大切な人だなんて、自分には幾らもいない。
きっと、必要とも思っていない。
気付かないから、言える事なのか。
自分を暖かく見守る、その視線にも。
それを実は、心地良いかもしれないと思っている自分自身にも。










フ ラ ジ ャ イ ル ・ ハ ニ ィ [ 1 ]











「セーブルス!」
グリフィンドールの。この少女の声は目覚ましよりも響き渡り、教会の鐘より力強い。
朝のすっきりした目覚めを通り越して、体力を奪われるような感覚に陥るのは果たして僕だけだろうか。
「セブってばーぁ」
目覚ましも鐘も、誰かが止めなければ長い間鳴り続けるものである。
この声も例外ではなく、誰かが止めるまで辺りに響きっぱなしなのだ。否、止めても止まらない場合もあるが。
「五月蝿い、聞こえていないわけがないだろう」
「じゃーなんで返事してくれないのっ」
当然。返事をしてもしなくても状態は良い方へ向かないことを、今まで嫌という程学んできたからに他ならない。

「えっへっへ、セブルスのとなりだぞ」
ぴったりと僕の左側について、そのまま歩く。なぜか、僕の右側には来ない。
―どちらに付こうが、進みにくいことこの上ないのは変わらないだろうが。

「朝食はちゃんとグリフィンドール寮のテーブルで取れ」
くっついて歩かれるのを見逃して、しかしせめて釘はさしておく。
この間はスリザリンのテーブルまでついてきて一緒に食事を取ろうとしたものだから、周りからじろじろ見られて大変恥ずかしい思いをした。「スネイプ、彼女が出来たのかよ?」と同じ寮の生徒に言われた時は、口に入れたサラダを飲み込めないほどに固まってしまったが、は一向に気にしていないようだった。
その台詞に肯定も否定もせず、ただ隣でへらへらと笑っていた。何が可笑しいのやら。

「あは、やっぱりダメかぁ。ごめんね」
笑う。だから、何がそんなに可笑しいのだ。
一度尋ねたことがあるが、の返事は僕にはよく分からなかった。
「可笑しいんじゃないよ、セブルスと会話してんのが嬉しいの」
何かとにかく恥ずかしいことを言われたので、ただ五月蝿いと言った。
五月蝿い。五月蝿い。
それでもこの少女を追い払おうとしない自分の心境とは、一体どうなっているのだろう。


「セブルス、挨拶くらいしてくれると嬉しいな」
「なんでお前に挨拶しなければならない」
「いいじゃない、減るものじゃあないんだし。人に会ったらご挨拶は大事だよ?」
「…おはよう、元気か」
「うん、おはよう!げんきだよ!!」
また笑う。
短い時間でそんな風に何度も笑えるとは、おめでたい奴だと思った。
いつも不思議に思うのだ。が何に対しても、本当によく笑うのを。その瞬間が幸せで仕方ない様に、笑うのを。
この状態の何処がそんなに幸せなのか分からないが、無理に笑っている様子もない。
ただ、その刹那が大切な宝物でもあるかのように、幸せに笑う。

知る必要もないけれど、何故、と思う。





「じゃーね、セブルス!また授業でね!」
ホールの入り口で自分の名前を大音量で呼ばれ、皆が振り返るそのあまりの恥ずかしさに絶えられず、そそくさとスリザリンのテーブルへ向かった。

テーブルにつくと、他のスリザリン生がニヤニヤと笑って、グリフィンドールのテーブルにいると目の前の僕を交互に見比べられた。こういった雰囲気は苦手だから、全てを無視するに限る。
が、なんとなく気になってちらりとグリフィンドールのテーブルを見やる。
そこにはの代わりに、僕を睨みつける輩がいた。
本人達が名乗っているのか、悪戯仕掛け人というふざけた呼び名で有名な奴らだ。にこそこそと話しかけながら、それでも僕を嫌な眼で見ることをやめない。さすがに居心地が悪くなって、僕は目の前のテーブルに視線を戻した。
僕には何の関係もないのに、何故あいつらに睨まれなければいけないのか。
皆目見当が付かなかった僕は、やはり全てを無視することに決めた。



笑う生徒も、睨みつける眼も、そしても。
まったく、分からない。











みじかい。えーまぁ、続き物ですから…。
なんだかグリフィンドール陣がものすごく悪人な感じになってしまった。
いや彼らはホントはいい奴らさ!


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