〈インフレ情報〉

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        大型インフレの足音が聴こえる
                                  99-2-17 掲載
                                ’99-4-16 更新

                        



 「償還能力を超えた政府債が大インフレ以外の方法で清算されたことは、かつて一度もなかった!」
 
 ’98年秋、気鋭の経済学者がこう喝破した。財政再建路線の完全凍結、国債大量発行による大型予算、日銀による国債直接引き受け要求の高まり、インフレの足音は心しずかに耳をすませばはっきりと聴える。
 
 自分は、不動産の鑑定評価の実務家としてインフレと不動産価格について関心を持ちつづけてきた。予測される大型インフレの中で不動産はインフレヘッジ商品としてどこまで機能するのか、といった切り口で、このホームページを充実させていきたい。

 

  ○国内・国外経済からみたインフレ期待論・必然論

 ’99年3月末で中央・地方の長期債務残高は544兆円に達した。この膨大な債務返済のために、政府はインフレ策をとるのではないかという「期待」が高まっている。かつての「バブル再来」の期待は今や、インフレ期待・インフレ待望にかわりつつある。銀行も企業も「土地神話」復活の望みを捨てきっていない。     
 
 たしかにインフレには多くの「メリット」がある。企業にとっては借入金の返済額が減り、不良債権問題も片づく。政府は、国債の負担も減り、税収も増えるから、国庫も楽になる。家計にとっても住宅ローンの返済が楽になる。                                
 
 「何でもあり」の小渕内閣の経済政策のもとで「調整インフレ策」は有力な選択肢の一つと世間ではみられており「インフレ」という言葉はタブーではなくなった。
 
 筆者の見るところ、インフレ期待論はいわば表流であり、底流はインフレ必然論に変わっている。歴史の節目には「徳政令」としてのインフレがしばしば登場したし、償還能力を超えた政府債が大インフレ以外の方法で清算されたことが、かつて一度もなかったのも歴史の教えるとおりだ。
 
 インフレ賛成派の主張は、「日本経済の現状はインフレ回避、財政再建、景気刺激、不良債権処理のどれかに一時的に目をつむる必要がある」との論から、「日本経済が、インフレに頼ることなく、景気停滞を長引かせず、不良債権問題を処理し、その上政府の財政再建を果たしたとしたら、それは歴史的な快挙である」とまでエスカレートしている。加えて、「今や世界はいかなる物質にも裏づけられない通貨を使うペーパーマネー時代だ。財政・経済政策でも、金本位時代とは違った発想が必要だ。日本もこれに対応した『新思考』の財政政策(インフレ)を採ることが歴史的に求められている」との「理論武装」にまで進んでいる。
 
 世界経済がらみでのインフレ必然論も声高になっている。「米国がすでに返済不能な水準まで、累積債務が貯まっているのは周知のことだが、その結果としてドルの弱体化が顕在化すると、ドルを基軸とした国際通貨体制は崩壊する。国際貿易なしには存続しえない日本経済は破滅する。これを防ぐには円を弱体化することで、ドルの弱体化を隠蔽するしか方法はない」。
 
 「円は世界の基軸通貨たりえないのだから、日本の生きる選択肢は、破滅への道を進みつつあるドルに依存するしか方法はない。つまり、日本経済はアメリカ経済と心中するしか道がない」。
 
 「赤字国債の乱発、その結果としての大インフレというのは日本にとってまことに厳しい選択である。しかし大不況による経済の破滅、米国との対立との果てに待つ平和の喪失という二つの大問題を同時に解決するには、その他の選択はない」とまで言いきる論者もいる。米政府高官の最近の対日発言も注意深く見守る必要がある。

 

 
 ○経済の底流はすでにインフレに向かって動いている

 公定歩合が史上最低の0.5%に引き下げられてすでに3年7ヶ月。日銀は返済される可能性が少ないことを承知のうえで、預金保険機構を通じて受け皿となる金融機関に大量の資金を貸し付け、大蔵省は国債の大量発行路線に踏み切った。構造改革による財政再建のシナリオが空中分解したいま、国債の大量増発が現実化した。大蔵省は、国債大量発行の消化先として、日銀による直接引き受けを検討している。「日銀の外堀は埋められた、ダメ押しが日銀への国税調査だった」と見方は穿ちすぎであろうか。     
 
 この4〜6月以降、雇用悪化から追加経済対策の議論が高まり、日銀に国債の直接引き受けを求める大合唱が起きたとき、「国家百年の計を考えれば、日銀の国債引き受けは絶対にしてはいけないことだ。財政の節度がなくなり、本物のインフレにつながる(日銀首脳)」との姿勢を貫き通せるか否かが大きなポイントだ。
 
