ジェームズ・ポッター少年の麗しき恋人、リリー・エヴァンスは言った。
「貴方達、知らないのね」
彼は談話室のソファに身体を沈めて、言い返す。
「初めて聞いたね、なんて名前。しかも、珍しいアジアン」
「悪戯にばっかりうつつを抜かしてるからでしょ」
「……」

愛しき恋人の口調は、なかなか厳しかった。











小       魔       ち        宴
悪       た        の



2  .  壁  は  2  つ  あ  っ  た











「それで…なんでリリーはあのって子を知ってるの?」
ジェームズのはす向かいにちょこんと座ったピーターが、小さな声で聞いた。
リリーは手元にあった紅茶のカップをテーブルに置いて、ジェームズの愛する笑顔で微笑んだ。

リリー・エヴァンスはその柔らかな物腰と性格からか、同寮にも他寮にもたくさんの友達を持っている。
しかし、リリーとてグリフィンドール生。敵対するスリザリン寮とは、お世辞にも仲が良いとは言えなかった。
あの少女―のような、寮の違いなどすっぽりと頭から抜けていそうな生徒は、例外かもしれないが。

「あの子は、一部ではちょっとした有名人なのよ。2年生のときに、日本から留学してきたんですって。
それにしてもあの子、本当に寮の違いを全然気にしていないらしいわね」
「そうそう、俺達のこと助けたんだぜ。スリザリン生が!」
横からシリウスが話に割り込んできた。

シリウス・ブラック少年の心中は今驚き半分、混乱半分だった。
ホグワーツに入学してからこれまで、スリザリン生達からかけられた言葉は全て厭味と罵りだったのだ。
そもそもシリウスも、スリザリン生に対しては厭味と罵り、おまけに拳しかお見舞いした記憶がないので
お互い様といえばそうかもしれないが。
そんな2年間を過ごし、そして昨日に会ってみたら、厭味も罵りも浴びせられなかったばかりか窮地を救われた。
3年目を迎えての急な展開に、シリウスの思考回路は上手くついてゆけなかった。

「とにかく、朝ごはん食べに行こうよ。食いっぱぐれたくないしね」
リーマスが談話室の扉に手をかけて、4人を促した。




「スリザリン…だよな?」
「シリウス、ちゃんと座って食べなよ…」

トーストをかじりながらローブの裾を引っぱるジェームズを無視して、シリウスはベーコンの刺さったフォークを握り締めたまま
席から腰を浮かせていた。もちろん、いつもは無視していたい緑色の軍団の中から、を探し出すために。
手に握るフォークの存在も忘れそうなほど必死に探すのに、グリフィンドールとスリザリンを隔てるハッフルパフが
余計な(失礼)レイヤーとなって、緑など見えたものではない。
いつもは感謝しているほどのハッフルパフが、今日は非常に邪魔で仕方がない(また失礼)。
向かいに座るリーマスもなにやら背後を気にしているらしく、彼の手にあるフォークが刺すはずだったソーセージの
脇をすり抜け、ガツンと何もない皿の上を刺したのをシリウス以外の3人は決して見逃しはしなかった。
シリウスはともかく、普段は比較的冷静なはずのこの友人の奇行ぶりには、ただ黙って苦笑するしかなかった。

そんな中。

「あ!」

いきなりシリウスが大声を上げた。
周囲にいた生徒達が揃って振り向いた。
シリウスのフォークが手から滑り落ちた。
リーマスのフォークは皿ではなく、テーブルを刺した。

「いた」

シリウスの視線は真っ直ぐに、テーブルに着いて朝食を取りながら隣にいる生徒談笑している
―その人を見つめていた。
彼女が笑顔を向ける隣の生徒は他の生徒に隠れて見えないが、彼にとってそれはもはやどうでもよい事だった。
走りはしないが大股で足早に、の元へ向かう。
シリウスがスリザリンのテーブルへ自主的に向かうのは、これが初めてのことだった。


