「じゃあ、こいつを貰っていくかな」
「お願いします。飲んだ後にどんな変化があったのか、しっかり観察して事細かに報告して下さいね」
「おう、任せろっ!――――ってか、コレはどうやって飲ませれば良いんだ?」
「お酒に混ぜるのでも直接それだけ飲ませるのでも、どんな手を使っても構いませんよ。ただし、全部綺麗に残さず飲ませて下さいね。中途半端な量だけ摂取すると効力が少なくなりますから」
「おう、分かった」
さっくりと、結構無茶な要求をしてくるホウアンの言葉に軽く頷いたビクトールは、腰に下げていた袋の中にその小瓶を放り込み、医務室を後にした。
そして、廊下を歩きながら腕を組み、首を捻って考え込む。
「どんな方法でも良いって言われてもなぁ…………」
どんな方法を用いろうとも、かなり大変な作業になりそうな気がする。何しろ、フリックは隙の無い男だから。その上、城の住人の殆どに知られていないようだが、かなり賢い男だ。妙な仕草をしたらすぐに感づかれてしまうだろう。その男に気付かれずに薬を飲ませるなんて事は、至難の業だ。勢いで安請け合いしてしまったが、確実に実行できる可能性は極めて低いだろう。
とはいえ、引き受けたからには挑戦してみないといけない。やらない内に諦めたら男が廃る。と言うか、かなり試してみたいのだ。男として。
いつ何時でも余裕を持って事に当たっているように見えるあの男を、骨の髄までとろけさせてしまえるかも知れないこの薬を、試してみたくて仕方ないのだ。
『翌朝腰が立たなくなるまで抱き倒す』
それが、ビクトールのささやかで密やかな夢だった。かなり実現出来そうに無いのだが。
その実現不可能かと思われていた夢が、もしかしたら叶うかも知れないのだ。多少命の危険を感じようとも、挑戦せずにはいられない。
挑戦するだけの価値は、あるだろう。
そう、自分を奮い立たせる。
「んじゃま、まずはフリックを探すかな――――」
目標物が目の前に無いことには、どうしようも出来ないし。まずは彼の姿を捕らえ、その捕らえた場所に着いてから更なる作戦を組み立てていくことにしよう。
そう己の行動を決めたビクトールは、キョロリを辺りを見回した。フリックが居そうなのはどこだろうかと、考えながら。







風呂場に行く】 【フリックの部屋に行く】 【城内を彷徨く】