■ 砂礫の王国6




「全く……面白いものを見つけてくれたよ」
 くつくつと笑いながら、やけに楽しそうに上級天使は言う。
「結局奴等の思い通りの結果にはならなかったという事か」
「そう……なりますか」
 彼の私室に招かれ、笑い続ける上級天使を前にして、青年は複雑な顔をした。
 その顔を見、ふと彼は笑いを収める。
「私は今の彼らの役どころには満足しているよ。例え私怨と言われようと」
 教団を裏切り、巫女の身体に神を降臨させようとした彼らには。

 歌うように、彼は言う。

「報いを、受けて貰わないとならないだろう」

 結果的に世界を歪ませた罪の報いを。

 自分達から肉親を奪った報いを。

「ですが、彼らを扉の守護者として異形に創り換えた神の意図は何なのでしょう……?」
「そんな事は考えるだけ無駄だ。狂った神の思考など誰にも理解出来ない」

 そう。神は狂ってしまった。

 神の声を聞く筈の巫女も狂ってしまった。

 後に残ったのは、護り切れなかったという後悔のみだった。

 ふ、と、どこか疲れたように上級天使が息をつく。
「全ての扉を封印した後、こちらも対策を充分に講じてから神殿に向かうべきだろうな」
「……全ての扉を封印したら、神殿に行く手段が無くなりますよ」
 アリスとイライザが行う封印は、機能を封じるというよりも内部を破壊して機能停止にするような類のものだ。
 一度彼女達が機能停止にした扉は、今の技術では再生が不可能なのである。
 青年の言葉を聞いて、上級天使が嗤った。
「何を今更。お前には解ける筈だろう?……コリエル12号」
 はるか昔に使われていた呼称で呼ばれた青年は、曖昧に笑う。
「確証はありませんけど…まあ大丈夫でしょう」
「期待を裏切るなよ」
 上級天使の言葉に、青年は肩を竦めた。
「あまり過剰に期待されるのも困ります。……あぁ、思い出した。後で地下に行って来るので鍵を下さい」
 上級天使が眉を顰めた。
「封印が弱くなって影響が出ているみたいなので、確認がてら試しにいじって来ます」
 どことなく他人事のような言いように、紅の瞳が不快そうに細められる。
「この無能が。きちんと仕事をしろ」
「ひどいなぁ…あの時は夢中だったんですから。勘弁して下さいよ」


 裏切り者の代名詞のようなコリエルの銘を覚えている人間は、自分達を除いてもうほとんど居ない。
 皆、閉ざされた神殿の中で眠っているのだ。

 神という名の罪人と共に。






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