ホウアンの自信ありげな姿に心は揺れたが、彼は平気でウソを吐く男だ。
人の良さそうな笑顔を振りまいてはいるが、この城でも指折りの食わせ物だ。信用しない方が身のためだろう。
だが、『媚薬』という淫靡な響きに心を引かれるのは男の性なのか。はたまた、冒険をしたくなることが男の性なのか。ビクトールは抗いがたい誘惑に負け、大きく頷いた。
「分かった。その話、引き受けるぜ」
その言葉に、ホウアンの顔がパッと輝いた。
そして、もの凄く嬉しそうに微笑みかけてくる。
「ありがとうございますっ! 貴方なら、そう言って下さると思ってましたよ」
ニッコニッコと常以上に満面の笑みを浮かべたホウアンは、「では早速」と、手にしていた三本の小瓶をテーブルの上に並べて見せた。


 赤と、黄の、二色の小瓶を。


「中の成分は、みんな違います。全部試したい所ですが…………フリックさんの隙をつける事なんて、そう何度もないと思いますので、チャンスは一回きりと考えた方が無難でしょう。ですから、その一回に命を賭けるために、お渡しするのは一本だけにします。どれにするかは、貴方が選んで下さい」
「…………は?」
なんでそんな重要な事を自分に選択させるのだろうか。一番自信があるモノを渡せばいいのではないだろうか。
そんな疑問を感じながらホウアンへと視線を向けると、彼は困ったように微笑を浮かべた。
「どの薬にどんな薬品を混ぜ合わせたのかはちゃんと分かっているのですが、その薬を飲んだ人間にどんな効果が出るのかは、正直分からないんですよ。普通はやらないような調合をしているので」
「…………おい、お前。そんな怪しげなもん…………」
「大丈夫ですよ。フリックさんなら何を飲んでも死にはしないでしょうから」
妙にキッパリと言い切ったホウアンの言葉と態度に、ビクトールは何も言えなくなった。
彼の眼差しに、抗いがたい迫力があったために。医者の言うことだから、信用しても良いのかなと、うっかり思ってしまった。
その考えとホウアンの気迫に押されるように、ビクトールはテーブルの上へと手を伸ばした。
「じゃあ…………」




  

【黄色の小瓶】 【赤い小瓶】