!」

スリザリンテーブルの近くまで来たシリウスがに声をかけた時、の隣にいた生徒もその声に顔を向けた。
その途端、シリウスの顔が苦虫を噛み潰したように歪む。

「わざわざスリザリンのテーブルまで来て何の用だ、ブラック」
「スネイプ…」

シリウス達と同学年、そして彼らの宿敵とも言える少年―スリザリン寮のセブルス・スネイプもまた、朝から不機嫌
極まりないといった表情をさらけ出していた。セブルスは、シリウスの顔を見てしまってはもう食欲もないといった感じで
フォークとナイフを(彼にしては)やや乱暴に、皿の上に戻した。
そんな険悪な雰囲気を分かっているのかいないのか、先ほどまでセブルスと話していたがシリウスに向かって
小さく手を振ってみせた。

「やっ、おはよう。ブラック君とやら」
「お、おう…」
、こんな輩と喋るな。吐き気がする」
「セブ大丈夫?背中さすってあげようか」
「いらん。そこのが去れば自然に治まる」
「てめぇ…」

幾らでもレパートリーのある罵りの言葉を吐こうとして、シリウスは押し止まった。こんな不毛な…そう、全くもって不毛な
衝突の為に、わざわざ敵寮のテーブルまで足を運んだ訳ではないのだ。


に出会ったあの瞬間から、シリウスには予感がしていた。
この少女が、自分達に退屈しない毎日を約束してくれる。
根拠は無いはずなのに、その予感はシリウスの心をしっかり掴んで離さなかった。
まるで、この時をずっと昔から待っていたかのように。



「なに?」
にこりと笑うの顔が、昨日の出来事が夢ではなかったと教えてくれる。
「昨日はホント助かったよ」
「わざわざそれ言いに来てくれたの?グリフィンドールの君が、スリザリンのテーブルに」
おかしそうに笑う。どうやら、双方の寮生たちがお互いをよく思っていいない事は知っているようだ。
それを知ってなお自分のスタンスを崩さないを、シリウスは一層面白い少女だと思った。

「また後で話そ。ブラック君、ここ結構居心地悪いんじゃない?」
言われて周りを見渡せば、そこにはセブルスを筆頭にシリウスを睨み付ける蛇の目が無数にあった。
否、セブルスは既に無視を決め込んで、眉間に皺を寄せたまま紅茶のカップに口をつけていた。
「あ…そか。じゃあ、また後で」
「うん。また後でね」

約束を作れたことに、シリウスは喜びを隠せなかった。
一度出会っただけの人とまた約束を取り付けられるのは、偶然に出来るものではない。自分が会いたいと思って、また
相手も自分に会ってもよいと思ってくれるのなら、それはとても有難い事なのではないだろうか。

シリウスがそんなことを一瞬考えていると、今まで彼を無視していたはずのセブルスがくるりとシリウスに向き直った。
、こんな奴を誘うんじゃない。下手すると僕までこいつに会う羽目になるじゃないか」
「なんでお前がついて来るんだよ!」
「あら、だってセブは友達だもん」
思わず喧騒になりそうなところで、がセブルスのローブをきゅ、と握って朗らかに言った。
それに対して、セブルスもまんざらでもなさそうな顔をして口を閉じ、もう一度開いた。

「いいか、僕達に近づくんじゃない」
「聞いてなかったか?俺はお前とじゃなくてと約束したんだぜ。お前がどっか行ってりゃいいだけだろーが」
「お前よりもこいつと付き合いの長い僕がなんでどっか行けばいいのだ」
「やだぁ、セブルスいつもはお前なんか知らんって言うのに、今日はなんだか友達っぽいね!」
「お、お前は黙っていろ!」
やや混線してきた。
とにかく、約束は取り付けたのだ。たとえ、セブルスがおまけについてきたとしても。
無理してこれ以上ここに留まる必要はない。
「またな」
シリウスはきびすを返すと、若干普段よりざわついているグリフィンドールのテーブルへ戻っていった。



それにしても、壁がハッフルパフだけではなかったとは。
目の届かないところにしっかりと守られたに会うのは、なかなか大変なことのようだった。











ふざけ過ぎました、いろいろと…こんなにふざけてたら怒られそうですが…。
ハリポタキャラたちのおつむを弱く書きすぎですね。無駄な口喧嘩の多いこと多いこと。
もう路線はギャグ+逆ハーで決定のようです、コレ。


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