ナボコフおもちゃ箱 2005年







CD La Boheme

これも「ナボコフ関連グッズ」として「おもちゃ箱」に入れてよいものかどうか迷いますが……ナボコフの息子Dmitri が若き日のパヴァロッティと共演した『ラ・ボエーム』のCDです。Dmitriは、ハーヴァード大学を卒業後、法科大学院に合格していたのですが、音楽の道を選び、オペラの勉強をしてバス歌手としてデビューしました。後にはオペラの演出の仕事もしています(一時期はカーレーサーでもありましたし、また父親のロシア語作品の多くを英語に翻訳しています)。ナボコフ夫妻がアメリカを離れてスイスのモントルーに移った理由のひとつは、イタリアで仕事をする息子の近くにいたいから、というものでした。このCDは現在入手が困難かもしれませんが、Amazon.comのサイトでDmitriのコッリーネが歌う"Vecchia Zimarra"の視聴ができます。







CD  I Promessi Sposi


ふたたび迷いつつ、Dmitriでもうひとつ。実はご本人に教えていただいたのですが、Manzoniの小説にもとづいたAmilcare Ponchielli作曲のオペラI Promessi Sposiで、DmitriがMagda Olivero、Giuseppe Camporaと共演しています。1973年12月23日、サン・レモでひらかれたManzoniの死後百年を記念する公演(ハイライトだった模様)を録音したものがCDになっています。(これもレアもののようですが、Amazon.comのマーケットプレイスから入手できました。購入希望を出しておいたら、突然何点か現れました。まだ出ている様子です。2005年4月22日現在)。
『透明な対象』のWeb版の註をご覧になった方は、フランスのスポーツカー「アミルカー」をご記憶かと思います。註にも書きましたが、「アミルカー」は、カルタゴの将軍ハンニバルの父親の名前でもあります。Amilcare Ponchielliは、三番目の「アミルカー」ということになりますね。ナボコフが『透明な対象』を書いていた時、すでにこの「アミルカー」が頭にあったかどうかはわかりません。『透明な対象』は、1972年4月1日に完成しています。オペラの配役や練習はどのぐらい前から始めるものなのでしょう?







本  
La ressemblance suivi de La feintise

「おもちゃ箱」の本棚には、ナボコフの作品から生まれた、日本ではあまり知られていない(と思われる)本たちを並べようと思います。
この本は日本ナボコフ協会の会報でも紹介しましたので、ご存知の方もおいでかと思いますが、一冊目の本にふさわしいと思い、ここに出すことにしました。La ressemblanceは、実験的な作風のフランスの作家Jean Lahougueの小説でナボコフの『絶望』の「書き直し」、続くLa feintiseは、Jeff Edmundsによる、La ressemblanceの「書き直し」あるいは「消去」なのだそうです。Jeff Edmundsは、ナボコフサイト
Zemblaの管理人です。本業(?)はペンシルヴェニア州立大学図書館の司書で、8ヶ国語を駆使して蔵書の分類の仕事をしている人です。フランス語は、ロブ・グリエの小説を原語で読みたい一心で独学でマスターしたとか。画家でもある彼は、この本の表紙に使った絵も自分で描いています。この多才な人物は確かに実在しているようですが、本の著者紹介を読むと、Jean Lahougueの紹介をいちいち否定した文が載っているだけなので、大変怪しく見えます。「Jeff Edmundsは、1945年生まれではない、1980年にMedicis賞を辞退していない、Mayenne在住ではない……」La feintiseの中同様に、Lahougue氏がここでも「消去」されているかのようです。
La ressemblanceを英語で読みたい方のために。Jeff Edmundsによる英訳がNabokov Studies第2巻(1995)に掲載されています。