 巷間、伝えられるところによれば「財政でハマの大魔人を繰り出した以上、財政法の拡大解釈あるいは改正を行い、日銀の国債引き受けでインフレ政策に踏み切るしか手はない」というのが官邸筋の描くシナリオらしい。たとえ積極的にインフレ等を志向しなくとも、不良債権処理で多量の流動性を供給し続ければ、結果として同じことになる。
 
 最近の長期金利の上昇(=国債等の値下り)は規律なき財政政策に対するマーケットからの警告と考えることができる。なぜならば、今日の景気刺激策は明日の増税かインフレに直結することをマーケットは知っており、現在の公的債務が名目GDPの120%、戦時下の昭和17年の水準に達していることをマーケットは気にしているからだ。
 
 公的債務が名目GDPを上回るということは、名目GDPが長期金利の利率以上に成長するのでなければ、日本経済全体としては公的債務利払の原資を賄えないという単純な原理をマーケットは経験的に知っている。
 
 長期金利の上昇というマーケットの反応に危機感を持って対応したのが米国だ。
 
 資金は相対的に金利の低い国から高い国へ流れる。そのため日本からの資金の流入が減り、さらに資金が逆流して逃げ出すと、米国経済は大きな打撃を受ける。日銀が短期金利ゼロ%という金利政策手段としての最後のカードを切ってまで長期金利を抑えにかかっている事情もこう考えるとよく分かる。問題は世界史上初めての「未踏の金融実験」を長期にわたって続けることの結果がどうでるかである。インフレという切り口で日本経済をみる場合、この問題からも目が離せない。


  ○インフレを起こす手法                  
                                  

 食糧危機、石油危機、戦争の危機などの外的要因をきっかけに、インフレが起きることも軽視すべきではないが、我が国が当面しているのは財政危機、財政破綻によるインフレだ。
 
 インフレを起こす手法としては、「ヘリコプターからお札をばらまく」「ビンにお金を入れて川に流し、子供に拾わせる」「全国民に商品券を配る」といった戯画的なものから、「国債を日銀が大量に買い上げる。国債が足りなければ、景気刺激の減税や公共投資を強化して、それを国債発行で賄い、その国債を日銀が買い上げる」という本格的手法までメニューは多い。そのメニューの一つとして次のようなシュミレーションが描かれている。

 @銀行預金・農協預金500兆円、郵便貯金240兆円、合計740兆円の10%程度(70兆円〜80兆円)が何らかのきっかけで払い戻しの動きが起きる。まちがいなく取付騒ぎになる。

 Aなぜかといえば、日銀の通貨発行額は50兆円、70兆円〜80兆円の払い戻しにはたえられない。政府は、一時預金を封鎖するしか手がない。大混乱の後に、政府は国債の日銀引き受けに踏み切り、インフレ策をとらざるを得なくなる。

 B日銀券の増発は150兆円程度と推定される。この場合300%のインフレとなる。つまり物価は4倍、預貯金の価値は1/4になる。

 C大量発行された国債は大暴落、国内の資金は海外に大量に移動する。結果として、急激な円安、1ドル300円〜500円の水準と予想される。なお、作家の邱 永漢氏は、日銀券は100兆円増刷され、100兆円÷1,200兆円≒8%、つまりインフレ率は8%〜10%程度と予測している。

                                                                                                  

  ○インフレはいつ起きるか

 インフレの様態・原因としては@コストインフレ(賃金等の上昇率が生産性の上昇率を上回る場合)、A生産性格差インフレ(中小企業の財・サービスが割高の場合)、B財政インフレ、C輸入インフレ(輸入品の高騰、円安が進む場合)等があげられる。
 
 どのようなインフレがいつ起きるか。それはどの程度の率で、いつまで続くか。インフレの時期と高さの予測を的中させた人はそれだけで大きなビジネスチャンスをつかむことができる。株価の底値と上値を予測するよりむずかしいとされている。しかし、心静かに世の中の心音に耳をかたむけ、世の中の底辺の変化と流れに目をこらせば、その足音を聞き分けることができるし、その姿もみえてくる。
 
 まず、国内経済面からの予測では、デフレと低金利の時代が終わりに近づき、インフレと高金利に向かう時代が近づきつつある。これに国家的破産(財政破綻)が重なれば、おそくとも2010年前後には大インフレの嵐がこの国に吹き荒れる。
 
 国際経済面からの予測では、深刻化するデフレ傾向の回避策はみあたらず、世界のほとんどの国が通貨供給量の増大による問題の解決(インフレ政策)を迫られている。日本も例外ではない。したがって、早ければ2000年から2003年にかけてインフレ傾向になる。食糧や石油といった資源の需給バランスという視点からは、世界的なインフレ傾向は、2005年、遅くとも2010年には大規模に表面化すると予測されている。
 
