■ 砂礫の王国3




 戦闘があった洞窟から数日旅をし、やっと見慣れた道に辿り着く。
 季節が移り変わる程旅をしていた訳では無かったが、今回は通常よりも多少長い行程だったせいか、丘陵の向こうに建物の影が見え始めると、何となく帰って来たという実感が伴って、青年はひとつ息をつく。
 そう感じているのは青年だけでは無いようで、隣を歩いていたアリスも遠くの街並みを見ながら少し感動したような声を上げた。
「うっわ〜。なんだか凄い久し振りって感じがするね」
「そうね」
「二ヶ月ぶりだっけ?」
 アリスの問いに、少し考えてからイライザが頷いた。
「そうね…今回は情報収集で随分と遠回りをしてしまったから」
「もうそんなになるんだ…」
 少し驚いたような青年の呟きに、アリスの瞳が吊り上がる。
「そうだよ!あの偉そうな人が『成果が上がるまで帰って来るな』とか言ったばっかりに、こ〜んな長く出歩く事になったんだから!」
 その時の光景を思い出してしまったのか、アリスが忿懣やるかたないといった表情をした。
「偉そうでは無くて、実際偉いのよ?」
 今更何を。というように、イライザが小首を傾げる。
「……あの人は元々ああいう言い方をする人だから、気にしないで」
 少女二人の会話を聞いていて流石にあんまりだと思ったのか、横からそっとフォローを入れた青年に向かって、アリスは恨みがこもった視線を向ける。
「そんな事言って!結局解決するまで帰れなかったじゃない!」
「いや、まあ、それはそれとして……」
「大体、君は甘すぎると思うよ!だからああいう性格になったんじゃないの?」
「えー……流石に僕が育てたんじゃないんですけどぉ……」
 不用意な一言で、怒りの矛先が自分に向いてしまった事を知り、青年は苦笑する。
 こうなった時のアリスは暫く手が付けられない事は、今迄で十分学習済みだ。
 いくら人通りの無い道だとはいえ、今向かっている場所の最高責任者への罵詈雑言を垂れ流しているのはまずいな、と思っていると、ちょうど良いタイミングで柔らかい声が助けに入る。
「アリス、眉の間に皺が寄っているわ。あまり怒っていると取れなくなるわよ」
「ええっ!」
 指摘されるや否や、アリスは慌てて両手を額に当てる。
 その栗色の頭を撫でながら、イライザは諭すように呟いた。
「もう少しで到着するのですもの。もう怒らなくても良いでしょう?」
「え…う、うん……でもぉ……」
 渋々ながらも意外にあっさりトーンダウンしたアリスを見て、青年は内心胸を撫で下ろす。
 流石ずっと一緒に居るだけあって、イライザはアリスの操縦が上手い。
 今も、釈然としない表情をしているアリスに向かって、畳み掛けるようにふわりと笑う。
「戻ったらお風呂を沸かして貰いましょう。アリスはあそこのお風呂好きだったでしょう?」
「うん!」
 イライザの言葉に、瞳を輝かせてアリスが頷く。
「最近は野宿やシャワーばっかりだったもんね。やっと大きいお風呂に入れる〜♪早く行こう!」
 本当に嬉しそうなアリスを見て、二人は笑うのだった。






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