「この時間にアイツが一カ所に留まって居るとも思えねーな。適当にぶらつきながら探すか」
自分の行動方針をそう決めたビクトールは、ひとまず建物の外へと足を向けた。
天気が良く、暖かな風が心地よく身を包んでくる。その心地よさに瞳を細めて澄み渡った青空に視線を向けていたら、幼さがにじみ出している甲高い声が耳に届いた。
「あーーーっ! 熊のおじちゃんだーーー!」
「ホントだっ! おじさん、遊ぼぉ〜〜〜〜〜!」
嬉しそうに騒ぎながら駆け寄って来た子共達が勢いよくビクトールの足にぶつかり、しがみついてきた。
その身体をなんなく受け止めながら、苦笑を漏らす。そして、軽く子供達の頭に拳を落とした。
「誰が熊のおじさんだっ! ビクトールお兄さんと呼べっ!」
「えー? でも、青いお兄ちゃんが、アイツは熊だって、言ってたよ?」
「――――青いお兄ちゃん?」
「うんっ! 熊のおじちゃんといつも一緒にいる、綺麗な顔のお兄ちゃんっ!」
「――――アイツは兄ちゃんなのに、俺はおじさんなのかよ…………」
四つしか離れていないのに。
なんとなく納得できないモノを感じて低くうめき声を漏らす。
だが、ここで「俺の事もお兄さんと呼べ!」と騒ぐのは大人げない気がしないでもないと思い、ビクトールは引きつりながらも笑みを返した。
「あ〜〜………その青い兄ちゃん、今日はここに来なかったか?」
「ううん。朝からここで遊んでるけど、今日は来てないよ」
「そうか」
ならば外には出ていないのだろうか。それとも、別の出入り口から外に出たのだろうか。
同盟軍の本拠地であるこの城は、増改築を繰り返して複雑な作りになってしまったので、一人の人間の目撃証言を得るのは難しいのだ。
例え、これ以上ないくらい目立つ配色を纏っている人間の目撃証言でも。
探している人物は、目立つようで全く目立たないように気配を殺せる男な事だし。
「こりゃぁ、気合い入れて探し出さねーとまずいかな」
目についた人間一人一人に、「フリックを見なかったか」と問いかけて歩かないとまずいかも知れない。そうすれば、誰か一人くらいは彼の姿を見ているかも知れないから。
ならば、のんびりしている暇はない。さっさと行動に移らねば。
そう考え、ビクトールは子供達に向かってニカリと笑いかけた。
「んじゃあ、青い兄ちゃんを見かけたら俺が探してるって伝えておいてくれよ。じゃあ、邪魔して悪かったな!」
遊びに戻ってくれと瞳で告げながらフラリと手を振ったビクトールは、子供達から視線を反らしてその場を後にしようとした。
が、その動きは強い力で腕を引っ張られたことで止められた。
「おじちゃん、遊ぼうよっ!」
「いつも遊んでくれるじゃない〜〜!」
「この間、次は湖で泳ごうって言ってたから、おじちゃんが来るの待ってたんだよ? 連れてってよ!」
期待に満ちた瞳と言葉を向けられ、ビクトールは足を一歩引いた。
こういう目には大層弱いのだ。思わず要求に応えてしまいたくなる位に。
だが今は暇ではない。いや、仕事は無いから暇と言えば暇なのだが。
「あ〜〜〜…………」
間の抜けた声を出しながら、しばし考え込んだ。







【遊ぶ】  【断る】