 ドルの暴落が世界的なインフレの引き金となるケースも考えられる。
 
 基軸通貨ドルが金との兌換性を失って18年、このことは金融危機など有事の際には通貨価値の大変動をもたらす可能性を秘めている。その可能性の一つとして、仮に、今の米国で金本位制を復活させるとすると、金の価格は時価(280ドル/トロイ・オンス)の15倍、4,200ドル/オンスとなる(米国のマネーサプライ総額1兆1,000億ドル÷米国の公的金保有量2億6,100万オンス)。単純にいえば貨幣価値は15分の1、物価は15倍のインフレということになる。
 
 この可能性は大きいものではないが、ドル紙幣の増刷に支えられている米国経済と、その米国経済を支えている日本の保有外貨や世界経済のシステムとしての弱点を測るモノサシとしては役に立つ。

  ○インフレのデメリット・反対論

 いうまでもなく、インフレになれば実質資産は減少する。国民の預貯金は目減りする。高齢者、年金・利子生活者は一方的に負担が増える。結局、弱者の負担で問題を処理しようとする政策であり、政治家、経営者、国民を思考停止に陥れ、モラルハザードを招来する。
 
 「マイナス2%程度のデフレ経済で腰を抜かして『何でもあり』の愚策を連発するのではなく、覚悟を決めてデフレに対処する必要がある。消費税は5%では足りない。10%でも15%でも受け入れなければならない。目先、成長率はさらなるマイナス、失業率はさらに上昇する。しかし、その先に展望を示すのが政治だ。5〜10年先の構想を掲げ年度ごとの課題を達成していく。日本はそれに耐える生活水準にあり、体力もある。『大きな絵』を示しながら、国民に覚悟を問う政治家が求められている。」これは、まさに正論であり、気概のある卓説だが、指導者以下だれもが責任をとるべきときに責任をとらず、説明責任(アカウンタビリティー)もとろうとしない我が国で、はたして受け入れられるであろうか。       
 
 まともな議論もなされないまま、状況に流され、結果として大インフレの道に流されていく気がしてならない。
 
 「小選挙区制では、正論を言う議員は当選できない。票が減る演説をしないで、国の運営をどうするかといえば、答えは借金だ」渡部恒三副議長の最近の指摘は正鵠を得ている。

  ○インフレ不可能論

 インフレ期待論・必然論・反対論を検討した以上は、インフレ不可能論についても論じなければ公平さを欠くし、世の批判にも耐えられない。
 
 我が国でインフレが話題になりだしたのはMITのクルーグマン教授の「調整インフレ論(インフレ・ターゲティング政策)」が紹介されてからだ。教授は「通貨の無制限供給や高め目標インフレ率設定のウルトラ金融政策を、中途半端ではなく、ラジカルにやれ」と主張する。しかし、「日銀の国債引き受け」論は主張していない。インフレ不可能論の多くは、この「調整インフレ論」に対して向けられたものである。主な論点は以下のとおりである。
 
 「デフレ的傾向は、先進国に共通した現象である。冷戦終結後、大量の労働力が低賃金で世界市場へ参入した結果であり、低価商品の大量生産という世界経済の反映としてのデフレであるので、インフレは起こらない。」
 
 「調整インフレ論者が期待するほど、インフレは容易には起こらない。印刷された日銀券は、金利差などから海外へ流出してしまう。」
 
 「インフレ期待は、景気が良くならないと高まらない。インフレ期待を高めることによって景気を良くするという発想そのものに無理がある。」
 
 「政府の成長率見通しが信頼されていない状況下で、インフレ・ターゲットだけは信頼され、インフレ期待がつくり出せると考える根拠は薄い。」
 
 「’98年12月時点の需給ギャップがGDP比で9.3%、金額で45兆円に達しており、インフレは起きない。」
 
 これらの「インフレ不可能論」がいちいちもっともな主張であり、特に「GDP比9.3%、45兆円の需給ギャップ」の存在は「インフレ必然論」の最大の弱点である。しかし、需給ギャップ論(需給ギャップが大きいからインフレは起きないとの主張)は製造業についてはともかく、金融については当てはまるかどうかは大いに疑問である。
 
 「未踏の金融実験」「本邦初体験」の状況に置かれている日本経済に、お手本や先例はない。原点に立ち返って、自分の頭で考えぬくしか、先を見とおす方法はない。
 
 そこで、まず原点に戻って、金融面からみた日本経済の現状についておさらいをしてみる。一言でいえば、金融システムの損傷が激しく、銀行の信用創造機能が正常に働いていないのが金融の現状であり問題点といえる。つまり、いくら金融の量的緩和を行っても借りる人がいないわけだ。特に過剰設備をかかえている製造業にはカネは回らない(借りる人がいない)。世の中にはカネがあふれているのに生産活動にカネが回らない。だとするとどういう事態がこれから起こるか。「初等経済学」の教えるところでは、すべての値段は最終的には需要と供給の関係で決まる(マーケットで決まる)。「借金の値段」つまり金利も市場原理の例外ではない。これを単純化して図示すると以下のとおりとなる。

