WEEKLY INTERVIEW 再録

 

(毎週土曜or日曜更新)時々臨時休業


               
   

    第35回 出典:「宝島」89年6月号
         「ROCKLAND JAPAN」
        ”DARK CRYSTAL”のレビュー他
            

      

                      インタビューQ:高橋健太郎   

    〜その人の部屋の中を見渡すと、その人の頭の中が分かる〜という
    説がある。吉田美奈子のアルバム「DARK CRYSTAL」(
    創美企画)を聴いて、僕はふとその言葉を思い出した。ほとんど彼
    女ひとりきりで録音されたというこのアルバムは、どんな小さな楽
    器音も、彼女の部屋の中に置かれた小物のように、そこにあること
    に話せば長い理由がある。そんな風に思えたことをインタビューの
    最初に伝えたら、彼女はにっこり「そう言われると、ああ、作って
    良かったなと思う」と答えた。


吉田(以下M)「他人が誰も入っていないでしょ。自分の書いた譜面にある音しかイ
   ンプットされていないわけで、そうすると当然、ボク自身のカラーがはっきり
   してくる。ボクは人間は歳をとるほど、その人らしくなっていくものだと思う
   のね。特にものを作る人は、自分の中にある一番プリミティブなもの、意識す
   る以前にそなわってしょうがないものに、近づいていく。そうやって自分の中
   のわからない部分、緻密な部分を発見していって、磨いていくことこそ本当に
   変わっていくことだって、それは前の”BELLS”を作ったころから強く思
   うようになった。
   最後はボクの声が前面にでる。それがコンセプトだから、今はもうサウンドに
   はそんなに凝ったりしないのね。芯のきっちりした良い音でさえあればよくて
   、ただ自分の声のためにオケを作っているだけですよ。ポップスとしての計算
   ?してると思いますか?(爆笑)。メジャーから出すっていっても、一般大衆
   に全然サービスしていない。不親切ですよ。歌詞にしても、”ブス”だとか、
   ”歯を磨け”とかヘンな言葉が多いって言われるんだけど、作為じゃなく、ボ
   クの中から出てきたものを吐き出していくと、そうなっちゃう(笑)。
   ひとりが伝わってくる?だって、みんな孤独でしょう。でも、たったひとりで
   いる時の方が楽で、心安まるんですよ。ボクは最近余計そういう風になってき
   て、人と関わりたくない。だから、何か対象に向かって歌っているとう意識は
   ないですね。何か見えない意識に向けて、声を出している」



    おまけ 出典:「LEE」89年6月号
        ”吉田美奈子さんおススメの、CDベスト10”


    「BELLS」  吉田美奈子(自主制作盤)
    「センチメンタル」  山下洋輔(キティミュージック)
    「DETOUR」  日野てるまさ(東芝EMI)
    「ドビッシー作曲ピアノ音楽全集第1集”沈める寺”」
              ワルターギーゼキング(東芝EMI)
    「ビビッド」   リビングカラー(EPICソニー)
    「ゴスペルライブ」   アレサフランクリン(BMGビクター)
    「ホワッツゴーイングオン」   マービンゲイ(BMGビクター)
    「フリーダム」   トラメイン(ポニーキャニオン)
    「ライブ」    エドウィンホーキンズ(ポニーキャニオン)
    「DARK CRYSTAL」  吉田美奈子(創美企画)


吉田「ニューヨークで初めてきちんとした教会のミサに行ったんです。土曜の深夜か
   ら日曜の明け方まで各地のバプディストチャーチから来たゲストが延々と歌い
   続ける。本物の信仰心からくるパワーってすごいでしょ。失神してしまう人も
   いるくらい。ゴスペルを聴いていると、エネルギーを与えて貰える、って感じ
   なんですね。
   ゴスペルって、日本ではまだ宗教的なイメージでとらえてられるけど、ブラッ
   クコンテンポラリーと変わらないんですよ。例えば、ホイットニーヒュースト
   ン。彼女の歌も、子供の頃から教会で歌っていたゴスペルがベースになってい
   るでしょう。だから、ゴスペルが何かわかっていれば、音楽の楽しみ方ももっ
   と広がるんじゃないかなあ。
   アレサフランクリンはゴスペルとポップスのアルバムを分けて出してるんです
   。アース・ウインド&ファイアーのボーカル、フィリップベイリーもそう。で
   も、これはゴスペルです、って書いてあるわけじゃないのね。ポップスでは恋
   人の名前を呼ぶところを、ゴスペルでは”ロード””ジーザス”って呼ぶ。違
   いはそれくらい。だから、ゴスペルだと知らずに聴いている人、いるかもしれ
   ませんねえ。
   尊敬するゴスペル形式で ということで、”BELLS”。手作りの愛情があ
   るんですよね。で、時々フッと聴きたくなる1枚なんですよ。」   




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