こんちは!
あらためてよく読むと、まあ、なんとか、つじつまは合っていると思いました。
市原さんの手慣れたまとめぶりによるところ、大 ☆
『うそ』の感想
お題
前にも書きましたが、小説、文芸とは「嘘」のかたまりのようなものでしょう。
このお題なら、どのような内容であれ、顔は立つというところ。
全くこの「うそ」ということに文中で触れないとしても、それはそれで雰囲気あるよなあ、と各章を待ちました。
※ 出題の際、市原さんが「うそ」をHTMLで赤色にしてあったので、「真っ赤な嘘」のシャレなんだろうなあ、とおかしかったです。(^^)
起
自殺寸前の人の心境、ということなのでしょうねえ・・
アブナイ!
> だがしかし、そんな生活とも今日でお別れだ。。
> 昔決めた理想に、今から少しでも近くに行きたい。
> 覚悟はすでに出来ている。
ここは両様に取れるんですよね。私は最初は、とても前向きな決断、と取ったのですけど、起を終わりまで読んでまた戻れば、「理想」はどうやら現実界とは無縁なようだし、「覚悟」とは死のことらしい。
そして「変に、最後は自分を納得させ」て、飛び込む・・
アブナイけど、やけに真に迫って書けてるなあ、うま過ぎるのがヤバイなあ、と感じましたよ (^^;
> 一呼吸ついた頃、急に、弾かれるように体が前に飛び出し、構内速度75キロで進入してきた、環状線のフロントガラスに、僕の体は強く打ちつけられた。
承
十中八九というか、まず助かりません。
主人公が死んでしまうのですから、続けるとしたら、他の人物を立てるか、死後の世界か、というところです。けれど、後者については第十七作『桜の樹の下で』の起承を、やはりNONTANさん、和香で担当したときに類似をすでに書いています。同じ担当者で同じ展開というのも芸が無さすぎ、と思って、選びませんでした。
起のラストをよく読み返してみると、これを「最期の意識」と取ればそのままですけど、どことなく電車と衝突する自分の身体を斜め上方あたりから眺めているというようにも感じられます。
よって、決行寸前に、次の瞬間自分はこうなるという想像を頭の中で思い描いている、その状態ということにしました。実際問題として、この決行寸前の想像をそのまま実現させてしまう人のほうが少ない、と思いますし。(つまり、まさか、あぶねえ・・とたいていは思いとどまる)。
想像という「うそ」が、「うそ」のまま儚くなったり「ほんと」になったりして、仕分けされていくのが、人生なのかも。
承の内容は、起と同時刻、同じ駅のホームに居合わせたアタシ(たぶん女性)の独白調にしてみました。
主人公(たぶん男)が、アブナイ想像をしているまさにそのとき、背中を叩いて驚かせる、というシチュエーションまで、ですね。(笑)
「背中をどーんと叩いた」とちょっと大げさにしておきましたので、そのままほんとに落ちてしまって、という可能性も消さないでおきましたが、こちらには話は進まないだろうというのが私の予想でした・・ (^^;
なお、主人公とアタシは、大企業の社員と出入り業者のデザイナーというところです。お得意様と下請け、というそのままでは、商売臭が邪魔になりそうなので、主人公の部署とは直接の取引はない、というふうに細工しました。
ですから、二人しか登場させていないつもりだったのですが・・
転
> 無視されているのか、返答がない。仕事に没頭してると思いきや何やらパズルを解いてるみたいだ。
以下、パズル誌を二人で覗き込むかの情景ですし、駅のホームではないようです。
オフィス内の、このパズルを解いている男とアタシのかけあいから、承で述べた「遊びにいったら、一人一人仕切りのあるコンピュータだらけの部屋で仕事していた。」という辺りのことを言っているのだな、と分かります。つまり、過去のことのようです。
しかも、このパズルを解いている男は、起承で登場している主人公とは別人であったというのが、転の終わりで分かるという仕掛けでした。
・・・・・
なぜこうなっちゃったんだろうと不可解だったのですけど、よくよく考えてみれば、承の次の部分、
> 今日も、むしゃくしゃしたから寄ってみたんだけど、彼はブースにいなかった。
> 外回りの日なのかな。
> アタシは、そっと近づいて、背中をどーんと叩いた。
> 「やあやあ。元気〜」
これをアタシの独白調(回想)から駅のホームでの現実(知り合いの背中を叩く)へとつながる描写とした私とは違い、花島さんは、この回想が途切れずオフィス内のことがまだ続いているという風に見立てたわけですね。
ううむ・・。転として「あざやか」かも!
あるいは、「異常感覚」という気もしますけど(笑)
そこで「彼はブースにいなかった」のに「背中をどーんと叩い」ているわけですから、もう一人登場人物が要ることになった。なるほどです。
しかしこれは、まとめづらいだろうなあ、と思いました。
一方では自殺寸前の主人公が現在ホームにいるわけですから、パズル好きの三人目をどうするかが、悩むところですか。
> 「じゃいつもの時間にいつもの場所で?」
> 軽くウインクして答えた。でも場所や時間は言ってくれたことはない。
ここ気に入りました。さすが、花島さん。
まあ、日頃やってるそのままなのでしょうね(^^)
結
三人目の彼はばっさり切って、という決断でした。
さらには、本当にホームに落ちちゃったという展開。
それでも生きている、のですから、「うそ」そのものでしょうか。
物語の楽しさって、こういうところにあるのかもしれませんね。
「うそ」と言うといけないようだけど「奇跡」と言い替えて祝福することもできる。
深刻な悩みを抱えていても、頭ではありえない展開と分かっていながら、「うそ」が祝福されるうちに幕となってみれば、力が抜けるような、ばからしいような。暫時でも解き放たれてその悩み事から距離を置くことができる、客観視できるようになる、そいうこともあるのでしょう。
> 「ご返事は、いつもの時間にいつもの場所で?
> 言い忘れたけれど、さっき云ったこと嘘なの。命に別状なくて助かったのが奇跡だそうよ」
市原さん、ふだんの生活も好調なのでしょうか。明色の、温かい気持ちが伝わってきます。
それに、花島さんの名文句を一番いいところに据えて、起承転をそつなくまとめ上げる。
4章小説の結の書き手として、もう完成の域かと感じますよ。
↓
「完成」に安住はせず、またそれを壊して、・・というふうに、動的に進んでいく、とは推察しますけれど。
起の彼を、見事に、裏返してしまった。
こうやって章を継いでいくうちに、「うそ」を「うそ」に替えていくうちに、いつのまにか「ほんと」が手中にある。・・そんな神事もあったかと記憶しています。