「おい」

常々思うのだが、それは他人を呼ぶのに相応しくない言葉だ。
―そこまで考えたところで、自分もこの言葉であの少女を呼んだ事があるような気がして、ほんの少しすまないと思った。

「おい」

声のトーンが少し上がる。が、僕は振り返らず廊下を歩く。
きっと声の主は朝食の時のことを、あれこれ難癖つけてくるつもりなのだろうから。

僕が一体何をした?
腹の奥底で、自分自身に問うた。










フ ラ ジ ャ イ ル ・ ハ ニ ィ [ 2 ]











「そこの蛇…!聞いてんのかよ!」
つくづく礼儀を知らない男だ、この男は。
声も足音もだんだんボリュームが上がり、奴がこちらに近づいてくるのが分かる。
トラブルという代物はやけに僕を好いているようで、それならば抗うことも無駄なのかと悟り、足を止める。
あくまで…そう、あくまで、不本意ではあったが。

「なんだ、黒いの」
せめてもの抵抗。
九分九厘何か言い返されるだろうと思っていたのに、ブラックは険しい顔つきのまま、僕を睨みつけただけだった。
苦い顔つきでそこに突っ立っているが、たぎる炎の様な雰囲気はなく、いたって冷静に…けれども確かに、何かに苛ついている様子だった。
一触即発というよりは、まるで冷戦の幕開けのような。

「おまえ」
「なんだ」
に近づくなよ」
やはり、あいつの話だ。少し頭痛がした。

が勝手に近づいてきている。僕は知らん」
自分は正論を述べている。言い訳でも何でもない、実際にそうなのだからそうとしか言えない。

「じゃあもっと、受け入れてやれよ。俺としてはこんな事言いたくないが」
「なんだそれは、矛盾しているぞ」
を傷つけないなら、どうでも好きにしろってことだよ」
吐き捨てるように言った。
本当に、何もかもが見えない。

頭の奥がまた、ツキンと痛む。

「もう一度言う。のほうから、近づいてきたんだ。
僕は良くも悪くも何もしていないのに、僕に愛想も尽かさないし離れもしない。
毎日ヘラヘラ笑って、くっ付いてきているだけだ。全くおめでたい奴だな、お前の友人は」

自分でも分かるほどに、言葉に勢いがつき、刺々しくなる。分かってはいた…が、欠けた冷静さの端はなかなか手元に戻っては来なかった。
一気にそれだけ言って、ブラックを視界の端でちらりと見やると。
すぐ傍にいるこの男の顔は、押さえ込まれた怒りで蒼白になっていた。


「…顔が笑ってれば、笑ってることになるのかよ」


目の前の僕を刺し殺せそうな視線で一瞥すると、ブラックはきびすを返して去っていった。

僕が一体何をした?
腹の奥底で、もう一度、自分自身に問うた。






「あいつのことを、何も知らないくせに」
去り際のブラックの声が、やけに耳に残った。











つ、つまんねっ!!なんだかほんと暗いし…。
ヒロイン名前だけ。これではなんだかまるでシリウス×セブルスのようです。あわわわ…!!


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