*郷土こぼれ話--1

「わらだえったら、どっかどすんべ!」

戊辰戦役で新庄藩は、庄内藩に攻め入られ新庄の家中家族は郷土立退きを余儀なくされた。徒歩による逃避行の苦労は察するに余りあるものがある。落ち着き先に至るまでの途中、方々の部落において割り当てられた家に厄介になるのであるが、必ずしもそれらの家で歓迎されたわけではないようだ。プライドの高かった家中家族はさぞ辛いことであり肩身の狭い思いをしたことであろう。
瀬川夫人の話にもそのような場面があった。
以下は私が少年の頃よく聞かされた話である。

曽祖母の家族一行が、ある部落で割り当てられた家に厄介になった時、そこの家のわらすこ(童子・少年)が木にのぼって枝を揺さぶりながら、家族一行に聞こえよがしに大声で歌うがごとく弥次った一言。「わらだえったら、どっかどすんべ!」(お前たちが行ってしまったら、さぞホッとするだろう!)と。
当時、肩身の狭い情けない思いで聞いたこの一言も、振り返へれば往時の懐かしい思い出のエピソードとして笑って語ってくれたものである。一方泊める家の方にしてみれば、いかに藩からのお達しとは言え、突然の見も知らぬ大勢の客を泊めることになった当惑ぶりも察せられ、母親の本音のグチが少年に伝わったのであろうか。少年の母親を気づかう思いも伺われる一齣ではある。