宰相の十八番「新庄弁のなにわぶし」

宰相小磯将軍は新庄の人、だが少年時代は父親の職場の都合で方々の土地で過ごした。生れは宇都宮だが決してそこを郷里とは云わなかったらしい。宴席での十八番は「新庄弁のなにわぶし」で、いつもバカ受けだったという。東京における同郷の宴席でもよくやったらしい。それを受け継いだ伝え語りは私も何度か聞かされたものである。以下。
(注;東北弁の「に」の発音は字では表せない。「に」と「ぬ」の間くらいの発音で鼻音に近い。「い」も同様で時に「え」となる場合がある。そこのニュアンスに留意)

前口上語り:「お早ばやど、おあずまり下せぇますてぇ、ただただ、わだぐす(私)、感謝のほがは(他は)、ねぇのであります。わだぐすがこんにづ(今日)あるを得ますたのは、じずに(実に)指折り数えですづねん間(7年間)、或いは水を飲み或いはすおをなめ(塩をなめ)、そうすてこんにづの(今日の)看板をきずげあげだ(築き上げた)のであります。こんしぇぎは(今席は)なにがいっしぇぎうががげぇますて(何か1席伺いまして)おあどおめあでど、こうてぇどいたすます(お後お目当てと交代と致します)。まづは上州は国定村、ながおがちちゅずのいっせぎ、はぁーいっ!(長岡忠次の1席、はい!)」

節:「ふりわげにもづをかだにかげー(振り分け荷物を肩に掛け)、こすにさすたるながいかだなぁー(腰に差したる長い刀)、せぎのまごろぐだべがなぁー(関の孫六だろうかな)、或いは村正の名刀だべがなぁーーー、ちょいとーわだぐすー忘れますたがぁー、ぬげばーたまつる(抜けば玉散る)氷の刃ぁー、これをこすにぃーーい(腰に)、ぶづごみますてぇー(ブチ込みまして)ブラルぶらるどぉー、いそがぁるるぅーー(ぶらりぶらりと急がるる)」

江戸っ子の客:「やいやいやい!てぁんでぇーべらぼう奴!何でぇー手前ぇの話は?ブラルぶらると急がるる、てぇのは一体ぇーどうゆうことなんでぇー?えー、おい!」

答えて:「えーと、お客様、おすづがに(お静かに)、侠客ともうすますのは(申しますのは)づづにあすが速い(実に足が速い)、えづにづに(一日に)三十里はあるぐ(歩く)、だがらぁー、ブラルぶらるはきもづ(気持ち)で、ずづづは(事実は)急ぎゆぐ、はぁーい!」
節:「ブラルぶらるどぉー、いそがぁるるぅーー、ど、きたぁー」
語り:「こうすて急いであるいでいぎますうづに(こうして急いで歩いて行きますうちに)、ひょいと手前の方がら御用のちょうづん(提灯)、これではいげないど、うすろさ(後ろに)逃げようどいたすますたなら、うすろの方がらも御用のちょうづん、最早ぁー手が回ったな、と、えい!と、気合いもろともにバッタ、バタバタ」

客:「あーあーあーあー、ったく、訛りが多くてちっとも分かんねえやなー」

節:「東京にはぁー、東京訛りぃー、おおさが(大阪)にはぁー、おおさが訛りぃー、訛りへったほがぁーー、あずがでるぅーー(訛り入った方が味が出る)」

客:「味の出るのはな、えっおい!カツ節だろうが?」

節:「かづぶすのはなすではないよ!っとぉー!わだすのはなすは、アッエン、なにわぁーーぶすぅーーーー」
(「カツ節」の話じゃーないよ、私の話は「浪花節」)