本  Lo's Diary

おもちゃ箱の本棚にもう一冊。この本は、『ロリータ』に関連した本の棚に置くことにします。
『ロリータ』の書き直し、あるいは『ロリータ』にもとづいた小説は他にもありますが、イタリアの女性作家Pia Peraによるこの小説がおそらく一番『ロリータ』の細部に沿って書かれていると思われます(ご紹介しているのは英訳版です)。
この小説は、ハンバートと暮らしていたロリータがリアルタイムで書いていた日記の体裁を取っています。John Ray(Jr.はつかない)による前書きでは、パリのOlympia PressのDr. RayのもとにDolores Shlegel旧姓Mazeと名乗る若いアメリカ人女性が、夫のRichard と5歳ぐらいの男の子を連れて現れ、日記の出版を希望します。この前書きには、つい引き込まれてしまいます。再会したロリータにハンバート(この小説ではHumbert Guibert)が渡した小切手は実は不渡りだったとか、この小説が出版された1995年に85歳になっているGuibert氏が自分の娘アナベル(料理女との間に生まれたムラート)に世話をされ、テニスや郵便によるチェスを楽しみながら、リヴィエラで幸福に暮らしている、というあたりも楽しめます。
「日記」では「何がロリータに起こったか」を「リアルに」書くわけですから、ある程度は陰惨な話になってしまうことを免れませんが、この小説は少なくとも悪趣味な「暴露本」ではありません。この小説のロリータは、哀れな被害者としてよりも、賢く独立心に満ち、絶望的な状況を生き延びる強さを持った孤独な少女として描かれています。

この本の出版に際しては、著作権の問題でだいぶもめた経緯があります。ほとんどそのことについてのみ書かれたDmitri Nabokovによる前書き「『ローの日記』と題された本について」がついています。







CD
Speak, Memory

ジャズピアニストRoberta Piketのトリオのアルバムです。"Speak, Memory"はPiketのオリジナル曲で、タイトルはナボコフの自伝から取られています。彼女が8歳の時に亡くなった父親の膨大な蔵書の中にナボコフの本がたくさんあり、父が好きだった本に熱中することで父や過去とつながることができたと感じたそうです。「すべての芸術は、どれほど抽象的なものであっても、自己言及的です。これらの曲をとおして私の過去と現在が私に語りかけてきます。どうかあなたにも語りかけてくれますように」(ライナーノーツより)。PiketのHPはこちらです。







CD I'm Back In Therapy And it's All Your Fault

やはりRoberta Piketのアルバムですが、こちらではAlternating Currentと組んでいます。「またセラピーに逆戻り、みんなあなたが悪いのよ」といういかにも現代アメリカ風のタイトルをかかげたエレクトリックのアルバムです。一曲目に"Conclusive Evidence"がはいっている他、"Speak, Memory"がまた違った印象で聞けます。







論文とエッセイ  "The Original of Laura: The First Look at Nabokov's Last Book" & "After Laura"

McSweeney's 8 (2002)に掲載された二篇です。論文は、バーゼルの大学教授でPeter Handkeの専門家であるMichel Desommelierが、ナボコフの遺作原稿の一部を発見し、それについて分析を加えたもの、エッセイのほうは、La feintiseで紹介したJeff Edmundsが、Desommelier論文発表の顛末について書いたものです。この論文は1998年にZemblaに発表され、著作権の問題をめぐって一騒動あったのですが、実際はMichel Desommelierという人物も、ナボコフの遺作原稿も、すべてJeff Edmundsの創作だったのです。Desommelier論文中に引用されたThe Original of Lauraの一部があまりに巧みであったため、息子Dmitriもナボコフ研究の世界的権威Brian Boydも贋作と見抜くことができず、未発表のナボコフ作品を無断で論文に引用し、ウェブサイトに掲載した「違法行為」のため訴訟にまでなりかけたということです。論文中に紹介されている謎の女性の絵(Lauraのモデルとなった人物らしい)もJeff Edmundsによるものですが、The Original of Lauraの(実在しない)本の表紙としてZemblaで見ることができます(Works→The Original of Laura)。




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