば
   あります。
   デジタルってまだ日が浅いでしょ。CDのカタログで何が最初に出たかってい
   うと、昔録ったアナログのヤツをデジタルにしたのじゃない?そういう、昔の
   ものを今よく聞かせる技術はあると思うけど、それから伝統を作るのは危険だ
   と思うわけ。デジタルはデジタルなりに歴史を持てばいいのに、なんかそうは
   いかないところが進歩的じゃないなーって思うわけ。
   あと、CDって人間の耳に聞こえない周波数をカットしてるじゃない?たかー
   いところと低いところとね。だけど、耳で感じてるんじゃなくて皮膚で感じる
   周波数ってあるはずだと思うの。例えば、地震の時に体で感じる重低音ってい
   うのがあって、それを感じるから余計怖いって思う訳じゃない?音楽もそうあ
   るべきだと思うの。それからするとCDにはその皮膚感覚ってないわけだから
   、残念よね。
   まあ、でもリアリティが持てるっていうか、そう錯覚させるところがデジタル
   にはありますね。私のこの1枚っていうのは  山下洋輔の「センチメンタル」
   なんだけど、これはあたかも自分がピアニストであるかのように、配列してあ
   る鍵盤の幅が見えるのね。目つぶって聞いてると。自分がピアノ弾く人間でし
   ょ。それが山下洋輔になるって感じがして、すごく異常なわけ。
   山下洋輔って前は好きじゃなかったのね。なんか意固地に闘ってるようなイメ
   ージがあったから。でも、これは例えば「スターダスト」のイントロとか、す
   ごい滑稽に聞こえるわけ。あと「ボレロ」とかもやってるんだけど、それはエ
   ンディングに向かって崩壊しつつある「ボレロ」って感じで、なんか大勢の人
   がワーッと騒いでて、でもその人たちの頭が実は子供の落書きみたいだったっ
   って風景が見えるんですよ。山下洋輔が弾くのを聞いてそう思ったことってな
   かったし、だから、それはCDのおかげかもしれない。」

   
 
  86年〜87年にかけてのインタビューですね。やっとCDが普及してきた頃で
  すから、CDって特別の表現メディアって感じで今、読むと違和感がありますね
  。でも、今も美奈子さん、「BELLS」の声の出来映えに満足していないのか
  しらねえ?アナログで録音していないはずだけど、そこらへんにも再発しない理
  由があるのかな? 今なら、もう少しリミックス技術とか向上してると思うけど
  。 

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