                                                                            

通貨の需給関係が悪化する場合のケーススタディー

 

        通貨供給増大      通貨需要減少

                                       


          カネ余り         製造業など
                       前向きの   「借金」需要減少
                       借入希望者・
                       借入額減少

                            ↓                       


    カネの値段下落 (相対的な)物価上昇
      (その予測)  ・インフレ(その予測)

 

                           

カネを借りたい人が             カネを貸した
増える。カネを貸す側            人は多いのに
はインフレ(予測)率  = 金利上昇圧力   借りる人は  = 金利低下圧力
より高い金利を求める      が働く   少ない、つまり     が働く
つまり人々のインフレ            借りる側が有利で
予測率・インフレ              金利を下げる
期待率は(市場)金利を            方向に作用する。
押し上げる方向に
作用する。
     

このケーススタディーはカネ余りという実態経済の中で、金利上昇圧力と金利低下圧力のせめぎ合いが行われていることを示している。これからカネ余りが一層進むとしたらついには金利上昇圧力(=インフレ期待・予測)が打ち克って市場金利が上昇に転じ、45兆円の需給ギャップを乗りこえてインフレの波が押し寄せるとみるのはシロウトの浅知恵か。
 
 なぜか「金利は実態経済の体温である」という言葉が思い出されてならない。

                                                                                                  

  ○迫りくるインフレにどう対応するか

 かつて、インフレへの対策・対応策としては、借金をして土地を買うことであった。年率7%程度のインフレで10年後に借金は半分になり、土地の値段は3倍程度になったのだから「土地神話」は実は「土地実話」であったといえる。しかし、来るべきインフレに備えて土地がどの程度有効な対応策であるかは、日本の土地に限って言えば大いに疑問である。日本の土地価格は米・英と比べて3倍程度高く(土地価額はまだまだ下がる)、今後10年程度をかけて米・英の水準まで相対的に低下すると予測されるからである。むろんインフレの進行に伴い土地価格も上昇するが、かつての株と土地の資産インフレのような急上昇は期待できないし、対GDP3倍の水準から対GDP1倍程度の水準になると考えられるからである。
 
 さらにバブルの崩壊で株と不動産には日本中がみんな懲りてしまっているし、人口がもう増えないなかで、日本人の購買意欲が土地に集中するとは考えにくい事情もある。しかし、これはあくまで土地一般の価格水準が対GDPとの比較において下がると言うことであって、優れた環境・立地条件の土地や、安定した収益を生む優良物件はインフレヘッジ商品として充分に機能することはいうまでもない。問題は優良物件をいかに見きわめ、タイミングよく手に入れることができるかである。
 
 その他の伝統的なインフレ対策、インフレヘッジ商品としては、金(ゴールド)、外貨(ドル・ユーロ)、株式(世界で通用する優良企業の株)、教育・資格取得などの「人財投資」があげられる。リスクの大きさ、リターンの安定性等を自分の頭で考えぬき、自己責任での対応が基本であるが、今、打つべき手、対応等としてはあくなき情報収集と分析・研究であり、アンテナを高く広く張りめぐらすことではなかろうか。

  ○モスクワでの収益物件としてのアパート経営のケーススタディー

 ’93年12月、ある日本人が自分が住む目的でモスクワ郊外のアパート(56u)を38,000ドルで買った。実際に住んだのは数ヶ月で家賃250ドル/月で在モスクワの外国人に貸している。表面利回り(250ドル×12ヶ月=)3,000ドル÷38,000ドル=7.9%
 
 その後ロシアのインフレ率は約6,000倍である。
 
 ’99年2月、このアパートは450ドル/月で外国人に貸している。業者の値踏ではこのアパートの価格は現在46,000ドルである。現在の表面利回りは(450ドル×12ヶ月)5,400ドル÷46,000ドル=11.7%となる。
 
 日本人所有者の利回りは5,400ドル÷38,000ドル=14.2%、インフレヘッジ商品として十分に機能している。

●ポイント
・ルーブルでなくドルで契約していること。
・外国人に貸していること。
・住宅事情の悪い(競争相手のアパートがすぐにはできない)モスクワ市内の物件であること。

●リスク
・法律が変わって外国人が不動産を持てなくなるリスク。
・住まざる者、持つべからずと法律が変わるリスク。
・空室になるリスク。
・管理上のリスク。

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